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第13話 美少女達の目的

 どうして彼女達がこの国に!?

 魔王を討伐して神聖国グラーテカにいるんじゃないのか!?

 勇者アルタと結婚するために……。

 それにそのアルタの姿も見えない。一緒じゃないのか?

 確かカリナはマニーサとの会話で『彼』を探している様子だった。

 アルタ? いやそれだと「この国にいるのか」という言葉は可笑しい。

 まるで行方知れずの誰かを探している言い方だ。奴だと当てはまらない。

 各々身に纏う装備も勇者パーティにいたころのまま冒険者の姿だ。

 だけど彼女達は一体誰を探し、ここにいるんだろう?

 あまりにも衝撃的な邂逅に、僕は困惑して立ち止まってしまう。

「お兄ちゃん?」

 手をつなぐヒナは首を傾げるも何も答えられない。

 他の見物客に紛れて、彼女達が近づいてくる。

 カリア、フィアラ、マニーサ、ミーリエル。

 四人とも相変わらず変わらない美貌に可愛らしさ。

 その美少女達と一瞬だけ目が合うも、すぐに反らして近づいて来る。

 やっぱり気づいていない。

 当然か。

 今の僕はセティ。

 彼女達が知っているのは、あくまで勇者アルタに変装していた僕だからだ。

 ましてや勇者アルタに偽物が存在していたことは誰も知らないこと。

 大方その辺のモブとしか見てないのだろう。

 ……それでいい。

 僕にとって彼女達は身分や立場が違う眩しすぎる遠い存在。

 所詮は偽りの関係でしか接点はないのだから、このまま通り過ぎた方が良い。

 祭りから戻れば、僕はこの国を離れる。

 もう二度と会うことはないだろう……。

「――お嬢ちゃん、珍しくて可愛い服着ているねぇ?」

 不意にミーリエルがヒナに話しかけてくる。

 確かに浴衣はグランドライン大陸では見られない盛装だ。

 ヒナは愛想よくニコっと笑う。

「ありがとう、エルフのお姉ちゃん」

「きゃっ、この子かわいい~」

「倭国の浴衣って衣装よね? 確か東大陸の……エウロス大陸の方?」

 博学の魔術師マニーさが僕に声を掛けてくる。

 どうやら同じ髪と瞳の色をしているから、ヒナを僕の妹だと思ったようだ

「え、ええ……まぁ」

「幼獣とはいえドラゴンを飼っているとはこれも珍しい。ホワイトドラゴンのようで何か違うようだが?」

 背中に大型剣のクレイモアを装備した姫騎士カリナが聞いてきた。

 だけど聞かれても困る。この幼獣に関しては僕もよくわからない。

「シャバゾウって言うんだよ。山で拾って保護したの」

「シャ、シャバ?」

「倭国の隠語で『ひ弱』とか『イキっているだけの根性なし』とかそんな意味ね」

 え? そんな意味なの? うわっイオ師匠、さらりとエグイな……けどこいつの態度を見ると最もだ。

 そのシャバゾウはイキがらず、ヒナの背後で隠れて虹色の尻尾だけ見せて震えている。

 どうやら彼女達がカンストした勇者パーティ出身の冒険者だと見抜いたようだ。

「エウロス大陸といえば、相当遠いところから来られているのですね。ご兄妹でご旅行ですか?」

 聖女のフィアラが優しげな微笑みを浮かべて尋ねてくる。

「違うよ。セティお兄ちゃんと『ランチワゴン』で大陸中を旅しているの」

「ランチワゴン?」

「移動式のランチ屋だよ。お姉ちゃん達も良かったら来てね~。公園の広場で営業しているからぁ」

「ほう、それもまた珍しい。大方、倭国の料理か……うむ、是非に伺わせて頂きたい!」

 カリナはテンションを上げて賛同した。この子はお姫様の割には食欲旺盛であったりする。俗に言う「大食いキャラ」だ。

「じゃあ、お姉ちゃん達、約束だよ~!」

 ヒナは元気一杯に大きく手を振り、僕の腕を引っ張って離れて行く。

「ええへへ、お兄ちゃん。お客さんゲットだねぇ」

「ああ、うん……」

 僕は曖昧な程度で頷いて見せる。

 本当は祭りを見終わったら、すぐにこの国を出ようと思ったんだけど……。

 仕方ない。僕のことは気づかれる要素もないし別にいいだろう。

 とにかく、みんな元気そうでなによりだ。

 そう思いながら、ちらっと後ろを振り向く。

「あっ!? 気づけば反応が大きくなっているわよ! 『彼』絶対に近くにいるわ!」

 離れた場所で、マニーサが声を荒げていた。

 他の少女達も「ええ!? 本当!?」と大きな声を出している。

 やはり誰かを探しているようだ……アルタじゃなければ誰だ?

