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第59話 最高位の暗殺者達

「ひょっとしたら僕を追ってきた暗殺者アサシンかもしれません! 僕だけでも至急現場に向かい、必ず奴らの暴挙を止めてみせます!」


 僕は椅子から立ち上がり、リーエルさんにそう伝えるも彼女は首を横に振るった。


「セティさん、お独りではここから抜け出すことはできません。この地は精霊達が創り出した結界で守られており、認められたエルフ族でない限り自由に出入りができないのです」


「じゃあ、あたしがセティを案内すればいいでしょ?」


 ミーリエルも立ち上がり、僕との同行を望んでいる。


 だが相手は『四柱地獄フォース・ヘルズ』かもしれないだけに危険相手だ。

 しかし今の状況では彼女に頼らなければならない。

 ちなみにエルフの戦士達は元女王リーエルさんを守る使命があり、ここから動けないという決まりがあるようだ。

 妖精族は人間よりも掟や習わしに厳粛な種族である。


「わまった。頼むよ、ミーリ」


「うん、任せて!」


「ミーリ一人で任せておくわけにはいかない! ここは我らも馳せ参じようではないか!」


「カリナの言う通りですね! きっとわたしのような回復師ヒーラーも必要となるでしょう!」


「勿論、魔法支援も必要よね、セティ君!」


 カリナだけでなく、フィアラとマニーサも一緒に行きたいと言ってきた。

 確かにミーリエル一人を同行させるよりかは良いかもしれない。


「当然、アタシも行くネ! 部下の仇を討つヨ!」


 パイロンも共に戦うことを希望している。

 この子は闇九龍ガウロンのボスなので問題ないだろう。

 寧ろ傍にいてくれた方が心強い。


「わかった。一緒に行こう! ヒナはシャバゾウとポンプルと一緒にここにいてくれ。その方が僕も安心だ」


「うん。わかったよ、セティお兄ちゃん」


「うぃす、セティ様。了解っす」


 ヒナとポンプルが理解を示す中、何故かシャバゾウだけが首を横に振るう。


「ギャワ、ギャワ、ギャワ!」


 やたらと興奮して、僕のズボンの裾をかじって引っ張っている。

 なんだ? またポンプルに警戒しているのか?


 僕が監視していた限り、これまであいつが妙な真似や行動をした素振りは見当たらなかった。

 だからと言って、まだ100%信用しているわけじゃない。


 しかしながら周囲にはミーリエルさんとエルフの戦士達がいるからな。

 村に住んでいる一般のエルフ達でさえ、ポンプルより戦闘力が高い者ばかりだ。


「じゃあ、こうしよう。ポンプル、お前も僕達と共に来い。戦闘に参加しなくていいから、遠くで身を潜めて見ていろ。途中で逃げ出しても構わない。自分の命を優先してほしい」


「そういうことなら問題ないっす」


「ギャワ、ギャワ、ギャワ!」


 まだシャバゾウは興奮して、ズボンを引っ張るのをやめようとしない。

 いい加減ズボンが下がりそうだ。


 どういう意思表示なんだ?

 まさか……。


「シャバゾウ……ひょっとしてお前、僕達について行きたいのか?」


「ギャワ!」


 シャバゾウは瞳を輝かせて頷いた。


 マジかよ……いつも臆病な幼竜なのにどういうつもりなんだ?


「……そのレインボウ・ドラゴン虹竜、同胞の存在を感じているかもしれません」


 リーエルさんが瞳を細め言ってきた。


「同胞? 同じ竜が近くにいるって意味ですか?」


「はい。あるいは自分に近い存在……眷属の竜かもしれません」


 眷属の竜? 

 『四柱地獄フォース・ヘルズ』の中に、竜を操る魔獣使いテイマーがいるとでもいうのか?


 けどリーエルさんは《先見》スキルを持っているからな。

 直感や憶測で言っているわけじゃなさそうだ。

 一応、念頭に入れておくべきだろう。


「わかった、シャバゾウ。お前も連れて行く……但しポンプルと同様、離れた場所にいるんだぞ」


「ギャワ!」


 長い首を大きく振り喜びを表現する、シャバゾウ。

 こいつもすっかり僕に懐いてくれたな。


 それから準備を整え、僕達は現場へと向かった。






 森が炎上している。


 辺りに爆発音が鳴り響く中、巨大な火の玉が上空から降り注いでいた。


「な、なんなんだ!? 奴らは――うわぁぁぁぁ!」


「いかん! 撤退ッ、逃げろぉぉぉぉ!!!」


 エルフ兵達は悲鳴を上げ、吹きあがる灼熱から必死で逃げている。


「クソォッ、弓矢が通じない! 何故か途中で軌道が変わってしまう! 仮に近づいても瞬く間に斬り殺されるか粉砕されてしまう……あんなバケモノ達、一体どうすればいいんだ!?」


