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第22話 ドキドキ温泉に舞い上がる元暗殺者

 テンプレあるあるだけど思わぬ展開に戸惑う、僕。

 まさか混浴だったなんて……。

 幸い今、僕は中央の岩の反対側にいるので女性陣には気づかれていない。

 ここは隠密スキルを発動し、こっそり湯から上がるべきだ。

 彼女達なら見つかっても怒られないと思うけど、はっきり言うと僕自身の問題である。

 ただでさえ、みんな魅力的なのに一緒に湯に浸かるなんて……マジやばい。

「あれ? お姉ちゃん達、こっちにも扉があるよ?」

「あら、本当ですね。内湯もあるのでしょうか?」

「案外、男性用の脱衣場だったりして~。えへへへ、覗いてみる?」

「やめろ、ミーリ! そんなこと……万一本当ならドキドキするではないか!」

「今頃セティ君もゆっくり露天風呂に浸かっているのかしら? うふふふ」

 みんなどうやら男側の脱衣場へと通じる引き戸を見つけたらしい。

 しかも何やら中を見ようと歩き始めているぞ。

 こりゃ上手く湯から上がっても見つかる可能性が高い。

 隠密スキルは「認識」されたら効果が軽減されてしまうからだ。

 カラカラ~っと引き戸を開ける音が聞こえた。

 みんなが脱衣場に入って覗いているのがわかる。

「あれ? 室内の温泉じゃなかったね、お姉ちゃん」

「本当ですね。こちらも脱衣場みたいです……え? 脱衣場!?」

 フィアラが何かに気づく。

 声が裏返る反応に、何も悪いことしていない筈なのに僕の心臓がドキっと跳ね上がる。

「おい、そっちに何かあったのか?」

「見せて見せて~」

「ちょっと、もう仕方ないわね。風引くわよ」

 カリナとミーリエルとマニーサも気になりそっちに行ったようだ。

 これで完全に退路が断たれてしまったぞ。

 いよいよ袋の鼠か……いや、なんの?(自分にツッコミを入れる)

「……間違いなく脱衣所だな。我らはあっちから出て来てから……あれ? あれ?」

「カリナは脳筋だねぇ。見てよぉ、あの服……えへへへ」

 何故、笑う? ミーリエルよ。

「……そういうこと。ふふふ、セティく~ん!」

「はい、すみません! どうやらここ混浴でしたぁ!」

 僕は観念し、ざばぁっとその場で立ち上がった。

「あは、セティお兄ちゃんだぁ!」

 ヒナが声を張り上げ、湯煙の向こう側からこちらへと駆け出した。

「おい、ヒナ! 走ったら危ないから……うわっ、やばっ!」

 僕は大事な部分にタオルを巻いてないことに気づき慌てて湯に入った。

 まずい、お風呂セットはタオルごと湯舟の外側に置いてある。

 ざぁばんっと湯が弾けると共に、ヒナが近づいてきた。

「お兄ちゃん!」

「や、やあ、ヒナ……ははは」

 可愛らしく僕に懐いてくれる、9才のヒナ。

 この子とは何度も一緒にお風呂に入っているのに、状況からか何か気まずい。

 まだ幼女だけど……って、あれ? なんか身体に布を巻いているぞ?

