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第63話 虹竜シャバゾウの戦い

 カリナ達とケールが戦っている中。


 オレはシャバゾウ共に、変幻自在の刃男である斬月と超硬質鱗を持つドレイクと対峙していた。


 特にシャバゾウは眷属に当たる竜人族ドラクノイドのドレイクに対して、これまで見たことがない程の唸り声を上げて威嚇している。

 いつも憶病な幼竜の癖に随分と攻撃的であった。


「シャバゾウ、無理するな。まずオレが二人の相手をするから下がっていろ」


 オレはそう指示するも、隣に立つ幼竜は首を横に振るう。

いきなり単独で駆け出して行った。

 やはりドレイクを目掛けて向かっている。


「んだぁ、テメェ!」


 ドレイクは刃が反り返った大剣を容赦なく振り下ろす。


 シャバゾウは素早く飛び跳ね回避し、奴の長い首に噛みついた。


「アホか! んなもん、くすぐったくもねぇわ!」


 オレの攻撃ですら、ほぼ無傷であるドレイク。

 当然、そんな攻撃が効く筈もない。


 ドレイクは首に噛みつくシャバゾウを鬱陶しそうに引き離して摘まみ上げ、自分の顔へと近づけてじぃっと見据えた。


「――ん? よく見たらテメェ……あの時、逃げたレインボウ・ドラゴン虹竜のガキか!?」


 あの時だと?

 こいつ、シャバゾウを知っている。


「どういうことか聞かせろ!」


「待て、『死神セティ』。貴様の相手は俺――うっ!?」


 斬月が言いかけた途端、オレは『超神速化』の片鱗を発動させ、奴の背後に回っていた。


「……斬月、悪いが1分だけ時間をくれ。その後、思う存分に戦ってやる」


「ぐっ、わかった……(まるで動きが見えなかったぞ)」


 斬月は頷きながら、オレとの距離を置いた。


 ドレイクは「斬月よぉ、いつも偉そうにしている癖にダッセェな!」と罵り笑いつつ、「まぁ、別にいいだろう」と詳細を語り始めた。


 シャバゾウの親とされるレインボウ・ドラゴンは神の眷属とされ、太古よりグランドライン大陸を中心に竜達を支配していたらしい。

 そしてドレイクのような竜人族ドラクノイドを生み出し奴隷として扱っていたようだ。


 時が経つにつれて竜人族ドラクノイドは知恵をつけ始め、やがて恩寵ギフト系スキルなど強力な能力に目覚める者が現れるようになり、次第に均衡が崩れ始めた。

 ついに奴隷だった竜人族ドラクノイド達の反乱が起こり、双方の戦いは激化し苛烈を極めて共に滅びの道を歩んだそうだ。


「んで生き残ったのが、俺様とこの幼竜ガキってわけだ。しかしよぉ……あれから300年前の話だぜぇ。なんてテメェはまだ幼竜ガキのままなんだぁ? ああ!?」


 ドレイクの話が本当だとすると、シャバゾウは300歳を超えている。

 確かに奇妙な話だ。


 竜の成長は相当早い。

 エルダードラゴンでも1年で成竜となる筈だ。


 ヒナの話によると、シャバゾウは負傷中のところ彼女に拾われて以来、そのままイオ師匠に飼われた経緯があった。

 話を聞く限り魔獣売買専門のハンターに追われ逃げていたようだ。

 あの憶病な正確から、ずっと身を隠して生き続けてきたのだろう。


 きっと何かしらのショックを受け、自分から成長を止めていた可能性がある。


 しかしわからない。


「長い歴史の中での種族間による争いがあったとはいえ、憶病なシャバゾウがそこまでお前を憎むのはどうしてだ?」


「んなもん、決まっているだろ? 300年前の反乱を焚きつけ先導し、でこいつの母親を殺したのは俺様だからだよぉ! こいつの目の前でなぶり殺しにした上でなぁ! んで泣きながら尻尾を巻いて逃げちまったってパターンだぜぇ、ギャハハハハハ!!!」


 なるほど、それでショックを受けて成長を止めてしまったのか。


 シャバゾウ……。


 オレは短剣ダガーを握る手に力を入れる。


「――話はわかった、ドレイク。そろそろシャバゾウを離せ……でないと後悔することになるぞ」


「死神、テメェが俺様を殺すってか? 傷ひとつ付けられねぇ、テメェに何ができる? いくら『時』と止めようとも不可能なもんは不可能なんだよぉ、ギャァハハハハハ!!!」


 大口を開け高笑いする、ドレイク。

 すっかりオレに成す術がないと判断し勝ち誇っている。


 確かに通常攻撃なら、奴にダメージを負わせることは不可能。


 ――あくまで通常攻撃ならな。


 ずっと摘まみ上げられている、シャバゾウは長い首を上下に振り始める。

 ドレイクと間近で向き合う形で、自分の顔を掲げた。


「ギャワ――!」


 刹那、シャバゾウは口を開ける。



 ゴォォォォォ――!