「美味い! 美味い! 美味いぞぉ、店主ッ!」

「あ、ありがとうございます。カリナさん」

 夕方、彼女達は本当にやってきた。

 一応、ランチワゴンの準備をしていて正解だったな。

 丸い屋台テーブルで彼女達は輪になって食事を楽しんでいた。

 特にカリナにはヒットしたようで大絶賛だ。

「お世辞抜きで美味しいですよ。えっとお名前は……」

「セティです。フィアラさん」

「はい、セティさん。とても素晴らしい品々ばかりです。是非教えて頂きたいほどに」

 フィアラはにっこりと微笑を浮かべる。彼女も料理が得意だからな。

 倭国料理が気に入ってくれたようだ。

 そういや店に来てから彼女達は名乗ってくれたのに、自分の名前は言ってなかったな。

 別に支障はない筈なのに色々な意味で心に余裕がなかったかもしれない。

「ラーメンも美味しいけど、チャーハンもいいね」

「本当ね。私はこの天ぷらが気にいったわ」

 ミーリエルとマニーサからも好評のようだ。

「えへへ、セティお兄ちゃん料理上手でしょ? お父さんのお墨付きなんだから」

「いいなぁ、ヒナちゃん。優しいお兄さんがいて~」

「そうでしょ、エルフのお姉ちゃん」

 まるで自分のことのように自慢げに胸を張る、ヒナ。すっかり自慢の兄扱いで照れてしまう。

「うむ、ご馳走になった! たっぷりと倭国料理を堪能させてもらったぞ、店主!」

「お粗末様です」

「しかし、ヒナ殿ではないが羨ましいな。このような立派な兄上がおられて」

「いえ、カリアさん……僕なんか、まだ」

「卑下することはないわ。その若さで妹さんを支えながら立派に店を切り盛りしているんですもの……尊敬しちゃう」

「ありがとうございます、マニーサさん」

 僕は一礼しながら、彼女が手の平で何かを翳しているのが気になる。

 何かの布のようで魔法陣が浮かび、さっきからずっと赤色に点滅している。

 ハンカチに見えるけど……。

 つい興味が湧いてしまう。

「……なんですか、それ?」

「え? ああ、これね……ある人を探すための手がかりよ」

「ある人? 『彼』でしたっけ? お祭りの時、つい聞こえてしまったので……」

「そうよ。私達の想い人よ」

 想い人か……やっぱり勇者アルタのことか。

 どうせまたどっか遊び歩いているんだな、しょーがない奴め。

「皆さんの彼氏さんとか婚約者さんですか?」

「「「「婚約者ぁ!? ハッ、まさか!」」」」」

 四人とも「婚約者」というワードで過敏に反応し声を荒げる。

 しかも鼻で笑われてしまった。

 どうして?

「店主、いやセティ殿だな……我らに婚約者などおらん!」

「は、はい?」

「その通りです! なんて汚らわしい響きでしょう!」

「フィアラの言う通りだよ~! 誰かが勝手に決めた奴なんかより、自分の好きな人と一緒にいたんだからね!」

「セティ君。これはそのためのモノなの……『彼』に近づくことで魔法陣の色が変わり、こうして点滅する術なのよ」

「へ、へ~え。じゃ、その『彼』はこの国のどこかにいるってことですか?」

「そうよ。この反応、絶対に近くにいるわ! 間違いないの! でも、それ以上の手掛かりがなくてね……」

 な、なんだ? どいうことなんだ?

 婚約者がいないって……アルタと別れたってことか?

 じゃあ、探している『想い人の彼』って……もしかして。

「うぃ~す! 綺麗なオネェちゃん達ぃ~、パリピってるぅ~?」

 突然、妙な若い男が声を掛けてきた。

 目尻が垂れ下がった優男風で金髪の長い髪を毛先で遊ばせた身体の線が細い、一見して町人風。

 しかし僕の目は誤魔化されない。

 軽快な足取りから盗賊シーフだと見切った。

 組織ハデス暗殺者アサシンではないのは確かだ。まるで殺気を感じられない。

 それに僕の前で迂闊に現れる奴なんて三流以下の雑魚だ。欠片も恐れる必要はない。

「なんだ、貴様は……パリピとはどういう意味だ?」

 カリナは男に対して、切れ長の眼光を鋭く浴びせている。

「おっと怖ぇ~、盛り上がっているかって意味だよ~ん。気にしないでくり~。俺ぇ、モキットていうんだぁ」

「それで、わたし達に何の用ですか? 大した用がないのなら消えてください」

 フィアラは伺いながら毒を吐く。基本、この手のチャライ男が大っ嫌いである。

「かわゆいのにきちぃな~! おたくら『彼』って奴、探してんだろ? 俺ぇ、知ってるぜ~」

「「「「本当ッ!?」」」」

 その一言で、少女達は過敏に反応した。

 ちょい皆さん! ちょろくありませんか!?

 にしても、モキットって男……なんだ、こいつ?

 思いっきり胡散くさいぞ。

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