腰元まで長く下した白髪の三つ編み、黄金色で子猫のつぶらな瞳。
乳白色の肌に、小さな鼻梁に色素が薄く桜色で形のよい小さな唇。
華奢なこともあり、どちらかといえば童顔で幼い印象だが、ゆったりとした
全身が真っ白な印象を持つ美少女。
彼女は一体何者だろうか?
「もういっぺん言ってみろって言ってんだよ!」
冒険者風の男達は白い少女に食ってかかっている。
「……別に。ただ大声で冒険談を語るわりには大したことないネ。そう言っただけヨ」
訛りある口調と片言の言葉で、白き少女は男達を挑発している。
「ふざけんな、コラァァァ!」
案の定、男の一人が顔を真っ赤にして、白き少女に掴み掛かろうと迫る。
白き少女はその手をあっさり躱し、ゆったりとした袖口から棒状の「ワンド」を抜き出した。
そのまま流れるような華麗な動きで、男の鼻筋に一撃を浴びせる。
「ぶっ!?」
予想以上に男は宙を舞い吹き飛んでいく。
地面に転がり落ち、そのまま意識を失った。
一見して普通の打撃にもかかわらず、ダメージが半端ない。
おそらく魔力が込められているのか。
それに、あの棒状の武器はワンドじゃない。
エウロス大陸で見られる『扇子』であり、暗器として知られる『鉄扇』である。
ってことは、やはりあの白い少女は……情報屋が言っていた密航者か?
あの服と武器といい、おそらくは――。
「テ、テメェ! 仲間に何をしやがる!?」
「さっき仕掛けたのはそっちネ! だから反撃したヨ!」
「この女ァ、舐めやがって!」
冒険者風の男達は興奮状態のあまり、各々の武器を取り出した。
まずいな。他のお客さんがいる前で、この騒ぎは……。
思わずエプロンを脱ぎ、調理場をフィアラに任せた。
「――お客さん、ここで騒ぎは困ります」
僕は物音を立てず気配を消して、素早くリーダー風の冒険者の背後に立つ。
「うおっ! こいつ、いつの間に!?」
男は咄嗟に振り返り、僕の姿を見るや青ざめた。
仲間の冒険者達も気づかず、酷く動揺している。
僕は構わずに深々と頭を下げて見せた。
「皆さん、お代は結構なので早々に立ち去ってください」
「お、俺達は悪くねぇ……この女がイチャモンを……」
「それでもです。他のお客様の迷惑なのでどうかお願いします……それとも人気のない場所で話をつけましょうか?」
僕は顔を上げ、リーダー格の男に眼光を浴びせる。
『死神セティ』としての圧を掛けた。
男は「ひぃ……」と喉を鳴らす。
大抵の連中は僕が向けた殺意に対し、このように戦慄するものだ。
きっと死神の大鎌に自分達の首が狩られたと錯覚したに違いない。
「お、お前ら、行くぞ!」
リーダー格の男は仲間達に呼び掛け、冒険者達は立ち去って行った。
「……ふう、やれやれ。あれだけの人数を無料してしまった……結構な損失だな」
「それじゃ、アタシも失礼するネ」
白き少女はしれっと言い、立ち去ろうとする。
「――待ってください。貴女は駄目です。しっかり食べた分のお勘定を払ってください」
「どうしてアタシだけ? 不公平だヨ」
「事の発端は貴女でしょ? 食い逃げは許しません。それとも裏で話しますか? エウロス大陸の、いえ
僕の問いに白き少女は動揺を見せず、涼しげな表情で「へ~え」と言葉を発した。
「流石は『死神セティ』……一目で見破られたネ」
「そんな格好と武器を見せびらかせれば当然ですよ。あの冒険者に因縁を吹っ掛けたのもあえてですよね? 隠密じゃなく、わざわざ自分から目立つような真似を……どういうつもりです?」
「貴方とお話したかったからネ。あの『
「……元ですよ。ボスの敵討ちですか? なら裏に行きましょう。他の人を巻き込むまでもない」
「そうね……けど、その前に一ついいか?」
「なんです?」
「チャーシュー麺、一つ追加」
「……わかりました。きちんとお代は払ってくださいよ」
僕は溜息を吐き、厨房のワゴンに戻った。
それから注文通りに、チャーシュー麺を作り提供する。
「いただきま~す! ズルズル~」
僕の前で豪快に麺を啜る謎の白き少女。
メイドの格好をしたカリナ達も遠くから不審な目でチラ見している。
「凄く美味しいネ! 本場に負けてない、いやそれ以上かもしれないヨ!」
「そりゃどうも……キミの名は?」
僕は褒められて嬉しい反面、どこか複雑な心境を抱きつつ、テーブルの向かい側席に腰を降ろした。
そういや、
「アタシ、パイロン。パイって呼んでほしいネ、死神セティ」
「パイね。僕はセティでいい。人前で死神なんて言うなよ」
「わかったネ、セティ。ズルズル~……」
可愛らしい笑みを浮かべ、再び美味しそうに面を啜り始める。
一体なんなんだ、この子?
