僕の正体が四人の美少女にバレてしまい、なんだか知らないけど一緒に旅をすることになってしまった。
別に嫌じゃないし偽物の勇者アルタを演じていた時も、ずっと一緒だったからある程度は気心も知れているんだけどね。
ちなみにあの頃、アルタと入れ替わってない時は隠密スキルを全開にして物陰に隠れていたり、馬車の下に張り付くなどして待機していたっけ。
ずっとそういう訓練を積んでいたので特に苦ではなかった。
でも僕が気にしているのは、そこじゃないんだよなぁ。
「セティ殿、ご安心を! 其方の身は、このカリナ・フォン・アランバードがお守りしよう! 騎士の名に誓って!」
事あるごとに姫騎士カリアがテンションを上げて力説してくる。
僕が
いや、僕が心配しているのは自分のことじゃないし。はっきり言って逆の意味だし。
「ごめんなさい、ヒナさん。狭いですよね?」
「ううん、大丈夫だよ。フィアラお姉ちゃん」
すし詰め状態の馬車の中、互いに身を縮め合う少女達。
無理もない。元々はイオ師匠とヒナとの二人とシャバゾウの一匹だけで使用していた馬車だ。途中で僕が乗るようになって若干余裕があるかないかの状態であった。
それが一気に四人も増えてしまえば当然、車内は狭いのは当然だろう。
他には多数の調理道具は勿論、露店用の設備品や寝床用のテントだってある。
しかもウチには馬車を牽引するロバは一頭しかいない。大柄で間抜けな顔をしているが、普段よりも息が荒く辛そうに見える。
人員オーバーが祟っているようだ。
「……少しロバを休めよう。また距離があるし、場合によっては野宿も考えないと」
次の国まで、まだ数十キロほどあるだろうか。
無理しないで一日かけてもいいかもしれない。
ある意味、スローライフの醍醐味ってやつかな。
「ごめんなさい……セティ君。私達が押しかけちゃったから」
眼鏡を掛けた年上で美人なお姉さんのマニーサが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
とても有能な魔術師であり、二つのメロンを育てたような豊満なお胸もご健在だ。
「そんなことないですよ、マニーサさん」
「マニーサでいいわ。敬語も不要だからね、セティくん」
「はい……いや、うん」
「ねぇ、セティ。今はどこの国に向かっているのぉ?」
「うん、北のイズラ王国に行こうと思ってね」
僕の返答にミーリエルはエルフならではの長い耳を垂れ下げながら、首を可愛らしく傾げている。
「ふ~ん、イズラって何かあるの?」
「何かあるってわけじゃないけど、これから暑くなるからね……北の方が涼しいし、温かい倭国料理を中心とした『ランチワゴン』の売り上げにも大きく影響するんだ」
これもイオ師匠から伝授された運営術だ。
一応、冷やしラーメンとか季節相応の料理レパートリーもあるけど、全体的な売り上げを考慮した上である。
「そうなんだぁ。やり手だね、セティって」
「いや、そんなことは……ああ、そうだ。イズラ王国っていえば『温泉』でも有名だったな。特に混浴とかね」
「「「「混浴!?」」」」
何故かヒナ以外の女子達は全員食いついてきた。
「そ、そうだけど何か?」
「い、いや……セティ殿もいきなりそのぅ、大胆だな」
え? カリナ、何が? 何が大胆なの?
「……あのぅ、セティさん。混浴といえば家族風呂とか限定された場所もあるのでしょうか?」
知らないよ、フィアラ。
何で真っ白な頬をピンク色に染めて身体をくねらせているの?
「多分、あるんじゃない? 僕も行ったことのない国だからね」
「ねぇ、セティお兄ちゃん。温泉行ったら、ヒナと一緒に入ろぉ」
「うん、いいね」
「「「「いいのぉ!?」」」」
え!? な、何ッ!? みんな、急に声を張り上げてどうした!?
「セ、セティくんって……あれよね。そういう願望があるって、やっぱり男の子よね」
そういう願望って何んだよ、マニーサ。何か問題でもあるの?
「お互い背中流し合うんだよね……そのぅ、一緒にお湯に浸かって」
当たり前だろ、ミーリエル? 何、ヒナを意識してんの? この子、まだ9才だよ?
ヒナだけなら別に男湯でも問題ないだろ?
