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第44話 美少女達の要求

 あれから数日が経過する。

 傷が癒えた僕は、女子達と共にグラーテカ王城に呼ばれた。


 凄惨な現場だった『謁見の間』は修復されており、真っ白で清潔感のある空間となっている。


 僕達は赤絨毯の上で跪いて畏まった。


「面をお上げください、セティ。貴方達はわたくし達とグラーテカの危機を救った恩人であり英雄なのですから――」


 優し気な声で語りかけてくる女性。


 僕達は表を上げると、すぐ目の前には玉座に腰を降ろすイライザ王妃とロカッタ国王の二人が並んでいた。

 噂では色々あったようだけど、今回の件でロカッタ国王の寛大な人柄のおかげで夫婦の絆が深まったとか。

 世間では色々な声があるかもしれないけど、旅人の僕からとやかく言う筋合いはない。

 国民が幸せなら、それでいいんじゃないかと思っている。


「いえ、僕は当然のことをしたまでです……ですがアルタ王子がああなってしまった要因は僕のせいなのかもしれません」


「話は聞いております……貴方の正体も知っています。ですがセティ、アルタにそう仕向けたのはわたくしです。貴方が悔やむ必要は微塵もございません。寧ろ貴方達に大変ご迷惑をお掛けしたと謝罪したい気持ちです。申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げて見せる、イライザ王妃。


 その謙虚な姿勢に、僕達も慌ててしまう。


「い、いえ、どうか頭をお上げください、王妃。今の僕は善良な人々を守るために刃を振るうと誓っている次第です。どうか気になさらないでください」


「そうですか……セティ、貴方のような方が弱き者達のため表舞台で戦うのであれば、これからも応援していきたいと思っております」


 イライザ王妃は「では褒美を」と告げると、大臣のムランド公爵自らが近臣と共に五つの大きな布袋を僕達の前に差し出してきた。

 ずっしりと重さのある布袋、感触からして金貨だろうか。


「有難く頂戴いたします」


 僕は受け取り、キッチンワゴンの運営費や旅費に当てようと考えた。


 イライザ王妃は柔らかく微笑み話を続ける。


「……それと、わたくしは事が落ち着き次第、メルサナ神殿の修道院に入り心と身を清めるつもりでおります」


「修道院? 王妃様が? 何故です?」


 関係者であるフィアラが首を傾げて聞いた。


「自ら課した罰であり、せめての贖罪です。事実上、わたくしが招いたことで母は自害し父もアルタに殺されました……わたくしだけがのうのうと王妃を続けるわけにはいきません。ロカッタとも話し合い、これからも夫婦であり続けていきますが政には関与せず、王族からも外れ一人の女性として生きていきます」