 悲鳴と怒号が飛び交う中、エルフ兵の誰かが疑念をぶつけた。


 炎に照らされる全景、四つの陽炎が浮かんでいる。

 漆黒のマントを羽織った四人組、並ぶシルエットはバラバラで個性的な体躯ばかりだ。

 そのうちの最も小柄な者がマントを外して本来の姿を露わにする。


 既に顔バレしている小人妖精リトルフ族のパシャだ。

 パシャは恩寵ギフトスキル《|歪空間領域《ディストーション》》で周囲の空間を歪ませ、エルフ兵達が放つ矢の射線を全て反らし回避させた。


「それじゃ、ケール。『死神』の炙り出し頼むよ~!」


『パシャ如きが……この偉大な「魔賢者」の私に指示するなんて憎たらしい……いや憎い! 憎いぃぃぃ! ヒェェェェェェイ――《|爆炎弩級破壊砲《ボンバー・ブラスト》》!!!』


 ケールは絶叫しながら両腕を掲げる。

 露出された腕は極度に細く、まるで骨と皮のように痩せていた。


 その両掌から大きな火球が出現し上空に昇りながら、より巨大化する。

 一定の距離で火球は破裂し、その破片が隕石の如く地上へ降り注ぎ森一帯を火の海へと変える大惨事を招いていた。


 業火の中を悠々と歩く『四柱地獄フォース・ヘルズ』達。

 パシャの《|歪空間領域《ディストーション》》スキルのおかげもあり、傍にいる他の三人も炎の影響はまるで受けてない様子だ。


「全然歯ごたえがねーな、エルフ共ッ! 俺様の出番がほとんどねぇじゃねーか!? なぁ、斬月!?」


「……まぁな、ドレイク。だが最初から連中なんぞ眼中にない。俺の目的はあくまで『死神セティ』ただ一人――クッ!?」


 燃え盛る炎を抜けて高速に飛来する二本の小剣ナイフ



 キィン!



 斬月は逸早く気づき、右腕を振り払う形で小剣ナイフを弾いた。

 その際、金属同士が弾き合う音が鳴り響く。


 だが一本の小剣ナイフは巨漢の男ことドレイクが羽織るフードの中へと入って行く。

 通常なら顔面か頭部に突き刺さり絶命するところだが、こちらも硬質の何かと接触する甲高い音と共に小剣ナイフが弾かれ地面に落ちた。

 ドレイクはまるで何事もなかったかのように平然としている。


「んだぁ、こりゃ? エルフ共の仕業か?」


「……違う。俺達の周辺はパシャの歪曲空間領域内だ。こちらまで正確に届くには、それ以上の圧倒する力が要求される。つまり俺達以上の《|生体機能増幅強化《バイオブースト》》の使い手、極めし者……」


「――『死神セティ』ってことだろ!? 物凄い殺気とスピードだ――前方から来るよ!」


 パシャが叫び、他の三名も身構える。


 燃え盛る炎の海をものともせず、寧ろ吹き飛ばす勢いで疾走する者の姿があった。





**********



 ミーリエルの案内で精霊の結界を抜け、外界に出た僕はそのまま単身で駆け出した。

 逸早く『四柱地獄フォース・ヘルズ』の凶行を食い止めるためだ。


 その間、女子達が森の消化活動を行いながら負傷しているエルフ兵の救出と救援を行うことで取り決めている。

 勿論、ポンプルもその活動を手伝わせるよう指示した。


 奴らの目的は、あくまで僕の命だからな。

 これ以上の犠牲者を出さないよう、苦し紛れに小剣ナイフを投げてみたが、案の定大した効果はなかった。

 しかし僕が近くにいることを認識させたことで攻撃の的をこちらに向けることには成功した。

 これ以上の被害と損害を出させないよう誘導できただけ良しとする。



 炎を掻い潜り、僕の視界に『四柱地獄フォース・ヘルズ』の姿が映った。

 組織ハデスでは互いにトップの地位に君臨していたにもかかわらず、ボスであるモルスの評価と立ち位置から一度も顔を合わせることがなかった連中だ。


 一人、おさげ髪をした小人妖精リトルフ族の少女がいる。ぱっと見はあどけない感じだが、身に纏う殺戮オーラは驚異的だ。

 何より彼女を中心とした周囲の空間が歪んで見える。


 他の三人はパイロンの説明通り、神聖国グラーテカの紋章が刺繍された漆黒のマントを被っており姿こそわからないが背丈や体形が歪なほど分かれていた。

 その内の一人はかなり強力な魔法を使い、素手で弾いた者は腕の中に刃を隠し持ち、もう一人は強固な兜か防具を纏っていると考察する。

 あるいは奴らが持つ恩寵ギフト系スキルの片鱗でありほんの一部なのか。


 まぁ、どうでもいい。

 僕のやるべきことは一つだ。


「――初めましてだな、『四柱地獄フォース・ヘルズ』。随分と好き勝手に暴れてくれているじゃないか……全員、死ぬ覚悟はできているか?」


 死神セティとして悪党やつらを瞬殺するのみ。


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