あっでも中には変態な野郎もいるか……可愛いヒナがいやらしい目で見られるもアレだな。
「いや、まぁ……せっかくみんなもいるんだし、女子同士だけで女湯に入るのもいいんじゃないか、ヒナ?」
「うん、そうだね。お姉ちゃん達、ヒナと一緒に入ろうね!」
「「「「え、まぁ、うん……」」」」
あれ? 一気に微妙な空気になったぞ?
さっきから何に残念がってんだ?
ま、まさか僕と混浴するとか考えていた!?
いや流石にヤバすぎでしょ……みんなと混浴なんて、そんなの想像するだけで頭がのぼせてくらくらしそうだ。
その日は結局、野宿することになった。
簡易用のテントも一つしかないので、僕は見張り役と称して自ら焚火番を買って出る。
女子達は不満そうな顔をしていたけど、それこそ彼女達と密着しながら緊張してまともに眠れるわけがない。
僕だって一応は年頃なんだし……ヒナだっているんだし、何か間違いがあったら大変だ。
「ギャワッ、ギャワッ」
珍しく幼竜のシャバゾウが僕に寄り添ってくる。
臆病な奴だから、いきなり美少女達が四人も押し掛けてきたことで居場所がないようだ。
僕は真っ白な頭を撫でてやる。地味にこうするのは初めてだなっと思った。
「……悪かったな、シャバゾウ。お前の居場所を無くしてしまって……でも彼女達はとてもいい
勢いでこんな形になってしまったけど、これから共に旅を続けるなら今後のことを考えなければならない。
僕も本心じゃ、みんなといられて嬉しいからね。
失った心を取り戻すきっかけを作ってくれた恩人でもある。
それに男としても……彼女達を守ってあげたい。
翌朝となり。
ドォン! ドォン! ドォン!
乾いた発砲音が響く。
ヒナの
僕は傍で指導し離れた場所から空き缶目掛けて撃つよう指示していた。
「ヒナ、身体は半身に。右手の力は抜いてトリガーを絞るように」
「うん……はい!」
この時だけ、お兄ちゃんから師匠になる。
ドォン――パシュ!
弾丸は見事に空き缶に命中した。
筋がいい。
複雑な心境だが才能があると思う。
いずれ射撃だけじゃなく、他の技術も教えられるレベルだ。
ヒナも『
せめて自分の身を守れるくらいに……イオ師匠が託した大切な子だから。
けど最近、賑やかな環境になってしまったからか、ヒナも自然体でよく笑うようになったと。
特にイオ師匠がいなくなってから、僕に気を遣って無理に笑顔を作っていることが多かっただけに。
そう思えば、カリナ達には感謝しなければならない。
昼前頃には、イズラ王国に到着することができた。
仄かに香る硫黄の臭い。温泉で有名な国だけある。
早速、役場に申請し営業の許可をもらう。
王都の広場にて「ランチワゴン」は開店した。
店はこれまでにない程の大盛況となる。
大衆で溢れかえり長蛇の列となっていた。
理由はわかっている。
――ズバリ彼女達だ。
「「いらっしゃあ~い! 只今ランチワゴンの営業中で~す♡」」
マニーサとミーリエルが呼び込みをしてくれた。
しかも、ふりふりのミニスカートに胸元が開いた、ちょっぴり露出度の高いセクシーなメイド服を着用している。
なんでも旅立つ前に「呼び込み用」で購入した衣装だとか。
しかも普段は
手伝うとは聞いていたけど、二人ともこんなにガチだとは思わなかった。
その抜群のスタイルを誇るマニーサと、アイドル顔負けのエルフ娘であるミーリエルの営業スキルもあってか異様に男客が多い。
本当にランチ目的のお客さんなのか怪しくなってきたけど。
「セティさん、できました! 焼き豚定食です!」
「ありがとう、フィアラ! ヒナ、8番テーブルのお客さんに持っていってくれ!」
「うん、わかったぁ!」
調理場でメイド服姿のフィアラが僕のサポートをし、ヒナが一生懸命にお手伝いをしてくれる。
特にフィアラは勇者パーティだった頃から料理上手なので、少し教えただけで大抵のことはこなせていた。
僕一人じゃ絶対に賄えないだけに本当助かる。
渡りに船とはこのことだ。
さらには……。
「皆の者、ここが我が勧める店だぞ! 美味いぞ~!」
カリナが大勢の男女を連れてきた。
どの人も冒険者風の装い。
そう、カリナは冒険者として活動しながら、わざわざギルド内で呼び込みをしてくれていたのだ。
こりゃまた凄いことになったぞ……。
材料足りるかな?