 炎を吐き、ドレイクの顔面に浴びせたのだ。


「ギャアァァァァァァァ! 目がぁ、俺様の目がぁぁぁぁぁあ!!」


 堪らずドレイクはシャバゾウを放り投げる。

 両目を抑え悶え苦しんでいた。


 放射された炎により瞳を焼かれたようだ。


「だから後悔するって言ったろ? なるほど、甲羅の無い部分への攻撃が貴様の弱点か」


「ク、クソがァ! 何も見えねぇ!! 何も見えねぇよぉぉぉぉぉ!!!」


 思わぬ奇襲攻撃にドレイクは取り乱している。

 吠えながら、ひたすら大剣を振るって動き回っていた。


 シャバゾウは地面に着地し、すばしっこい動きでオレの背後に回って隠れている。

 この辺がこいつらしい。

 恨みのある敵に一矢報いただけでも大活躍だ。


「よくやった、シャバゾウ! 後はオレがやる――ぉぉぉおおおおお!!!」


 オレは全身の力を滾らせ、一気に臨界点まで膨張させた。

 漲った力の解放後、オレは光速を超える存在となる。



 ――時間を支配する『超神速』へと!



 バシュ



 ドレイクの上顎から頭部にかけて両断され華麗に宙を舞った。


 頭部が地面に落下したと同時に、残された胴体部分から血飛沫が噴出する。

 ドレイクはそのまま両膝をつき倒れ伏せた。

 明らかに絶命しており、二度と起き上がることは皆無だろう。


 亡骸のすぐ傍には、オレの姿がある。

 短剣ダガーを突き上げる形で構えていた。


 時を停止させたと同時にオレはドレイクに接近し、取り乱し大口を開ける奴の口腔内に短剣ダガーをねじ込ませ、上顎から頭部を両断して吹き飛ばしたのだ。


 ドレイクは内部からの攻撃に弱い。


 シャバゾウが勇気を出してヒントを与えてくれたおかげだ。


 オレは振り返り、ある男に対し鋭い眼光を向ける。


「――斬月。次はお前の番だぞ」


 浴びせた言葉と殺意に対し、斬月は両腕を組みながらニヤッと微笑を浮かべている。

 こいつ……その気になれば加勢もできただろうに、ずっと黙認していた。


 斬月はドレイクを見捨てたようだ。


「『死神セティ』、ようやく貴様と一対一で勝負することができる……この時をどれほど待ち望んだことか」


「そういや『最強の称号』とか言ってたな? オレにそんなものなどない。ボス、いやモルスが組織ハデスの広告塔として勝手に祭り上げただけだ」


「違うな……最強とは個人が勝手に言いふらして広まるものじゃない。確かな実績と功績の中、周囲から称えられ伝承されていくものだ。『死神』の名は、それだけ貴様が裏社会の連中から認められた証だということ。ずっと俺は貴様を越えたいと思っていた」


「肩書が欲しいならくれてやる。もう二度と、オレ達の前に現れないと誓うのであればな」


「無理だな。俺は貴様を斃す! 実力で『死神』の名と『組織ハデス最強の称号』を奪う――!」


 斬月は異常なほど口角を吊り上げ、地面を蹴り迫ってきた。

 いつの間にか両手には柄のない刃剣が握られている。


 奴は身体中から無数に刃を出現させるスキル能力を持つ。


「そうか、ならば殺す!」


 オレは狼狽することなく両手の短剣ダガーを構え迎撃に備える。


 ちなみに切り札である『超神速』は連続して使用できない。

 次の発動まで一定の待機時間が必要となることが欠点であった。


「死ねぇい、死神ッ!」


 斬月が繰り出す、刃が首元に襲ってくる。

 オレは二刀の短剣ダガーで弾きながら踏み込み、奴の懐の中へと潜り込む。


 だが斬月が持つ恩寵ギフト系スキル《無限刀流》が発動し、腹部から複数の刃が出現して襲い掛かってくる。


「二度、同じ轍は踏まない――しかし!」


 オレは全身を捻らせ、全の斬撃を躱し切る。

 そのまま地面を滑らせる形で下半身への攻撃を試みるも、今度は奴の膝から脛にかけて刃が出現し迫ってきた。


 やむを得ず後方に飛び跳ね、一度、斬月から離れて体勢を整える。


(クソッ……『超神速化』でないと迂闊に攻め込めないか)


 始末したドレイクは「最強の防御力こそ最大の攻撃」と豪語していた。


 対して斬月は真逆のタイプ。

 最強の攻撃力こそが最大の防御と化している。


 まさに戦闘狂である斬月の気性をそのまま顕現したスキル。


 オレはそう悟った。


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