クソゲー雑学・2
なぜモンスターのエンカウントはしないのに、盗賊ギルドを街中でエンカウントするようにしたのは
『そういった敵ギルドの存在があれば、緊張感が生まれゲームの面白さが増すと思ったから』
という理由かららしい。
なおプレイした動画投稿者からは、
『こんな初見殺しイベントはストレスにしかならない。しかも経験値を貰えないならより一層意味がない。報酬もしょぼすぎる』
と言われた。
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―数年前・中学生剣道大会会場―
「この大馬鹿者!!」
竹刀によって尚樹の体を叩いているのは実の父である佐藤孝。そのあまりに異様な光景に会場の設置片づけをしていた関係者が止めに入る。
「オレの息子の癖にベスト8止まりとは恥を知れ!」
「何やっているんですか佐藤さん! 彼の相手は去年の準優勝者だったんですよ! それに初出場で全国ベスト8なのは十分凄いことです!」
「ふざけるな! オレはこの中学の時大会で優勝しているんだ! そのオレの血を引いておいてこのざまとはなんだ! この役立たずが!」
思いっきり背中をしないで叩き、竹刀を投げ捨てる。
「負けた罰として10,000回素振りをしてから走って帰って来い! バスやタクシーを使って帰るのは許さんからな!!」
そう言って孝は1人帰っていった。
「佐藤さん。何もそこまでいうことねーじゃねーかよ…」
「幹部候補になってからより一層、性格酷くなってるからなあ…」
佐藤の同僚や部下たちは彼が出世街道を行くようになってから周囲への当たりがひどくなったり、権威を振りかざす傾向が出始めたのに危機感を感じていた。
以前からプライドが高く、自分は他人とは違うと言わんばかりにマウントをとるような節があったが、役職が上がるにつれてよりそれが顕著になっていった。それが自分の血を引く息子にさえも向いていた。
「尚樹君、何も馬鹿正直にやることは…」
「…父は厳しい方ですから…」
尚樹は立ち上がり、竹刀を持つと素振りを始める。
父は厳しく1度も自分を褒めたことはない。ただひたすらに偉くなること、他人のような必死になって働いても評価されない仕事をするなと言われ続けた。
その日は結局、大会の疲れと素振りのせいで走るのが困難になり父の同僚の方に送迎された。
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「うん…」
目が覚めると、どこかの施設のベットの上だった。
衣服は上が脱がされ包帯が巻かれている。そばにいたジョーは看護に疲れていたのかヨダレを垂らして寝息を立てて椅子に座っていた。
「ぐうう~…ぐう~…」
「すいませーん…」
尚樹はジョーの体を揺らして起こす。
「おっ…? おお! 気付いたか! 怪我の方は薬を塗っておいたから1日もすれば治るみたいだからよ! 」
「あ、ありがとうございます」
「盗賊ギルドに襲われてそれだけの傷で住んだのは幸運だわ」
そこに薬を持ってきたマイが現れる。
「ジョーと私が帰ってきたタイミングでよかったわね。じゃなきゃアンタ今頃盗賊ギルドで悪事の片棒を担がされるような仕事に携わっていただろうからね。仲間と行動しないとここじゃやっていけないわよ」
「はい…」
「お前もしかして1人なのか? 良かったら俺達と一緒のチームに入るか?」
「ありがとうございます。ですが実は…」
尚樹はジョーにこれまでの経緯を転生の事を隠して説明した。
「仲間とケンカかあ…」
「まあ、双方の意見はわからなくないけど。…ただ人任せって感じね。冒険者になったら自分で解決できる実力がないとやっていけないわ。クサゾウに頼るのはいいけど自分が強くならなきゃいつまでたっても誰かに頼らないといけない人間になるわよ」
「うう…」
「けどそれが悪いってわけじゃない。アンタはそういう部分の判断力があるから経験を詰めば立派な冒険者になれるよ!」
「マイ。ならやることは決まったよな」
ジョーは斧を磨きて背負う。
「ええ。この子たちに協力してあげましょう」
ジョーとマイは尚樹の試練に協力することを決めた。
「いいんですか?」
「盗賊ギルド相手に屈しなかった度胸は気に入ったぜ! 全部手伝ってはやれねえが冒険者になるための試練くらいは協力してあげるぜ!」
「あんたのお人よしが私にも映ったのかしらね…。まあ、私もアンタのことは嫌いじゃないわ。任せときなさい!」
(本来のゲームになかった展開になってる…。ジョーとマイさんが一時的に仲間になるなんて)
マイはストーリーが進んで条件を満たさないと本来仲間に入れないキャラだがまさか仲間になってくれるとは思わなかった。
と考えていた時、扉を強く開ける音がしてヴェルザンディが慌てて入ってきた。
「尚樹! 大丈夫!?」
「ヴェルザンディさん!?」
「盗賊ギルドに襲われたって聞いたけど! 怪我は!? 」
「心配いりませんよ。ジョーさんとマイさんに手当を受けたので、1日もすれば回復しますよ」
「うっ…うううよかったアアアアアー!!」
ヴェルザンディは泣きながら尚樹に抱き着いた。
「ごめんなさあああああい! 私の我がままで迷惑かけちゃってええええー! ホントにごめんなさあああああい!!」
ヴェルザンディは泣きながら謝っていた。尚樹はヴェルザンディの整ってない髪の毛と泥だらけの靴を見て自分を必死に探してくれたのだとわかった。
「ヴェルザンディさん。心配かけてすみません。そしてありがとうございます」
(何も成し遂げたことのないボクですが、あなたと共にこの世界で生きていくため、強くなります…!)
「良いコンビになりそうじゃねえか?」
「バカね。そんなもんじゃないでしょ」
ジョーとマイは2人の再会に喜んだ。