「セ、セティ殿もいたのだな……そのぅ、我らも湯に入ってよろしいかな?」

「はい。湯煙で見えないので今のうちにどうぞ……」

「大丈夫だよ、セティ。アタシ達みんな体に湯衣用のタオル巻いているからね~」

 ミーリエルが言う「湯衣用のタオル」とは露天風呂に入る際、女性が体に巻くエチケット用の大きなタオルらしい。

 ちなみに男性のは存在しない。普通のタオルで大事な部分を隠すだけである。

「そ、そうなんだ……ははは、それは良かったね。僕のはないから羨ましいよ」

 動揺しすぎて自分でも何を言っているのかわからない。

 湯衣用といっても所詮は布だから、結局お湯に入るとそれなりに見えてしまうんだ。

 ちゃぷん

 真っ白な煙の向こう側で、四人が次々と温泉に入っている。

 音も聞くだけで異様に胸が高鳴ってしまう。

「いい湯ですね……セティさん、そちらですか?」

「うん、フィアラ。そ、そうだけど……」

「じゃあ、そっちに行っていいかしら?」

「え? マニーサ、ちょっと……ええ!?」

 僕の反応を他所に、全員が恥じらいもなく近づいてくる。

「えへへへ、セティ。やっと一緒に入れたねぇ」

「う、うん……ミーリ、あんまり近づくと……そのぅ、恥ずかしくない?」

「え? そりゃ恥ずかしいよ……でもセティなら別に」

 ミーリエルは珍しく頬をピンク色に染めて照れていた。

 エルフ族らしいスレンダーな身体がお湯とタオル越しで浮彫となり、肩越から柔らかそうな白肌を覗かせている。

 やばっ……超かわいい。

「そ、その通りだな。我らの黒歴史である『アルタ』なら問答無用で斬首しているが……セティ殿なら寧ろ、う、嬉しいぞ」

 言っていることは物騒だけど、僕に対しては溺愛と受け取れるほどデレて可愛い、カリナ。

 それに体も引き締まっているのに、出ているところはしっかり出ている……普段の女傑な姫騎士とは違って凄く艶めかしく綺麗だ。

 でも、アルタが黒歴史なんて……親同士が勝手に決めた婚約者だったとはいえ、少し可哀想に思えてくる。あくまでアルタの自業自得だけどね。

「わたしも嬉しいです。こうして、セティさんに受け入れて貰って……こうして一緒にいられるのですから」

 ソフィは頬を染めて優しく微笑む。この状況でその台詞とその表情は反則だと思う。

 清楚感溢れる乳白色の美肌とカリナに負けない女性らしく凹凸ある身体つき。普段はゆったりした神官服姿なので、とても新鮮あり美しくて尊い。

 思わず合掌して拝みたくなる。それこそ倭国式で「女神様、ありがとう」ってな感じで。

「みんなの言う通りね……セティ君なら何にでも許しちゃうというか、私もつい甘えちゃうのよね。ふふふ」

 普段と異なり眼鏡を外している、マニーサは瞳を細めて微笑を浮かべている。

 冷静沈着で知性的な彼女も良いが、また違った魅力を感じる。眼鏡を外した姿もとても麗しくて美人だ。

 そして何より、スタイルがやばい。

 魔術師用のローブからでも、目立つバインバインの両胸はくっきりと形が露わになっており、きゅとしまったウェストと形の良さそうなお尻など……凄いことになっている。

 それにいつも塩対応だったアルタと違い、僕には砂糖のように甘々だからギャップ感もやばいんだ。

 本当に綺麗な子達……こうして一緒の温泉に浸かっている僕は男として誰もが羨む幸せな奴なのだろう。

「ねぇ、セティ。もうちょっと近づいてもいい?」

「え!? 駄目だよ、ミーリ! それ以上近づくと見えちゃうから! あっ、いや、僕のがね!」

「我は別に構わないが……見たいと言うか、見せたいと言うか」

 カリナってば何言ってんの!?

 駄目だ……顔中が熱くなりすぎて爆発しそうだ。

 温泉は適温なのに、この状況が恥ずかしすぎてしまう!

「皆さん、もう少し温まってから洗い場で背中を流しっこしません? セティさんも」

 突然、フィアラが提案してきた。

 生粋の聖女だけに自ら誘ってくるなんて……一体どうしたんだ?

 まさかそんなに僕のアレが見たいのか……彼女に限って嘘だろ?

「いや、流石にそれは……僕はもう少しだけ浸かっているよ」

 僕はみんなと違ってすっぽんぽんだし、それにもろみんなの裸も拝んでしまう。

 この見えそうで見えない状況だけでも、既にやばいのに……これ以上は色々な意味でのぼせてしまいそうだ。

「そぉ、残念ね……でも初心なセティ君の表情をみることができて、以前旅をしていた時も、よりも胸がキュンキュンしちゃうわ。うふふふ」

 マニーサはお湯に浸かった豊満な胸をゆさゆさ揺らして恍惚な微笑を浮かべる。

 以前の旅では、ずっと僕は素顔を隠して勇者アルタに扮していたからね。

 にしても、こっちらとしては胸キュンどころか心臓がバクバク高鳴って今にも破裂しそうなんですけど。

 なんかもう皆さん、積極的というか……大胆すぎませんか!?

 それから女性陣は温泉から上がり、互いに背中を流しあってから女性用の脱衣場へと戻って行った。

 僕はずっと湯に浸かったまま、煙の向こう側でキャキャっと弾ける声だけを聞く。

 地味にシルエットで女子達の裸身が浮き彫りとなり逆に焦ってしまう。

「……参ったな」

 独りとなった僕は呟く。

 賑やかなのはいいけど、今後もこういう展開が……それ以上のことがあるとどうしていいのか考えてしまう。

 別に嫌じゃない。

 寧ろ楽しく幸せを感じている。

 楽しすぎて……余計に迷走してしまうんだ。

 僕は彼女達とどう向き合うべきなのか。

 四人の態度からして……やっぱり僕のことを異性として見てくれているような気がする。

 何せアルタと婚約を解消してまで探してくれたんだ。

 ……やっぱりそういうことなのだろう。

 所々、そんな言動も聞かれているし……。

 今の時代、一応、一夫多妻は認められている。

 けど大抵は大富豪や王族がそうであって、あくまで妻や子供達を養うだけの力がある者だけだ。

 とてもキッチンワゴンの売り上げだけじゃ養うのは無理じゃないかと懸念してしまう。

 いくら有力者の娘達とはいえ、僕が養ってもらうのも情けない。

 それに、元とは暗殺組織ハデス最強と謳われた暗殺者アサシン

 こうして人並以上の幸せを手にしていいのか躊躇してしまう。

 カラカラ~

 あれ? 女性用の脱衣場から、また誰か入ってきたぞ。戻ってきたのか?

 一体、誰だ?

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