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第51話 新たな嫁と目的地

「感染源……つまりモルスが本体とする人間のことか? そいつを斃せば、モルスが完全に消滅するっていうのか?」


 僕の問いに、パイロンはこくりと頷いた。


「その通りネ。けどキルした際、その相手を新たな本体として『感染源』にする可能性があるネ。だから息絶える際、アタシのスキル《|牢獄の烙印《プリズン・スティグマ》》が必要となるヨ」


「魔剣アンサラーは? 僕はてっきり、あれが本体だと思っていたけど……けどモルスは自分の存在を示すための『アイデンティティ』と言っていた」


「間違いじゃないヨ。おそらく『千の身体を持つ者サウザンド』は保菌者キャリアを幾つも保持している筈ネ」


「キャリア? 予備の身体ってことか?」


「そうネ。基本、『千の身体を持つ者サウザンド』がモルスとして活動できるのは一体のみ。他に意識を複製コピーすることもできるらしいけど、それだけ力も分散されるみたいだヨ」


複製コピーか……」


 確かに婆さんに扮したモルスと、アルタが所持していた聖剣もそんな感じで魔改造されていたな。


「そいつが斃されると、モルス自身が肉体を放棄すれば別の保菌者キャリアが新たな感染者こと『モルス』となるヨ。『魔剣アンサラー』はウイルスを発症させるための感染路ってわけネ」


 まるでウイルス版のスキル能力だ。

 しかもチート級の……いや、きっとそうなのだろう。


 僕は理解を示し頷いて見せた。


「だから確実に消滅させるには、本体である感染源を断つしかない。そうすれば他の保菌者キャリアは二度とモルスになることはないってわけか?」


「そうネ! 流石アタシの夫、セティ! それから、アタシと子作りすればいいネ!」


 そこはブレないんだね、パイロンさん。

 今は子作りの話をしている場合じゃない。


「念のため『魔剣アンサラー』を破壊する必要もあるな……それでパイ、本体の居場所は?」


「……わからないヨ。今話した内容は発見された魔窟をベースに闇九龍ガウロンの諜報部隊から集約された情報ネ。その中には、セティと『千の身体を持つ者サウザンド』の関係も含まれているヨ」


「集約された情報か……憶測も含まれてそうだね」


「けど確実性は抜群だヨ。諜報部隊の隊長は『龍』の一人であり、高精度の《|記憶追跡能力《サイコメトリー》》スキルを持っているからネ。アタシがボスとして保証するヨ」


「なるほど、恩寵ギフト系スキルでのお墨付きなら信憑性は抜群か……その『龍』の能力なら、モルスの本体の居場所がわかるんじゃないか?」


「……うん。当時の姿や形はわかっているけど、今はどんな姿をしているのか、また居場所まではわからないネ。きっと、ここグランドライン大陸のどこかに潜伏しているのは確かヨ」


 あくまでも魔窟や過去に遡っての情報か。

 その本体とされる感染源が、当時の姿のままであるという可能性も低いだろう。

 15年以上前だと年齢も重ねて容姿も変わっている筈だ。


「あのぅ、今の姿を調べることならさぁ~」


 ふとミーリエルが挙手しながら口を開いた。


「どうした、ミーリ?」


「うん。あのね、セティ……あたしのお婆ちゃん、先代の精霊女王様ね。お婆ちゃんなら目的の人物を割り出せることができるかもしれないよ」


「本当かい?」


「うん、あたしと同じ恩寵系ギフト系スキル持ちで、《先見》能力があるからね。当時の顔と姿がわかれば問題ない筈だよ。パイはその『感染源』の顔や姿を示す似顔絵とか持っているの?」


 ミーリエルに問われ、パイロンは頷く。

 白い長袍チャンパオの袖口から、手の平サイズの水晶球オーブを取り出した。


「ここに記憶されているヨ。あくまで15年前の姿ネ」


 水晶球オーブから一人の男の姿が映し出される。


 長い黒髪を後ろに束ねた若い容貌。

 頭部以外は倭国で見られる鎧こと『甲冑』で覆われている。

 目尻が吊り上り、鋭い眼光を宿した騎士風の男だ。

 確かエウロス大陸では騎士のことを『侍』や『武者』、上位職では『武将』と呼ばれるらしい。


 こいつがモルスの本体……感染源なのか?


