いきなり現れた裸の女性。
見たことのない、とても艶っぽく綺麗な美女だった。
前を隠すでもなく、一糸まとわぬ裸体を僕の前に堂々と晒している。
滑らかな肌の張りに黄金律の完璧なプロポーション。
「あら、誰かいたのね……ご一緒にいいかしら?」
「え? ええ……どうぞ」
美女は微笑みながら頷くと、僕のすぐ隣でゆっくりと温泉に浸かる。
「はぁ、いいお湯ね……貴方、旅の方?」
「ええ、そうですよ――って、お前、誰?」
僕は眼光を鋭く美女を睨む。
「私の名前ですか?」
「そうじゃない。すっとぼけるな、この温泉は僕達だけの貸し切りなんだぞ。しかも専用のタオルも巻かず堂々と裸を見せている時点で怪しいだろ?」
すると美女は「フフフ」と狡猾的で凄艶の笑みを浮かべた。
「――知ってるよ。だからカマかけたんじゃないか、セティ?」
「その口調……ボス、モルスか?」
僕の問いに、美女の姿をした
「そうだ……前回は痛かったぞ、セティ。おかげで死ぬかと思った」
「そのまま死んどけ、このバケモノめ」
「……育ての親に対して酷い言いようだ。それに俺以上のバケモノにそう呼ばれてもな」
相変わらず飄々とふざけやがって……こっちだって『
「んで、ボス。今回は色仕掛けか? 言っとくが敵と判断すれば女、子供の姿だろうと関係ないぞ」
「だろうな。そういう風に俺が躾けたからな」
「じゃ、今回も死んでくれ」
「待て」
「なんだ?」
「今回は別件で来ている……セティ、お前にいい話を持ってきた」
「いい話?」
僕が聞き返すと、モルスは切れ長の瞳を細めて無言で頷いて見せる。
「――セティよ。最近じゃ、エウロス大陸の暗殺組織『
「……だったらなんだ?」
「その組織のボスである『
「なんだと、本当か!?」
「本当だ。そいつの容姿や能力も知っている。聞きたいか?」
「……教えてくれるのか? この僕に?」
問いかける僕に対し、モルスは近づき頬を染め淫猥な表情を浮かべて密着してくる。その豊満で柔らかい胸と乳房が二の腕に接触して、艶っぽく形のよい朱唇を耳元まで近づけてきた。
「
「着替えている可能性もあるんじゃないか?」
「いや、
「地味に僕のことまで言やがって……やっぱり死にたいのか?」
「……すまん。まぁ、
「どういう意味だ?」
「
「転移能力か……厄介だな」
「戦うのであれば、前もって《
《
「そうだな……何故、あんたが僕に貴重な情報を教える?」
「始末して欲しいからだよ、
「なんだと? そういやあんたら、確か大陸間で同盟を組んでいたっけ? 不可侵入条約とか言う……
「その通りだ。しかし世の中には生きてもらうと都合の悪い奴がいる。
「……なるほどね。
「はっ? それとこれとは話が別だろ? 裏切り者は必ず始末する。それが
「じゃあ断る。他を当たれ」
「お前にとっても悪い話じゃない筈だ……少なくても、ヒナという娘が狙われなくなるメリットはあるだろ? 無論、『
「……確かにな。
「別に……倭国の命運を握る重要な王族の末裔とはいえ、他大陸の娘なぞ我ら
「……なるほどな」
少なくてもグランドライン大陸にいる限り、ヒナが
それだけでもメリットは十分にあるか……。
にしてもヒナの両親は王族とは聞いていたが……倭国の命運を握る重要な王族だと?
一体どういうポジだというんだ?
「ボス、引き受ける前に一つ約束してくれないか?」
「なんだ? 『ボスぅ、どうか僕を狙わないでくださ~い』っていう泣き言は断固拒否するからな。セティよ、お前は殺す。その決定に変わりない、その為に色々準備しているんだ」
「こいつ、うっぜぇ……つーか何の準備してんだよ? そうじゃない」
「じゃあなんだ?」
「今後、僕の傍にいる人達に危害を加えるのはやめてくれ。ヒナを含む、彼女達……四人のことだ」
「四人? ああ、グラーテカの勇者パーティか? お前、勇者から婚約者達を寝取ってハーレム満喫中なんだってな? 羨ましいなぁ、この野郎」
やっぱうぜぇ、こいつ! 寝取ってないっての!
僕は咳払いして話を続ける。
「……前に始末したテイマーのタークといい、僕に懸けられた賞金に目がくらみ見境のないバカがいる。僕は逃げるし隠れるけど、戦いとなれば応じてやる。だが彼女達は無関係だ。あんたの口から部下達にそう伝えてほしい」
「都合のいいことを言う男だな。
「相手見てやれよって言ってんだよぉ。もし、あの子達に危害が及ぶことがあれば、大陸中の
「怖っ、やばいわ、こいつ……なまじ執念深く実行するから質が悪い。わかった、俺から指示しておこう。但しまともに言うことを聞くのは下っ端だけだぞ。上級幹部……特に『
「……『
「そうだ。まぁ、そのさらに上がお前だがな、『死神セティ』よ。だが四人が集まれば……ってこともある」
「確か四人とも物凄く険悪な仲で、これまで何度も殺し合いをしていると聞く」
「そうだ。きっと20億Gの四等分では割に合わんと思い組むことはないだろう……だが賞金額を上げればどうなるかな?」
「別にいいよ。さっきの約束を守ってくれるなら受けて立つだけさ……
「間違いなく接触しに来る。だから教えたんだよ、セティ……期待してるぞ。我が半身であり最愛の息子よ」
「そっ。教えてくれて感謝するよ、ボス。これはそのお礼だ……やっぱり今回も死んでくれ」
「ちょ、待っ――うげぇ!」
僕は密着するモルスの綺麗に尖った顎を目掛けて強烈な掌打を食らわす。
その衝撃で美女の首がゴキッと鈍い音と共に捻られ一回りした。
モルスは絶命し身体から力が抜けていく。最後はうつ伏せ状態で湯に浮かんだ。
「そういや、こいつ『魔剣アンサラー』は所持してなかったな……大方、錆びるから脱衣場に置いてきたんだろう。どうでもいい……」
どうせもう消えているからな。
この遺体も放置していれば、
確かそういった処分専門の『掃除屋』が存在する筈だ。僕は会ったことないけど。
僕は湯舟から上がり脱衣場に向かう。
さっきまで裸美女のモルスに密着されたのに特別どうとも思わなかった。
カリナ達にはあんなにドキドキしてやばかったのに……。
勿論、
まったく神出鬼没で困った奴だ。
しかしながら、
「すっかりのぼせてしまった……」
相当長く温泉に浸かっていたからな。