突然、単独でやってきた暗殺組織『
狙い以上の収穫と言うべきか。あるいは僕を見くびっているか。
どちらにせよ大胆不敵な奴には変わりない。
カリナ達には前もって
見た目は平凡だが、この大陸では「
僕も一瞬動揺したが、すぐに気持ちを切り替える。みんなに向けて軽く首を横に振るい平静を装うようにお願いした。
奴はテーブルに両肘をつけ、遠くで接客しているヒナの方をじぃっと見つめている。
勿論、ヒナには近づけさせないよう、他のみんなも配慮している。
そして、馬車裏で寝ているシャバゾウが吠えていない。
危険察知能力が優れている幼竜が大人しいということは、
調理場をフィアラに任せ、僕は奴の接客をすることにした。
下手な真似をしたら即キルも視野に入れる。
「お客様、ご注文は?」
「――キミが、ハデスの『死神セティ』か?」
「……元ですよ。今は見ての通り、キッチンワゴンを経営する料理人です。まさか貴方はヒナを狙う
「そっ、俺は
あっさり身元を明かしてくる。
モルス同様、大規模組織のボスだけあり喋り方がイキったような上から目線だ。
僕とそう変わらない年齢っぽいのになんか偉そうな奴だ。
「ま、まさか……エウロス大陸を牛耳る貴方が、どうしてここに!?」
僕はわざと驚いたように装って見せた。
まさかそれこそ「お前を始末しに実はこちらから出向いた」とは言えない。
「以前から
「知っていたら、わざわざ来ませんよ……」
大嘘だけどな。
「どうしてボスである貴方がここに? お独りで? 部下は?」
「ここには俺一人だ。部下はいつでも呼び寄せれるから問題はないよ。俺が来た理由は『死神セティ』と呼ばれる男を直に見たかったから……そういえば注文だったな? ラーメン一つ」
ふてぶてしく注文してくる、
どうも暗殺組織のボスはすっとぼけた奴が多いらしい。
「いいんですか? 毒を盛るかもしれませんよ」
「そうなったら毒を別の客の体内に《転移》してやるよ。同時に100人の部下が出現し、この辺りは血の海となるだろうな……もう呑気にランチ屋の営業もできなくなるね」
こいつ……身体に吸収した毒物も転移できるってのか?
なるほど、余裕ぶる態度も頷ける。
どうやらお客さんごと人質に取っているぞっと言いたいようだな。。
「……聞いてみただけですよ。安心してください、僕も料理人としての誇りと矜持はあります。それにお客様は神様ですから」
「
皮肉めいた
モルスもなんらかの意図で、この男「
間もなくして、調理したラーメンをテーブルに置く。
「――美味かったよ。本場に負けないほどの倭国料理だ」
「あ、ありがとうございます」
てっきり悪評でも言われるかと思ったけど、本場の味を知る者に言われるとたとえ敵でもなんか嬉しい。
「それで、俺が来た理由がもう一つある」
「なんですか?」
「『死神セティ』、俺と組まないか? キミの実力は高く評価している。『ハデス』からも身を守れるぞ」
思わぬ提案に自分の耳を疑う。
だが動揺は見せず、冷静に「はぁ……」と溜息を漏らした。
「さっき貴方も言ったじゃないですか……僕はもう
「だが腕は健在。いや狙われていることで、より研ぎ澄まされているように見えるけどね」
ふ~ん、一応は見る目はあるってか?
「イオ師匠を殺した組織に靡くつもりはない。あと、ヒナを狙うのもやめて頂きたい。本来、僕は貴方達とは戦う理由がないんですからね」
「……それはできないよ。それこそ、イオから聞いてないのか? あのヒナという娘は倭国、いやエウロス大陸にとって重要な娘ということを」
「いや、そこまでは……ヒナはどういう子なんだ? 僕は王族の娘としか聞いていない」
「教えてやる。その前に、エウロス大陸の情勢を説明する必要があるだろうね……倭国はエウロス大陸にとって中心国であり、大陸全土を事実上支配している強国だ。イオがその国の王族達を皆殺しにして、あのヒナという娘だけ生かして逃亡した。ここまでは知っているよな?」
「ああ、師匠は組織へのケジメとして左腕を差し出したが、
「当然だよ。
「何? そうか……読めてきたぞ」
僕の言葉に、
「
「ああ、そして今じゃ僕が邪魔するから、すっかり頓挫している……そんなところか?」
「まあね。だから、キミを取り込んで目的を果たそうと思ったんだけど……」
「断る」
「だろうね」
「ヒナを消したいなら、この僕を斃すしかない――今夜にでも決着をつけようじゃないか」
その提案に、
「……確かに、これ以上だらだら狙っても、いたずらに部下が殺されるだけかもね。どの道、決着をつけるしかないようだ――いいだろう、一騎打ちといこうじゃないか」
試しに言ってみたが思いの外乗ってきたぞ。
その気になったところを見ると、自分の能力に相当自信があるんだろう。
こうして意外な形で、
しかし所詮は殺してなんぼの
素直に勝負するわけがない。
こちらも石橋は叩いて渡るべきだ――。
夜となり、ヒナとシャバゾウを宿屋で寝かしつけてから、僕は指定された場所へと向かった。
そこは船着き場近くにある廃墟工場だ。
なんでも『
僕は鉄の扉を開けた。工場内は真っ暗だが広々とした空間であるのがわかる。
突如、パッと照明がつき、隅々まで見渡せる状態になった。
ちょうど真ん中辺りに、
相変わらず余裕そうな笑みを浮かべながら。
「やぁ、『死神セティ』。どうやらキミ一人のようだね?」
「元々ソロだ。今まで暗殺に誰かと組んだことはない」
僕は
「そうかい。では始めよう――」
すると奴の真上から、幾つも光輝を発した二重の円を描いた魔法陣のような模様が浮かび上がる。
円の中心から、人間の足が出現し真下へと降りていく。
全身を黒装束で包まれた
その数は、ざっと見て100人はいる。
どうやらあの『円』が《|転移門《ゲート》》のようだ。
しかしだ。
「これが俺の《瞬間転移》スキル、《|天心範《テンシンハン》》だ」
なんか美味しそうなスキル名だ。
「……一騎打ちじゃなかったのか?」
「まずは『ハデス』最強と名高き『死神セティ』さんのお手並みを拝見させてもらうよ」
ふん、ほらな。そうくると思ったわ。
何が「いたずらに部下が殺されるだけ~」だ。
外道め、大方は想定済みなんだよ。
「別にいいけど、びびって逃げるなよ――《|生体強化《バイオブースト》》発動ッ! リミッター解除!」