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第14話 美少女達の探し人

「あ~あ、本当だぜぇ。俺ぇ、あいつとは知り合いなんだぁ。良かったら、これから会いに行く?」

「うん、行く行くぅ~!」

 ミーリエルはあっさり釣られた。このエルフっ娘は純粋すぎるあまり、少しお頭が足りないところがある。

 案の定、聡明で清らかなフィアラが止めに入る。

「ミーリ! 簡単に信じてはいけません! モキットさん、『彼』と知り合いと言いましたが、一体どういう関係ですか?」

「まぁ、ダチってところかな~、綺麗な神官のオネェちゃん♡」

 モキットというチャラそうな男は軽い口調で言いながら、勝手に他所から椅子を持ち出して女子達の中に入り座る。

 その光景にちょっとイラっと僕はわざと奴に近づいた。

「あのぅ、お客さん。ご注文は?」

「うっせーぞ、モブ野郎ッ! 気安く話かけんじゃねーぞ、コラァ!」

「おい貴様ァ……セティ殿への無礼はこのカリナ・フォン・アランバードが許さんぞ!」

「うぃす、さーせんした。じゃあ紅茶一杯をください」

「かしこまりました」

 僕はモキットに紅茶を差し出した。

 やっぱり彼女達のことが心配なので離れた位置で聞く耳を立てる。

「貴様、モキットと言ったな。であればそのお方の名はなんという? 身形と特徴は?」

「え? いや……まぁ、あれだ。会えばわかるんじゃね?」

 不意にカリナからの質問攻めにしどろもどろになる、モキット。

 やっぱり怪しいぞ、こいつ。実は知らないでナンパ目的で適当に言っているんじゃないか?

 けどカリナは疑う様子がなく、「マニーサ、どう思う?」と意見を伺っている。

「……正直、胡散くさいけど、『彼』がまた別人に成りすましているのなら、モキットが答えられないのも頷けるわ。私の想像通りなら『彼』の職業は迂闊には喋れないだろうし」

 なんだ? 知恵袋のマニーサまで理解を示し始めたぞ。

 それに、彼女達が探しているらしい、その『想い人の彼』という人物……。

 別人に成りすましているとかって、まさかやっぱり……。

 ――僕のことなのか?

 ってことは、僕が所々で勇者アルタと成り代わっていたのがバレていた。

 にもかかわらず、みんな僕に優しくしてくれて……こうして僕を探してくれているというのか?

 アルタと結婚を破棄してまで……どうして?

 ぎゅっ

 胸が、胸が疼く。

 何かに絞られるようで……切なくて嬉しくて。

 けど僕だと知られるわけにはいかない。

 組織ハデスに追われる者だから……きっとみんなを巻き込むことになる。

 彼女達のような人が決して踏み込んではいけない、殺戮に満ちた闇の世界。

 それだけは――

「ねぇ、『彼』の手掛かりがない以上は行くだけ行った方がいいんじゃない?」

「ですがモキットさんがわたし達に声を掛けてきた理由が引っ掛かります。そもそも、どういう意図でしょうか?」

 ちょろく前向きなミーリエルと違い、慎重なフィアラが問い詰める。

「ええ、ナンパ……じゃなかった。あいつがキミ達に会いたいって言ってきたんだよぉ! シャイな野郎でさぁ! 照れて俺に頼んで来たんだよぉ! いやぁ、これガチ!」

 この野郎、今さらりとナンパって言いやがったぞ。

 仮に『彼』が僕だとしたら、絶対に大嘘をついている。

「う、うむ……こやつの言動は生理的にイラっとするが……照れ屋である『あの方』なら言いかねないかもしれん」

「本当、『彼』シャイだったからね……そこがまた可愛くてね」

 次第にカリナとマニーサが受け入れてしまう。何気に「可愛い」と言われドキッとした。

 残る、フィアラも「……皆さんがそう仰るのであれば」と折れてしまった。

 集団心理というやつか。

 あるいは、それだけみんなが僕に会いたいというのか。

 僕はどうしたら……。

 それから、彼女達はモキットについて行ってしまった。

「ちょろいなぁ……まぁナンパ目的だとわかった時点で、モキットがあの子達にボコボコにされるだろうし」

 何せ現役の勇者パーティ。その強さは僕さえ認める折り紙つき。

 盗賊シーフ如きが叶う相手じゃない。

「……おい、今のってモキットだろ? この国にいたのかよ」

「ええ間違いないわ。冒険者をクビになったっていう……あの子達、可哀想に」

 ふと、テーブル席に座っているお客さんの声が耳に入った。

 如何にも冒険者風でベテランそうな男女。

 どうやらモキットを知っているようだ。あいつ他国から来たのか?

 いやそれよりも……冒険者をクビになった? あの子達が可哀想?

 あの子達って……カリナ達のことか?

