「そしてアタシが、用があるのは貴方ヨ、セティ」
「僕に? やはり
その問いに、パイロンは大きく首を横に振るった。
「ないない、それはないヨ~。あんなスキルだけの平凡パンチのために『
平凡パンチって……
いや、そんなことより。
「僕に協力だと?」
「そう。ハデスのボス、『
「ボス……モルスの何についてだ? それこそ
「あいつが知る筈はないネ。誰も教えてないからヨ。けどアタシ達『龍』は以前より知っていたネ」
「龍とは?」
「アタシを含む
「まぁ、それとなく……
「昇格というより抜擢だヨ。基本アタシ達『龍』に優劣はない、皆が平等ネ。ただボスになると決定権が委ねられ最高幹部達は従うのがルール。組織運営のためヨ」
「じゃ、
「『
「あの《転移スキル》か……確かにモルスが脅威を抱き、わざわざ裏切り者の僕に抹殺を依頼したくらいだ」
「そっ。けど本来ならトップになる器じゃなかったネ。奴のせいで貴重な部下を大勢失い、アタシを含む『龍』達はブチギレだったヨ。せいぜい『
つまり
だから、
僕が
だから
しかし、それよりも……。
「どうやら
「流石、セティ。その通りだヨ。だからアタシは貴方に協力することにしたネ。モルスを確実に斃すために……だから
「誠意ね……まさか
僕の問いに、パイロンは素直に頷いた。
「そうネ。倭国には現皇帝を反抗する『反対派』が存在するアル。その『反対派』がヒナを祭り上げることで、これまでの不正が明かされ今のエウロス大陸の情勢は一気に逆転される……言わば、あの子は危険因子の生き証人ネ」
きっと僕の師匠こと、イオさんが前皇帝ごと王族を暗殺したという事実も含まれているだろう。
赤子のヒナに情が湧き、あの子だけを逃がす形で
「だったら矛盾している。
「ボスである、アタシが『反対派』だったら?」
「なんだって?」
「アタシは
何故かパイロンは白肌の頬をピンク色に染めて身体をもじもじさせ始める。
他所からみれば、本当に愛の告白を受けたみたいだ。
おかげで遠くの方で見守っている女子達の視線が、より殺意色に染まっている気がする。
なまじ会話が聞こえてないだけに……これはこれで身の危険を感じてしまう。
僕は咳払いをして、なんとか誤魔化す。
「ま、まぁ……パイ、キミが
「勿論、
「僕に? まさか……僕がモルスを斃し
「ピンポーン! セティには新たな『龍』として
「――断る」
「あいやーっ、どうして?」
「見ての通り、今の僕は
「『
ぐっ、この子どこでそんな情報を……。
案外どこかで見張られていたのか?
それで脈ありだと思って、パイロン自らが現れたのだろうか。
「モルスの情報を教える代わりに、
僕の強い意志と主張に、パイロンは初めて口を噤み黙り込んだ。
顎先に指を添えて考えごとをしている。
一見すると真っ白で綺麗な美少女にしか見えない。
とてもエウロス大陸で暗躍する組織のボスとはとても……。
これまでの話の中で、僕が斃した「
そして後釜となった「
正直、喉から手が出るほどモルスの秘密を知りたい。
奴を斃す術があるのなら、何としてでも教えてほしいと思っている。
けど、だからといって僕は
戻りたくない。
僕には大切な彼女達がいるんだ。
これからもみんなと一緒に過ごすためにも話に乗るわけにはいかない。
とりあえず今の
それを知っただけでも十分な収穫だと思うべきだ。
「……わかったヨ。セティを
「理解してくれてありがとう、パイ。僕もキミ達と争わずにすんで正直ホッとしているよ。それじゃ飲食したお勘定を払ってもらっていい?」
「それは断るネ。情報料として頂戴するがヨロシ」
「情報料って……そちらの組織事情しか話してないじゃないか? モルスの情報料としてなら、まだ理解できるけど……さっきの冒険者の件もあるんだ。無銭飲食は駄目だからね!」
食い逃げは許しません!
僕の主張に、パイロンは首を横に振るう。
そして睫毛の長い黄金色の瞳を細めながら、僕に顔を近づけてきた。
「だったら、アタシの身体で払うね。今から子作りするがヨロシ」
ニッと満面の笑みを浮かべて見せる、パイロン。
はぁ?
いきなり何言ってんの、この子?