―吸血鬼城・ドラキュラス
「騒がしいわね。冒険者達を倒すに失敗したのかしらスタースライム」
城主の間でイワンは紅茶を淹れてティータイムをたしなんでいた。
「この城で最後のティータイムくらい静かに過ごしたかったわ」
カップをテーブルに置き、イワンは戦いの準備を始めた。
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金策アイテムを稼ぎに稼ぎ、ついに尚樹たちはイワンが待っている場所に訪れた。
「ようこそ、ドラキュラスへ。私はこの城の主、イワン=ルナミス。八輝将の1人としてあなた方を向かい打ちに来ました」
「…あなたに恨みはないですが、ブリダッタスの人のために倒させていただきます」
「…いいでしょう」
本日2回目のボス戦に入る。
八輝将・イワン=ルミナス。吸血鬼であり、アンデット系モンスターを操っての攻撃や、闇系の呪文攻撃を得意とする。
だが戦い方はスタースライムの時と同様である。
「ファイアグレネード!」
「うっ!!」
投擲武器であるファイアグレネードの連打。素早さの高い仲間からの5連打でイワンに大ダメージを与える。
イワンも反撃をするが、大したダメージを受けずに尚樹たちは再度ファイアグレネードの攻撃を受けて倒されてしまう。
煙が飛び散るように消え、彼女がいた場所の後ろには財宝が詰まった宝箱がたくさん置かれていた。
「わーい! お宝取り放題よオオオオ!」
ヴェルザンディは宝箱の財宝に目を輝かせていた。
「すいません。ちょっと見て来たいところがあるので少し失礼します」
尚樹はそう言っていったん別行動をとった。
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―ナイトメアフォレスト・ブラパール海岸
「気をつけてな」
「お前に心配されるいわれはない。ヘボ四天王」
「ヘボとはひどいな」
「あのバカ魔王に仕える四天王なんてそんなものでしょう」
イワンは海岸で出航の準備をしていた。尚樹達が相手をしていたのは魔術で作り出した影武者であり、本体のイワンは自身の依り代であり本体の吸血船『イワン・ルナミス号』で待機しており、魔王軍四天王である半獣魔人のプレアデスに八輝将を脱退することを告げてナイトメアフォレストから去る予定だった。
「以前の大魔王様がいた魔王軍と大分かけ離れてしまったわ。あなたをヘボにしたあのバカ魔王の下にいるなんてもう我慢できないもの」
「まあ、プレアは前からあいつに嫌われていたからな」
プレアデスは寂しそうに笑った。
先代魔王が健在の頃、魔王軍に多大な利益を与えた彼を評価し四天王にのし上がったプレアデスをブルーブラッド2世は気に入らなかった。
彼は半獣魔人という獣人族と魔人の間に生まれた種族で、獣人は魔族から格下の生物と差別されていたため半分の血が混ざっている彼は多くの魔族から蔑まれていた。
獣人からも魔族の血が入っていること、獣人の証である耳や尻尾が無いことが理由にのけ者にされていた。
だがプレアデスは持ち前の明るさと、努力家な面で力をつけて自分の非力さを補うべく機動兵器・ハードギガントを製作し、ブリダッタスを侵略し国土の3分の1を奪って魔王軍の領地にし、魔王軍に貢献したのだった。
そして彼は優しく、どんな部下にも分け隔てなく接していたため多くの魔族から慕われていた。そのため実績とカリスマ性を持った彼を先代魔王は跡継ぎにしたいという程評価していた。
それを他の出世欲のある魔族や大魔王の息子であるチャラン・ブルーブラッドは気に入らなかった。自分より格下の半獣魔人にトップの座を奪われることが屈辱的で我慢ならなかった。
そのためチャラン・ブルーブラッドはブルーブラッド2世として大魔王が勇者と相打ちになった後、無理矢理大魔王の地位を得て、彼と彼の部下がいる軍を冷遇し始めた。
プレアデスから予算の節約を理由にハードギガントを奪い、物資も最低限にしか与えず常に苦戦の強いられる状態にしたのだ。魔王軍の領地が守れなくなるのも時間の問題だろう。
「プレアデス、私の眷属になりなさい。そして永遠に私のしもべになって」
イワンは自身の血液が入ったワイングラスを渡す。しかしプレアデスはそれを拒否する。
「それは出来ない。プレアにはまだ仲間がいる。そいつらを見捨てていけない」
「…私の眷属になれば永遠の命も、吸血鬼の力も手に入るのよ。私とずっと一緒にいられるの」
「でも吸血鬼になったらプレアはお日様の下で寝れないからなあ」
「…プレアデスの分からず屋。どっかの冒険者と戦って負けちゃえばいいのに」
「ああ。そうなったら魔王軍クビになるから雇ってもらおうかな~」
「バカ」
イワンはグラスを地面に叩きつけて泣きながら船に乗り出航した。
「嫌われちゃったなあ~。まあ、プレアは元々魔族から嫌われてるからなあ~」
その様子を尚樹は木の陰から見ていた。
「そこの冒険者、今は戦う気が無いからそっから去ってくれたら戦闘はしねーぞ」
「…プレアデスさん。それでいいんですか? 多分イワンさんは…」
「いいんだよ。プレアに構って一緒に死なれちゃ困るしな。まだやり残したことがあるし」
「…孤児たちのことですか?」
「…どこまで知っているか知らねえが、戦うなら容赦しない」
「いえ、僕らも戦闘したばかりで疲れているので、ここを早めに立ち去ります」
「あいわかった。まあ、いずれ戦うけどプレアは強いから覚悟しろよ!」
プレアデスはそう言って去っていった。
「プレアデスさん。あなたは敵キャラだが…助けたい」
尚樹はプレアデスのたどる運命を知っていた。だがそれでもできる事なら助けたかった。