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第15話 悪党共を瞬殺してみた

 クソォッ! つい怒り任せに出てきてしまった!

 どの道、猶予はなかった!

 こうなりゃ顔バレ覚悟でやるしかない!

「テ、テメェはランチ屋の店主ッ!?」

「んだぁ、兄ちゃん~! よくも仲間をりやがったなぁ!」

「構わねぇ、ブッ殺せぇ!」

 男達が一斉に襲い掛かって来る。

「僕を殺す? お前ら如きじゃ永久に不可能だ」

 まるで線を描くような流れる動きで、敵の攻撃を躱しカウンターの短剣ダガーで首を掻き斬る。

「ぐはっ!」

「は、速い!」

「なんだ、こいつは……ギャア!」

 次々と男達を葬り去り、残るはモキットだけとなった。

「ひぃ、ひぃぃぃ! なんなんだよテメェ! ただの庶民じゃねーだろ!?」

「ただの庶民だよ……外道にとっては『死神』だけどな」

 戦慄し後退りする、モキットに僕はゆったりした足取りで接近する。

「く、来るなぁ! この女達がどうなってもいいのか!?」

 モキットとはポケットから別の小瓶を取り出して蓋を開ける。身体が痺れて動けないカリナ達へと翳して見せた。

 どうやらあの瓶の中に相手を即死させる猛毒が入っているようだ。

「やってみろ。言っとくが時間稼ぎして毒霧で僕を痺れさせるという浅い期待を持つなよ……幼い頃、おやつ代わりにこれ以上の猛毒を致死量限界まで、毎日飲まされていたおかげで毒耐性はカンストしているんだ」

