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第27話 転移能力VS生体強化

 目の前の敵達を排除するため、《|生体強化《バイオブースト》》発動した。


 僕の全身の皮膚に古代魔法の呪文語が浮き出され、その文字が赤く煌々と輝く。

 瞳孔が赤く染まり、体中の力が漲り増幅される。

 抑えきれない攻撃衝動により細胞の隅々まで躍り狂う感覚。

 鋭く冷徹な形相へと変貌した。


「うぐぅ……」


 黒龍ヘイロンを取り囲む、黒装束の連中から引きつるような声が漏れる。


 当然だ。これほどの殺意を向けられ正気を保てる奴はそうはいない。

 何せ『死神』に大鎌の刃を首に目掛けて翳されているようなものだ。



 ――見た者は必ず死が訪れる。



 それが本気と化したオレ・ ・の《|生体強化《バイオブースト》》発動モードである。


「お前ら何を躊躇っている! 殺れ!」


 100人の暗殺者アサシン達が立つ真ん中辺りで、黒龍ヘイロンが煽り叫ぶ。

 『闇九龍ガウロン』のボスからの指示で、硬直していた黒装束達はじりじりとオレとの距離を縮めてくる。

 奴らの手には剣や槍など使い慣れたと思われる武器が握られている。


 オレは腰元から二刀の短剣ダガーを抜き逆手握りで構えた。



 うおぉぉぉぉおおぉぉぉおぉおぉぉぉ―――!!!



 地鳴りのような雄叫びと共に、黒装束の暗殺者アサシン達が一斉に雪崩込んできた。


「死にに急ぐか……いいだろう!」


 オレは臆することなく疾走する。


 刹那、赤き閃光の斬線が黒装束達の首元を裂いた。


「ぎゃ!」


「ぐふっ!」


「うごっ!」


 次々と暗殺者アサシン達の首と胴が斬り離され飛ばされていく。

 さらに速度は増し鋭く獰猛な曲線を描き、ある意味芸術的なほど鮮やかに斬首されていった。


 それはまさしく大量虐殺――ジェノサイド。


「ひぃ、バケモノ!」


「く、来るなぁ!」


「嫌だぁ、助けてくれぇ!」


 その圧倒的な戦闘力に、多勢であるにもかかわず黒装束達から悲鳴や恫喝が飛び交い、さらに戦意を喪失し命乞いをする者達まで出てきた。 


 だがオレに慈悲はない。

 敵と判断した者は容赦なく殲滅する。それが『死神セティ』だからだ。


 唯一奴らに許されることは、オレの前に立ちはだかる無謀さを絶望し悔いるのみ。




 間もなくして――修羅場は静寂と化した。




 幾つも地面に転がる首のない遺体。


 胴体から切り離された頭部。


 腕や足、その他よくわからない塊など。


 まるで凶暴な魔獣が食い散らかしたような凄惨な光景があった。



 それらの中央に、二刀の短剣ダガーを握りしめて佇むオレの姿がある。

 一見して血塗れだが、これはあくまで黒装束達の返り血である。

 オレは至って無傷だ。それどころか呼吸一つ乱していない。


 僅か短時間で『闇九龍ガウロン』の暗殺者、100人斬りを果たした。



「……『死神セティ』、まさかこれほどまでとはな」


 配下の者達が全滅され、流石の黒龍ヘイロンも動揺を隠せないでいる。


 オレは鋭い眼光で奴を一瞥する。

 悪党共の屍を掻き分け、傍観している奴へと近づく。


「次はお前が相手してくれるんだろ? このまま《転移スキル》で逃げたら、ボスの名が泣くぞ」


「当然だ」


 黒龍ヘイロンは懐から一本の小剣ナイフを取り出す。

 その瞬間、フッと手元から小剣ナイフが消えた。


「!?」


 オレは何かを察する。

 高速に残像を描き半歩ほど左側へと横移動した。


 すると、カツンと小剣ナイフが地面に落ちる。

 そこは俺が歩いていた場所であり、丁度心臓部の真下にあたる位置だ。


「オレの心臓を座標にして小剣ナイフを《転移》させたのか? ふぅ、危ない危ない」


「勘の良すぎる奴……いや読まれているのか? 俺の視線や微かな筋肉の動きで、《転移攻撃》する瞬間を見切ったね?」


「そんなところだ。特に《|生体強化《バイオブースト》》発動時は五感が研ぎ澄まされ、第六感といえる直感力も冴え渡る。お前とて超高速移動する者を目掛けて《転移》させることは不可能だろ?」


 つまりオレの心臓に目掛けて《転移》する座標をずらし攻撃を躱したのだ。

 勿論、強化された直感力や身体能力もあるが、何より予め組織ハデスのボスである、モルスから予め得た情報も基に先読みしていたことが大きい。


 黒龍ヘイロンは自慢の能力を見極められたことで悔しがると思ったが、ニヤッと狡猾な笑みを浮かべている。


 まだ何か隠し持っているようだが関係ない。

 このまま瞬殺する!