 つまり別居状態となるわけか……。

 だけどイライザ王妃は正統な王族の方には違いない。

 今後生まれて来る子供にだけ王位を継がせる形となる筈だ。


 皮肉な話だが互いに離れることで本当の夫婦になった、僕にはそう思えてしまった。


「お言葉ではありますが、その間の国政はどうなるのでしょうか?」


 マニーサが率直に聞いている。

 これまで神聖国グラーテカは、イライザ王妃の采配で運営されていた。

 今回の事件でロカッタ国王の人望も高く集まったが、あくまでそれはそれだろう。


「聞いていませんか? マニーサ、貴方の父君である大賢者マギウスを宮廷魔術師に迎え、ムランドと共にロカッタを支えるよう手筈を整えております」


「イライザちゃんの言う通り、僕は食べることしか脳がないからね~。キミのお父さんにおんぶにだっこだと思うよ~ん!」


 ロカッタ国王、それもどうかと思う。


 マニーサは「そうですか、父が……」と戸惑いを見せている。

 宮廷魔術師といえば、国王の右腕であり国政だけじゃなく軍事にも進言できる重要な立場であり公爵クラス以上の大出世なのは確かだ。

 大賢者と称えられるマギウス氏であれば、イライザ王妃以上の手腕を発揮してくれるに違いない。


 こうして、グラーテカ国も安泰であることを知り、褒美を受け取った僕達は王城を後にしようとする。


 その時だ。


「マニーサ!」


 誰かが声を掛けてきた。

 高価そうな魔道服に身を包んだ、中年の男性。

 細身ですらりと背が高く、穏やかそうな顔立ちの魔術師だ。


「お父さん?」


 マニーサが男性に向けて言う。

 この人が大賢者マギウスなのか……父親だけあり、どこか彼女に似ているかもしれない。


「すまなかったな、何も説明できず……突然、イライザ王妃から頼まれたものでな。魔道学園の引継ぎもあり、準備に時間を掛けてしまった」


「ううん……少し驚いたけど私は大丈夫よ。それとお父さん、是非に紹介したい人がいるんだけど……」


 マニーサは頬を染め、僕に視線を向けている。


「……そうか。キミが話していたセティ君だね? 娘が世話になっているね」


 マギウス氏は丁寧に頭を下げて見せる。


「い、いえ……僕の方こそ、です、はい」


 やたら緊張してしまう。

 もしかしたら怒られるんじゃないかと謎の不安が過ってしまった。


「キミのことは聞いているよ……今回の事件を含め、私の方からも暗殺組織ハデスのボスについて調べてみるよ。教皇レイラ殿の力も必要となるだろう」


「はぁ、ありがとうございます……ってことは、マギウスさん。僕が元暗殺者アサシンだと気づいているわけですよね?」


「そうだが何か?」


「いえ、大切な娘さんを僕のような男に預けたままでいいのかなって……はい」


「マニーサが決めたことだからね。私は娘の意志を尊重しているまでだ。それにセティ君、キミが暗殺者アサシンだったのは過去の話だろ? 今は違うと聞いているよ」


「はい。今はせめての罪滅ぼしのため、弱き者のために力を使うよう心掛けています」


「罪滅ぼしか……私も前アルロス陛下からの命令とはいえ、一時にせよ大切なマニーサをアルタのような男に嫁がせた過ちがある。これから娘には自分で決めた人生を歩んでほしい……きっと他の親御さんも同じ考えで自由にさせていると思っているだろう」


「お父さん……ありがとう」


 父の言葉に、マニーサは涙ぐんでいる。

 マギウス氏は優しい眼差しを浮かべながら、娘の頭を撫でた。


「セティ君と一緒なら安心だ……どうか娘のことをお願いします」


「はい、わかりました」


 僕は力強く頷き了承する。

 何か認められたようで良かったかな


 それから間もなくして、僕達は宿屋へと戻った。



「セティお兄ちゃん、おかえり~!」


「ギャワッ、ギャワッ!」


 待機していたヒナと幼竜のシャバゾウが出迎えてくれる。


「ただいま。ようやく落ち着いたよ……明日からキッチンワゴンの営業を行おう」


「うん、ヒナはいいけど……マニーサお姉ちゃん以外のお姉ちゃん達の顔がなんか怖いよぉ?」


 そう指摘され、僕は後ろを振り向く。

 頬をピンク色に染めながら恍惚の微笑を浮かべるマニーサの背後で、他の女子達が仏頂面で睨んでいる。


 三人ともなんか怖いんですけど……。


「カリナ、フィアラ、ミーリ……どうしたの?」


「……いえ、セティ殿。我ら三人、マニーサだけずるいと不満を抱いている次第です」


「そうですね……自分だけセティさんを紹介し、正式に交際を認めて貰えるなんて」


「なんか~、結婚もOKっていうかぁ~、マウント取られた的な? あたし達そう思っちゃっているわけよ~」


 うん、面倒くさいことを言い出したぞ。

 てか偶然会ってたまたまそうなっただけだろ?

 言い掛かりだと思うけどな。


 だが指摘を受けたマニーサ本人はキリっとした知的そうな表情に戻り、眼鏡の位置を指先で直した。


「フン。今日ほど庶民に生まれて良かったと思ったことはないわ。これで堂々とセティ君と一緒にいられるし、その先にも進むこともできるわ。皆さん、お先に~ウフフフ♪」


「「「はぁ?」」」


 マニーサの挑発に、三人の瞳が攻撃色に変わっていく。


 あっこれ、止めなきゃいけないやつだ。


「やめないか、みんな! だったら予定通り、三人の親御さんの所に挨拶に行けばいいだろ!?」


 僕の言葉に女子達の動きがピタリと止まる。


「ではセティさん……明日は一緒にメルサナ神殿に行ってもらえますか? お母様もお待ちしておりますので」


「わかったよ、フィアラ」


「その次はウォアナ王国に行ってくれるな? 父上も母上もきっと認めてくれるだろう」


「うん、そうだね、カリナ」


「最後は、あたしの故郷である『精霊の森』だよぉ。セティは強い子種を宿しているから、きっと一族の民も喜んでくれるよぉ。お父さんとお母さんも期待しているからね~!」


「……ミーリ。何気に恥ずかしいんだけど、まぁいいよ」


 女の子から子種とか言われると凄くドキドキしてしまう。

 エルフ族はどれだけオープンなんだろうと思った。


 とはいえ、なんか大変なことになってきたぞ……。

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