 したがって毒殺でキルしようなんてほぼ不可能。

「うっ、うっせぇぇぇぇ! だったら、この女共からブッ殺してやんよぉぉぉぉぉぉ!」

「だから遅いって」

 モキットが小瓶を振りかざす前に、僕は高速で奴の背後に回りその手首をがっしりと掴む。

 もう片方の腕で、奴のマスクを剥がしてやる。

「なっ!?」

「どれだけの毒なのか、お前が試してみろ」

 そのまま力押しで強引に小瓶を飲ませてやった。

 毒霧の効果でモキットは身体が痺れて抵抗できず、鼻の穴をつまんでやることで否応でも毒をぐびぐび飲んでしまっている。

「ぐがぁ、ごげぇ、あがぁあぁぁぁぁ!!!」

 モキットは顔中が紫色に染まり、うつ伏せで床に倒れる。

 口から泡を吹きながら何度か痙攣して動かなくなった。

 僕は奴の遺体のポケットから、別の小瓶を取り出すと何事もなかったかのように、一ヶ所で蹲るカリナ達に近づいた。

 みんな完全に毒が回りきっており痺れて動けない様子だ。

 全員が僕を見ながら何か言いたそうだが、もう言葉すら発せられないでいる。

 このまま放置していたら危なかったな。

 僕は奪った小瓶の蓋を開けて、フィアラに飲ませた。

「解毒剤です。連中にとって貴女達が大切な売り物である以上、モキットが所持しているのは当たり前ですからね」

「……あ、ありがとう、ご、ございます。セティさん……貴方は、い、一体?」

「僕のことはいい……フィアラさんは回復後に他の女子達を神聖魔法で解毒してください」

 神官のフィアラさえ回復すればあっという間だ。

 何せ彼女は聖母メルサナの生まれ変わりと称されるほどの腕前だからな。

「――随分と好き勝手してくれるねぇ、カッコつけの兄ちゃん!」

 別の出入り口から、ぞろぞろと男達が入って来る。その数、30人はいた。

 集団の中央でニヤっいている、さもリーダー各っぽい男がいる。 

 大柄で額の両方側に羊のような角が生えた妖魔族だ。

 襟の部分にもふもふがついた高級そうな黒いトレンチコートを羽織っている。

「お前が人身売買組織の首謀者か?」

「そうだ、俺はダリガン。見ての通り悪魔デーモン族だ。気に入ったぞ、兄ちゃんもウチのチームに入らないか?」

 ダリガンと名乗った首謀者が誘ってきた。

「断る。興味ない――つーか、全員死んでくれ」

 僕は短剣ダガーを逆手で握り突撃を仕掛ける。

「ちょ、ちょい、待っ……うわぁぁぁぁぁ!」

 そのあまりにも容赦なく圧倒するスピードに、ダリガンと男達が恐慌し戦慄する。

 まさに『死神』が振るう大鎌の如く、雑魚達は一斉に首を刈られ殲滅した。

「う、嘘だろ、おい……こんなあっさりと!?」

 残る、ダリガンは身を震わせ怯えている。

「悪党にかける慈悲はない。殺してやるから早く消えろ」

「ま、待ってくれ! 取引……そうだ俺と取引しよう! なっ、兄ちゃん!?」

「取引? なんの? お金ならいらないよ」

「え? そ、そうだな……女だ! ここにいる女を好きだだけ抱かせてやる――グハァッ!」

「……聞くだけ無駄だったよ。二度と生まれ変わるな」

 僕はダリガンの首と胴体を一刀で切り離した。

 一呼吸を置き辺りを見渡す。毒霧の効果は消えており、フィアラの解毒魔法でカリナ達は回復を見せていた。

 檻に閉じ込められた女性も、彼女達によって解放されている。

 しかし、

「――まだいるな。ずっと殺気を隠している奴。もうバレてるぞ」

 奥側の暗闇から足音も立てずに一人の痩せこけた男が現れる。

 顔色が悪く、ヒナがお祭りの時に着用した浴衣に似た白い衣装を纏った長髪の男。

 腰の帯部分に鞘に収まった剣を携えている。

 剣身が細長く刃が沿ったような変わった形状。

 あれは刀剣カタナか? エウロス大陸で見られる武器だ。

 禍々しい血の臭いと負の魔力で満ち溢れている。相当斬っていると見た。

 ということは、こいつは……。

「エウロス大陸の暗殺組織『闇九龍ガウロン』の暗殺者アサシンか?」

「違うな。俺はラカ・ソロウ。ダリガンに雇われた用心棒、倭国から流れてきた流浪人だ。貴様のほうこそ、その手際、暗殺者アサシンだな?」

「元だ……お前の雇い主は始末したぞ。ただ雇われているだけの用心棒なら、このまま見逃してやる。消えろ」

「……無理だな。ケチくさいダリガンとはそろそろ潮時だったから見捨てたまでのこと。この妖刀が貴様の血を欲している。これまで試し斬りをしてきた女共と同様にな」

 なるほど、こいつも外道か。なら遠慮はいらないな。

「じゃ殺す。あの世で後悔しろよ」

「それも無理だな。こう見ても俺は倭国五番目に最強と謳われた『舞神剣』の使い手だ。その可憐なる剣の舞は相手を翻弄し、まるで巫女が舞う神降ろしのように美しい。そして目の当たりにした敵の心を魅了し、その隙に斬撃を与えるという名付けて――ぐわぁぁぁぁっ!」

「ごめん、話長いわ」

 オレ・ ・は面倒なので《生体機能増幅強化バイオブースト》を発動し、両手短剣ダガーで一気にラカの四肢を切断した。僕の全身には古代魔法の呪文語が刺青タトゥーとして浮かび上がっている。

 何気に「倭国の五番目に最強って……微妙じゃん」と思った。

 達磨となった、ラカはドサッと床に落ちる。切断面から出血がほぼ見られないのは、それだけ鮮やかな斬撃だった証拠だ。

 もう身動きが取れないラグカの首元に刃を添える。

「お、俺の負けだ! 頼む、殺さないでくれ!」

「駄目だ、死ぬ前に答えろ。倭国出身なら『闇九龍ガウロン』について何か情報はないか?」

「ある! あるぞ! とびっきりのナイスな情報だ! だから助けてくれ!」

「よし、話せ」

闇九龍ガウロンのボスの名前を知っている! 確か『黒龍ヘイロン』という名だ!」

「ほう……どんな奴だ? 特徴は?」

「そこまでは……あくまで裏社会の噂で聞いた程度だ。おたくのボスなら何か知っているんじゃないか!?」

「何? 何故そう言える?」

「これも噂だが、五大陸の裏社会を支配するボス同士が互いの利権を犯さないよう同盟を結んでいると聞く……あんた達の方が事情に詳しい筈だ」

「聞いたことはないが、それなら『闇九龍ガウロン』の連中が他所の大陸でわりと自由に活動できているのも合点がいく……ボス同士が取り決めたルールさえ破らなければ済む話か。なるほど……思いの外いい情報だ、ありがとう」

「でぇ、でしょ? だから助けてください!」

「――それとこれとは話が別だ。お前、最初に女性達を試し斬りしているって言ったよな?」

「え? は、はい」

「なら生きる資格なんてないだろ? 情報料として一瞬で脳髄ごと破壊してやる。《生体機能増幅強化バイオブースト》時のオレの拳打なら痛みは感じず逝ける……と思う」

「思うってなんだよ! やめてぇ、ブフグゥ!」

 オレは神速で、ラカの顔面に拳を叩き込み粉砕する。強烈なハンマーで圧縮プレスされたかのように石畳の床ごと陥没させた。

「まぁ、も死んだことはないからね。そもそもクズの痛みなど知るものか」

 僕は《生体機能増幅強化バイオブースト》を解除し素に戻っていた。

 『闇九龍ガウロン』のボス『黒龍ヘイロン』か……次のモルスボスが襲ってきた時に直接聞いてみるのもありだな。

 などと考えごとをしていた時、

「セ、セティ殿……其方は何者なのだ?」

 カリナ達が僕の方をじっと見つめていた。

 囚われていた女性達も解放されているも悪党の凄惨な末路と、その返り血を浴びた僕の姿を見て怯えている。

 参ったな……どうやらもう隠し事はできないようだ。

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