 思っていたより普通っぽい。

 封じらえた魔窟に侵入し、『魔剣アンサラー』の封印を解いた元凶と聞いたから、もっと浅ましい奴だと想像していた。


「……けど、この騎士さん。どことなく雰囲気が、セティお兄ちゃんに似てない?」


 ヒナが僕の傍に寄り、顔を見比べている。

 グランドライン大陸では、武者と騎士は同一とされていた。


 でも似ているかな? 

 平凡パンチと言われ続けている僕なんかより、水晶球の男の方がキリっとしたイケメンだけど。


「エウロス大陸の人間だからじゃない? 僕、こんなに目つき悪くないし」


 まぁ、暗殺者アサシンモードの僕なら似たような目つきになると思うけど。


「うん、そうだね。セティお兄ちゃん、優しくて大好き!」


 ヒナはニッと白い歯を見せ、僕に抱きついてくる。

 本当の妹のようで可愛い。

 僕はつい愛しくなり、彼女の頭を優しく撫でた。


 ヒナが僕に甘えても、カリナ達は嫉妬することはない。

 基本この子は妹ポジなのでノーカンだ。


 パイもそのことを理解しており、僕に抱きつくヒナの柔らかいほっぺを「ぷにゅぷにゅ」と呟きながら指先でつっついている。

 つい最近まで、ヒナの命を狙っていた闇九龍ガウロンのボスとは思えない可愛がりぶりだ。


「だけど、ミーリ。その感染源が、その頃のままの姿とは限らないわよね?」


 聡明なマニーサが僕と同じ見解内容を聞いてきた。


「それを想定した《先見》スキルだよ。先々を見通す予知能力に近いかもしれないねぇ。その記録から今の姿を見通せるかもしれないよ~」


 なるほど、なんか期待できそうだ。


「じゃ次の行先は決まりだな。ミーリのお婆ちゃんに会いに行こう!」


「うん、いいよぉ! けどお婆ちゃん、女王引退後は辺境地の『古代エルフの遺跡』で隠居生活しているから、ここから結構遠いけど大丈夫ぅ?」


「まぁ、路銀は働きながら稼げばいいからね。問題ないよ」


 僕の返答に、ミーリエルは「うん、久しぶりに会えるから楽しみぃ!」と笑顔を向けてくれる。


 すると、


「あっ! そういうことか!?」


 何故かカリナが大声を発してきた。


「どうしたの、カリナ?」


「い、いやセティ殿……なんていうか、そのぅ。ミーリの祖母殿が《先見》のスキルをお持ちであれば……そのぅ、我らとセティ殿の今後を見て貰えればなっと……より良い結婚というか、夫婦生活をエンジョイするためにも……う~む」


 はぁ?

 ずっと黙っていると思ったら、こんな時に何を言ってんの?


「まぁ、はっきり言えば占い師っぽい感じだからね……僕としては、未来は知らない方が先々は楽しみというか、みんなを幸せにするため頑張れるという感じかな」


「セティ殿……そうですな。すまん、我としたことが不謹慎だった」


 カリナは目尻を下げて頬を染めた。

 普段は凛とした姫騎士だけに、滅多に見られないデレ具合に見える。


「わたしもセティさんと同じ意見です。日頃の行いが未来に繋がる、そういうことですよね、セティさん?」


「そういうことだね、フィアラ」


「私は魔術師として興味深いけど、セティ君が私達との未来を考えてくれているのなら幸せよ」


「ありがとう、マニーサ」


「えへへ、セティ。これからも、みんな一緒だよ~」


「そうだね、ミーリ」


「セティ、アタシとの約束を忘れたら困るネ。モルスを斃した暁には一緒にエウロス大陸に来てもらうヨ。そこで、みんなで挙式を上げるのも良し、子作りに励むのも良しネ!」


 ちょい、パイロン!

 キミはヒナの前でなんちゅうことを……この子の前で子作りネタだけはやめて!

 まだ早いから!


「お兄ちゃん、おネェちゃん達と一緒なら楽しいね!」


 そのヒナは意味がわからず賑やかな流れに喜んでいる。


 なんだかなぁ……まぁいいか。

 状況は悪くない。

 寧ろ先々に希望を見出している。


 彼女達と一緒ならどんな苦難も乗り越えられる筈だ。


「――よし! じゃあ早速、明日から出発だ!」


 こうして新しい嫁……いや仲間を迎い入れ、僕達の目的地が決まった。

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