 オレは加速するため身構える。


 すると、その時。


「確かにね! だが関係ない!」 


 黒龍ヘイロン長袍チャンパオをはだけさせる。

 開かれた衣類の内側には、びっしりと百本近くの小剣ナイフが並べられる形で隠されていた。


 その小剣ナイフは全て《転移スキル》によって消えたと思った瞬間、オレの頭上に無数の《|転移門《ゲート》》が出現する。

 ゲートから小剣ナイフが出現し、真下へと鋭利な刃を突き立て一斉に落下してきた。


「いくら素早く動こうと逃げ切れる範囲かなぁ!?」


 嘲笑う、黒龍ヘイロン。体内への《転移》は不可能と判断し、数の暴力で広範囲から攻撃しようとしている。

 確かにこれだけの小剣ナイフ、普通なら全て躱せない。頭頂部に突き刺さってアウトだろう。


 だが、今のオレなら……。


「――問題ない!」


「なっ! は、早ッ!?」


 オレは超高速で疾走し、瞬きする隙も与えずに黒龍ヘイロンへと急接近し距離を詰める。

 そこは当然、小剣ナイフ攻撃が及ばない安全エリアだ。


 黒龍ヘイロンにとって、さぞオレの速度スピードは『瞬間移動』したかのように見えただろう。


 そのまま左手に握られた短剣ダガーで、奴の喉元を目掛け掻き斬るよう刃を振るう。


 しかし――フッ


 オレの短剣ダガーが左手ごと消えたのだ。


「これは!?」


「残念だったなァ、死神ッ! 自分の攻撃で死ねぇぇぇ!」


 喜悦の声を上げた、黒龍ヘイロン


 不意にオレから死角となる真後ろから、《|転移門《ゲート》》が開かれる。左手に握られた短剣ダガーが出現した。

 短剣ダガーはそのまま押し迫る形で、刃が頸椎を目掛けて襲ってきた。


「――いらないよ、それ」


 オレは右手に握る短剣ダガーで左前腕部から自分の腕を斬り落とす。


「なんだと!?」


 驚愕する黒龍ヘイロンを他所に、俺は素早く奴の後方へ回り込み羽交い絞めにした。


 短剣ダガーを持つ左腕が《|転移門《ゲート》》を通して尚も突進してくる。


 オレは黒龍ヘイロンを無理矢理に屈ませると、そのまま奴の頭部に刃が突き刺さった。


「アギャァァァッ!」


「……ほう。刃は脳まで達しているのに、まだ意識を繋げてられるのか? 流石、恩寵ギフト能力者はしぶとい……オレも同じだな」


 まぁ、矢など脳に刺さって生きていることは多々あるからな。

 ちなみに左腕の切断部位に出血は見られない。《|生体強化《バイオブースト》》で止血しているからだ。


 オレは黒龍ヘイロンを放り投げ、同時に奴の両腕を短剣ダガーで斬り落としてやる。

 地面に転がっていくその頭部には、まだ短剣ダガーが刺さったままであり下手に抜くと絶命するだろう。


「い、いでぇえぇぇぇ!!!」


「わめくな。オレも左腕を失っているが、声一つ上げてないぞ。あ~あ、痛い痛い」


 本当はちっとも痛くない。同じく痛覚も《|生体強化《バイオブースト》》で制御されているからだ。


「ク、クソォッ! これで勝ったと思うなよ、死神ッ!」


「そのザマで何ができる? このまま放置するだけでも、お前は死ぬぞ。生かして欲しいなら、ヒナから手を引け! そしてオレ達に二度と近づくな!」


「ぐふっ……な、なんだとぉ……?」


 うつ伏せで横たわる黒龍ヘイロンは小刻みに身体を震わせながらオレを見上げてきた。

 奴は屈辱で酷く形相を歪めている。


 こんなクズ、本来なら生かすつもりはない。


 ただボス……いやモルスの思惑通りにことが運ぶのもムカついていること。

 後は少しだけ、こいつから情報を引き出してから屠っても遅くないと考えたからだ。


 仮にもエウロス大陸の裏社会を支配する暗殺組織のボス。

 組織ハデスのモルスを殺す方法を知っているかもしれない。



「くっ……無理だと言っているだろ! 今の倭国……いやエウロス大陸全土の有力者達が、そのヒナって娘が生きていることで都合が悪いと思っているんだよ!」


 黒龍ヘイロンは必死に訴える。

 てっきり命欲しさに「わかった約束する」などと嘘をついてくると思ったが。

 まぁ、汗ばんだ肌や瞳孔の動きで簡単に嘘は見抜けるけどな。


 逆に素直に言い切るところをみると、どうしても倭国の王族最後の生き残りであるヒナを始末しなければならない事情が、『闇九龍ガウロン』側にあるようだ。

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