随分と慣れ慣れしい態度に、こちらの調子が狂ってしまう。
僕は軽く咳払いをした。
「んで、パイ。キミは
「その前に餃子、一皿追加ネ」
「……かしこまりました」
しかし、よく食べる子だ。
それからパイロンは餃子だけでなく、チャーハンと親子丼と焼き豚定食等々、さらにはデザートに白玉あんみつまで注文し全て平らげた。
「ふぅ~、お腹いっぱいの賢者タイムネ~」
「……一万Gになります」
「ごめん、セティ……今、お金持ってないネ。ツケにしてほしいヨ」
「なっ!?」
こ、こいつ! 最初っから払う気ゼロであれだけ完食したってのか!?
まさか僕を始末することを前提として!?
てゆーか、流されるまま提供してしまった僕も迂闊だったぞ。
あまりにも美味しそうに食べるもんだから、料理人としてついペースに流されてしまった。
僕の反応に、パイロンは申し訳なさそうな表情を浮かべ、ぺこりと頭を下げて見せる。
「そんな怖い顔しないで……アタシ、食い逃げしないヨ。お金は後で部下に持って来させるネ」
「部下だと? パイ、キミは
僕が問うと、パイロンは席から立ち上がる。
「ここでは話せないネ。人気のない場所で話すがヨロシ――よかったら、貴女達も来ればいいヨ!」
パイロンは大声を出し、遠くで見張っているカリナ達に言葉を投げかけた。
「「「「はぁ?」」」」
四人ともメイド服だってのに、すっかり戦闘モードに入っており物凄い形相でパイロンを睨んでいる。
仲間の僕でさえ戦慄してしまうレベルだ。
早々にランチワゴンの営業を終わらせ、僕達は人気のない森林公園へと向かった。
カリナ、フィアラ、ミリーエル、マニーサは着替えを終えて普段通りの冒険者として武装を整えている。すっかり戦う気満々だ。
「ねぇ、セティお兄ちゃん……おネェちゃん達とどこに行くの?」
「あの白い
そう今回はヒナも一緒に同行させている。
彼女を狙う
ヒナには
万一は彼女だけでも逃がさなければならない保険として。
けど会話を聞かれるわけにはいかない。
ヒナは自分が狙われていることを知らないからだ。
ましてや倭国王家の正当な後継者であることすら教えていない。
だから話し合うのは、あくまで僕パイロンの二人のみ。
仲間の彼女達には離れた場所で見守ってもらうことをお願いしている。
移動してから間もなく。
誰もいない広場の辺りで先頭を歩いていた、パイロンが足を止めた。
「ここら辺なら話ができそうネ」
「まぁ、戦う場にはいいかもな……その前に僕の問いに応えてもらいたいんだけど?」
「いいヨ。セティが聞いた通り、アタシは
やはりそうか。
僕はチラリとヒナがいる方向を見つめる。
会話が聞こえないか確認するためだ。
ヒナの隣に立つ、マニーサが頷いてくれる。
彼女の魔法で会話が聞こえないよう施してくれた合図だ。
僕は頷き、パイロンに視線を向ける。
「それで、どうして目立つ形で僕の前に現れた? ヒナを狙うにしちゃ、随分と大胆だな? そんなに僕を斃す自信があるのか?」
「違うヨ。アタシ達はとっくの前にその子から手を引いているネ」
「なんだと?
「アタシがそう決めたからヨ――この新しく
な、なんだと!?
新しい
この