「――お客さん、お代は結構なので詳しく教えて頂けませんか?」

 クソォッ、なんてこった!

 僕は冒険者の男女からモキットの話を聞き、青ざめ血相を変えながら店から飛び出した。

 モキットはただのナンパ盗賊シーフじゃなかった。

 奴は裏社会のとある組織を繋がっており、それが理由で冒険者ギルドをクビになったそうだ。

 なんでも若い女性をターゲットにした大規模な「人身売買組織」だとか。

 ああして好みの女性に声を掛けて拉致しては、娼婦や奴隷として商人に売ったり最悪な場合は臓器を斡旋し魔物の餌や生贄にされてしまうと言う。

 このままでは彼女達が危ない!

 いくら屈強の勇者パーティとはいえ、裏社会に属する奴には下手な魔王幹部クラスよりも異質で危険な連中が多い。

 その上、組織的となると必ず屈強の狂人を雇っている場合もある。

 当然、暗殺組織ハデスも関与しているかもしれない。

 あの子達は綺麗すぎるんだ……身も心も戦い方も。薄汚いアンフェアな連中に勝てるかどうか。

 僕は例の《追跡魔法》を発動し、みんなの痕跡を追う。

 街は外れの廃墟地、もう使用されてないであろう教会の前に着いた。

 ここまで足跡が続いている。

 カリナ達は教会の中にいるのか。

 入口前に武装した男が二人見張り番をしている。

 男達がこちらに気づくなり、「なんだぁ、テメェは?」とドスを効かせながら聞いてきた。

 僕は躊躇することなく行動を起こす。

「静かに逝け」

「「ぐえっ……」」

 胸元から串のような形状をした暗器である『棒手裏剣』を投擲し、男達の喉元に突き刺した。

 ろくに声も出せず、見張り番の男二人は膝から崩れていく。

 僕は物音を立てないよう素早く背後に回り込む。屠った男達を両腕で受け止めて、滑らせるように遺体を寝かせた。

 人身売買に加担する外道に容赦しない。

 それから隠密スキルを駆使して内部に潜入する。ちなみにレベルは既にカンストしているので、下手な盗賊シーフより精密で気づかれることはまずあり得ない。

 礼拝堂を覗くと、既に事件は発生していた。

 彼女達が大勢の男達に囲まれていたのだ。

 その数10人くらいか。何故かどの男も魔法が施された特殊マスクを装着していた。

 さらに奥側に鉄格子に覆われた檻があり、その中には若い女性からヒナのような小さい女の子まで入れられている。

 おそらく人身売買目的で拐かさえた少女達に違いない。 それにしても、彼女達の様子が可笑しい。

 四人とも武器を手にしているものの、一ヶ所に固まって小刻みに身を震わせて何か項垂れているように見える。

 ん? この感じ……まさか。

「どうよ~。俺様特性の『毒霧』の効果はよぉ~、痺れるだろ~?」

 マスク姿のモキットはニヤつき声でイキっている。

 その両手には小瓶が握られており蒸気が湧き上がり、薄い霧の礼拝堂中に漂っていたのだ。

 おかげでマスクをつけていない拉致された女性達も影響し、みんな苦しそうに蹲っている。

「モキット、貴様ァ! 我らを謀ったな!?」

「最初から、わたし達を陥れるつもりで……卑怯者!」

「酷いよ! 檻の中の子達はなんなのよ!?」

「人身売買ね! この男達も全員ッ! こんなことしてただですまないわよ!」

「ああ、うっせーな! 身動き取れねぇ、お前らに何ができんのぉ? のこのこついて来た、ちょろさを呪えっての!」

「モキットさ~ん! 売るモノにする前に一人くらいヤッちっていいっすか~? どれもいい女すぎて堪んねぇ!」

「まぁ、檻の女共もいるし、臓器売買なら非処女でも売れるだろうぜぇ。んじゃ、お前ら四人共を盛大に犯してレッツ・パーティーだぁぁぁ、ヒャハハハハッ!」

 モキットと男達は醜悪な笑みを浮かべ、じりじりと彼女達に詰め寄っている。

「我らに近づくな! 貴様らなんぞに純潔を奪われてたまるか!」

「そうです! わたし達には既に心に決めたお方がいるのです!」

「触んないでよ! あっちに行けぇ!」

「あんた達に好きなようにされるくらいなら舌噛んで死ぬわ!」

 カリア、フィアラ、ミーリエル、マニーサは頑なに拒む。このままでは本当に自害しそうだ。

「別にいいぜ~! 俺ら死体でもいけるクチだからよぉ!」

「まんまと騙されたテメェらが悪いんだぜ~! ギャハハハッハ――ウギャッ!?」

「――騙す方が悪いに決まっているだろ! ゴミがぁ!」

 僕は浅ましく高笑いする男の背後に回り頸椎を砕き屠った。

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