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第36話 神聖国の不穏な動き

「――死にさらせぇ! 『死神セティ』ーっ!! 秘技、水蝶剣ショウゥゥゥゥ!!!」


「無理だな。《|生体機能増幅強化《バイオブースト》》発動ッ!」


「消えた――ギャァァァァ!」


 夜陰の中。


 オレは疾風を上回る速さで攻撃を回避し、逆手で握る短剣ダガーで男の四肢を斬り落とし達磨にしてやる。


 空中に男の両腕と握られた二刀の片手専用剣ブロードソードが舞い地面に突き刺さった。


 男の名はヤラグ。

 組織ハデスに属する暗殺者アサシンであり、二刀使いで割と名が通った幹部クラスの一人だ。



 あれからも、オレは組織ハデスに狙われている。

 殺し合いに仲間達を巻き込まないよう、こうして一人になって誘き出しては密かに狩っていたのだ。

 これまでは身の程知らずの雑魚ばかりだったが、最近では幹部クラスも混じっている。


 なんでも、オレの賞金額が上がったことが理由らしい。

 以前は20億Gだったが、今では60億Gまで跳ね上ったとか。


 そりゃバカな夢を見て襲ってくる奴も増えるわと思いつつ、どんだけ組織ハデスはガチなんだと呆れてしまう。



 オレは仰向けに寝そべる芋虫となったヤラグの首元に短剣ダガーの刃を添えた。

 決着がついたので《|生体機能増幅強化《バイオブースト》》を解除し、通常のに戻る。


「た、頼むッ、殺さないでくれ!」


「その状態じゃ生きていても仕方ないだろ? ヤラグといったな。お前、幹部だろ? 幾つか質問があるから答えてもらうぞ」


「は、はい!」


「今、ボスはどこにいる? どんな姿で暗躍しているんだ?」


「知りません!」


「嘘つくと殺す」


「すみません、嘘です! 現在はとある国のドヤ街でルンペという長老の姿となっております!」


 流石は幹部だ。

 何せボスことモルスと直接やり取りできるのは、こいつら幹部クラスだけだからな。したがって、こいつが知らないわけがない。


「ドヤ街ということは浮浪者? 物乞いか……なるほど、アルタの言動と繋がる。きっと、そこでアルタは鍛えられ『聖剣』を『魔剣』として改造してもらったということか」


 モルスが持つ『魔剣アンサラー』と同等の追跡能力を持つ魔剣へとな。

 しかし何故、アルタは始末されず利用されているのか。

 あれほど厳粛な組織ハデスのルールを捻じ曲げてまで……。


 いやわかっている。


 おそらく、僕に絡んだ理由だろう。

 自業自得とはいえアルタの婚約者達を奪い、奴の運命を狂わせる形で関わってしまっているから。

 前回の件からしても、アルタは僕に対して相当怨んでいたのがわかる。

 まるっきりの逆ギレだけどね。


 でも現に僕は今でもカリナ達と行動を共にしている。

 元婚約者のアルタからして見れば「寝取られた」と思われても可笑しくはないか。


「もう一つ聞きたいことがある。お前のような幹部が襲うようになったということは、連中も動いているのか?」


「れ、連中とは?」


組織ハデスの最高幹部、『四柱地獄フォース・ヘルズ』の四人だ」


「さ、さぁ……ほ、本当に知りませんよ! 貴方様同様、あの方は我ら幹部の中でも異質で雲のような存在なのでぇ、はい!」


「僕に懸けられた賞金額が三倍になったってことは、そいつらが影響しているんじゃないか? 四等分に山分けすれば15億G……悪い話じゃないよな」


「お言葉ですが、あの方達は相当険悪な間柄とお聞きしています……天変地異でも起きない限り四人同時に組まれるとは考えにくいです、はい」


 確かにヤラグの言う通りだ。僕もそう思っていたからガン無視していた。

 だけど、モルスの動きといい……案外その天変地異とやらが起きようとしているのかもしれない。


 どうやらもう、こいつから聞くことはないようだ。


「色々と教えてくれてありがとう、感謝するよ……では死んでくれ」


「ま、待ってぇ……うげぇ!」


 喉元に当てた短剣ダガーを突き刺し、ヤラグは絶命した。




 それから返り血を拭い去り、僕はみんなが待っている『ランチワゴン』に戻った。


 設営した簡易テントの中で、ヒナと幼竜のシャバゾウが遊んでいる。


「お帰り、セティお兄ちゃん!」


「ただいま、ヒナ。他のみんなは?」


「買出しに行ってるよ。まだ戻って来てないみたい」


「そっか……明日の朝には神聖国グラーテカ方面に向かうから、もう休んだ方がいい」


「うん、そうする」


 ヒナは元気よく頷き、シャバゾウと共に同じ寝袋へと入った。

 本当に素直でいい子だ。より愛おしくなってしまう。

 この子も狙われている身。必ず僕が守ってあげなければならない。



 ヒナが寝ついた頃、カリナ達が戻ってきた。


「おかえり、みんな。遅かったね」


「うむ、セティ殿……色々あってな」


「色々?」


 珍しく歯切れの悪いカリナの言い回しに、僕は首を傾げる。

 他の子達も何やら浮かない様子だ。


「それがね、セティくん。買い物を終えた後、私の《思念魔法》でグラーテカ国にいる父とやり取りしたんだけど……なんか大変なことになっているみたいなの」


「マニーサ、大変って?」


 僕が聞き返すも、彼女達は口を噤んだまま答えようとしない。

 しばらくして、フィアラが渋々と唇を開いた。


「……アルタが祖国に戻っているそうです」


「アルタ? 勇者……いや元勇者か」


 僕が言い直すと、みんなは頷いて見せた。

 あれからすぐに、神聖国グラーテカに戻ったのか。僕に敗北してから……。


「なんでもね……『自分こそが正当な王位継承者だ!』って王城に乗り込んできたらしいよ」


「でも、ミーリ。確かアルタは国王直々に勘当されたんだよね?」


「……本人が言うには、イライザ王妃にハメられたと主張している。主にセティ殿を雇った件についてだ。なんでもアルタは王妃の進言で『偽物勇者を仕立てる』ことを決行したらしい」


 カリナの話だと、実姉であるイライザ王妃の提案で、偽勇者として僕を雇ったようだ。


「ふ~ん、よくわからないけど……僕が知る範囲では闇市の暗殺者ギルドに依頼しに来たのは、アルタ本人だったと聞くよ。そして誓約書を確認せずにサインして、我欲のために契約期間内で僕を解雇した……全てアルタ自身が招いたことだ。いくら姉に進められたからって、実行したのは彼の判断なんだから、その主張は通らないんじゃないかい?」


 子供じゃあるまいしって話だ。明らかに自己責任だろう。


 ちなみに先代国王であるアルロスは、アルタがやらかした責任を取るため退位後は妻と共に辺境地で僧侶として隠居生活を送っていると説明を受ける。


「セティさんの仰る通りですね。イライザ王妃の真意や思惑はどうあれ、周囲からは『不甲斐ない弟のためを思っての裏技』という認識でしかありませんから……本来なら相手にするべきことではありません……ですが」


「何かあるのかい、フィアラ?」


「……はい。教皇が言うには、以前と違いアルタの様子が明らかに可笑しいとのことです。何か狂気じみていると……既に王族ではないアルタに対し、城の聖騎士達も追い返そうと試みましたたが、その圧倒的な強さを前に敗れてしまい、今では王城で立て籠っているようです」


「聖騎士といえば王族を警護する屈強の王宮騎士テンプルナイトか……以前より力を増していたとはいえ、一人で王城を制圧できるほどとは思えないけどね」


「一人じゃないよ、セティ。仲間を連れているみたいだよ」


「ああ、ポンプルていうホビット族か? けどたった一人じゃ……」


 僕の問いに、ミーリエルは首を横に振って見せる。


「それが違うの……黒ローブを纏う武装集団を引き連れているんだってぇ。100人くらいはいるみたいだよぉ」


「え? そ、そんなに?」


 他に仲間がいたってのか? しかも100人って……そんな素振りはなかったけど。

 どこかの山賊でも雇ったのだろうか? だが人数が多すぎる。

 しかも王城に立て籠もるなんて、少なくても冒険者ってことはないだろう。


「まだ公にはされてないが、我が祖国であり隣国ウォアナもアルタの凶行には警戒している。身内間とはいえ、やっていることは明らかに謀反だからな……だから我らも戻るべきか悩んでいる」


「今のところ王城内で身内同士だけの話だから、私の父やフィアラのお母さんには影響はないわ……でも、いずれ国民にも飛び火が来るんじゃないかって不安もあって……まぁ、戻ったところで王族に対して、私達に何かできるわけじゃないんだけど……」


 カリナとマニーサじゃないけど、今戻ってもトラブルに巻き込まれるだけっぽい。

 本来なら身内同士で勝手にやってくれっという話だけど……。


 ――間違いなくアルタはモルスと接触している。


 であれば、このまま放置しておくわけにもいかない。


「けどみんな心配なんだろ? なら行った方がいい。僕もアルタに聞きたいことがあるからね……ヒナもいいよね?」


「勿論だよ、セティお兄ちゃん!」


 ヒナは満面の笑みを浮かべ了承してくれる。

 この子も色々なことがあったからか、聞き分けがいいというか度胸が据わっているとおうか。

 正直、ヒナを連れていくのに迷いがあるけど彼女を狙う闇九龍ガウロン絡みでなければ、僕が傍で守っていれば大丈夫だろう。

 危険察知能力の高い、シャバゾウも一緒だしな。


「セティさん……ありがとうございます」


「やっぱ、セティは優しいね、えへへへ」


「是非に、父に会わせたいわ……」


「及ばずながら、我からもアルタと話してみましょう」


 僕からの提案に女性陣から笑顔が戻る。


 こうして次の日、僕達は神聖国グラーテカへと向かった。

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