「ダンジョンってこんな感じになっているんだね」
アケミの一言が全員の状況を簡単に物語っている。
呆気に取られている、というわけではないが、口を半分開けたまま当りを見渡していた。
俺も自然な風に。
「とりあえず、ここはモンスターが責めてこないみたいだし、軽い策戦でも立てておくか」
「そんなことをしなくたって、どうせ最初から決まってるでしょ」
「まあそうだな」
アンナは手厳しい感じで言ってきているが、本当にそれはそうである。
なんせ、俺達はゲームをしている時から、こういう時の臨み方が決まっているからだ。
「徹底的に警戒し、慎重に行く」
「おいケイヤ、横取りするなよ」
「だって、そうでしょ?」
「その通りなんだけども」
「ははーっ、カナトが考えていることはわかりやすいなー。それじゃあまだまだだね」
ミヤサ、思ったことをすぐ口に出すお前だけには言われたくないんだが?
「というわけだ。たぶん、ゲームの世界と大体は同じだと思うが、今の俺達にとっては初めてのダンジョン攻略となる。だから、作戦通りで行こう」
みんなから許諾があったところで、全員が武器を取り出す。
「それにしても、予想外に他の冒険者の人っていないんだね」
アケミの一言に、今更ながら気づく。
たしかに、俺が一人でダンジョンへ来た時も、必至だったからというのもあるが誰かの目線を一度も感じることがなかった。
俺ら的にはとてもありがたいことではあるが、何か理由があるのか、単純に別の入り口があったりするのか。
それを確認するのはリラーミカさんに聞きにいけば良いだけだろうが、めんどうだし、好都合だから今は良しとしよう。
「まあ、俺達には好都合だし、良いんじゃないか?」
「そうれはそうだね」
「じゃあ、早速レベリングといくか」
俺達は足を進めた。
すると、モンスターにはすぐ出会えた――という風なリアクションをしなければ。
「お、初モンスターのお出ましだ」
「ゲームと一緒なんだね」
「じゃああれはマウシーってことか」
「あははっ、予想よりもちっこーい」
「あんた、油断するなって言われたばっかでしょ」
「全然油断なんかしてないよ~」
鼠頭の小人、と簡単に説明できるし動きも人間に似ているから、最初のモンスターとして配置されたのだろうか。
制作人の意図はわからないが、まあ、正解だったんじゃないか。
攻撃が予測しやすいし、嫌悪感を抱きすぎずに済む。
「じゃあ最初は俺から」
パーティ戦の基本。
盾役が最前線に立ち、モンスターの注意=ヘイトを一身に受け持つことにより、他の人が思い通りに攻撃ができる。
一見危ないように思われるが、俺以外が攻撃のみに集中できるから、モンスターを倒すまでの時間が短くなるから、無理さえしなければこちらの方が安全だ。
ヘイト管理ができるスキルがあるとさらに楽だが、今はレベルが足りてないから取得できていない。
まあ、初見じゃないしそこまで思慮深くいかなくて済むから別に良いが。
『シャッ』
まずは一体。
俺に反応したマウシーは、迷うことなく俺へ一直線。
様子見であっても、さすがに全員でタコ殴りにはせず、誰か一人が攻撃するはず。
「それじゃあ一番、行っちゃうよーっ!」
まあそうだろうな、と思いつつ、俺はマウシーが持つ斧の攻撃をあえて盾で受け止める。
「せいっ」
ミサヤは普段、お転婆というか馬鹿正直という言葉が似合うほどではあるが、戦闘に関しては冷静かつ大胆だ。
無防備な敵を前にどう失敗するのか、という話ではあるが、ミサヤはマウシーの背後にしっかりと回り込み、首を切断した。
確実に絶命へと至る攻撃を、的確に。
「はいはい、なるほどね。こういう感じかぁ」
「ほら下がった下がった。次」
一撃で絶命し、そのまま灰となって地面に崩れ落ちる光景を前に、戦闘の感触を味わって感心しているミサヤを下がらせる。
タイミングよく、次のマウシーが姿を現したからだ。
ミサヤがぴょんぴょんと下がっていくのと当時に、俺は剣の側面で盾の面を叩いて音を出す。
『シャ!』
リアルな反応をどうも。
人間と同じく、不意な大きい音に体を一度跳ね上がらせ、こちらへ振り向く。
そのままお怒りモードへすぐに移行し、俺へ一直線で迫ってくる。
「ファイアボール」
後1秒ぐらいで接触するはずだったが、マウシーは目の前でボッと燃えて灰となっていった。
これは誰と予想しなくてもわかる。
「ふんっ、あたしにかかればこんなもんよ」
「まあそうだろうな」
アンナは、口では尖った言葉を吐いているが、その少し高めの声から、ちょっと嬉し得意気にしているのが察せられる。
そりゃあ、最初の方は魔法系が最強なんだから、それはそうだろ。
特にこんな序盤なんか、魔法系の攻撃で一撃なんだから、こういう結果になる。
…‥‥と、ツッコミを入れたいが、たぶん今日はこの調子のままだろうから、次だ次。
「タイミングが良いぞ、次」
モンスターが湧くまでの時間の感覚が短くて助かる、なんて雰囲気で話しているが、先に経験しているから知ってはいるんだが。
「じゃあ、次は僕が」
「おうよ」
ケイヤの番だが、俺は攻撃を盾ではなく剣で受け止めることに。
理由は、マウシーが手に持つ斧が関係している。
『シャ?!』
そんな人間みたいにわかりやすいリアクションをされると、こちらが困ってしまう。
俺はマウシーのわかりやすい、上部に持ち上げ垂直に下ろされる斧へ剣で受け止めるわけだが、斧の刃部分に合わせるのではなく、L字になっている角へ剣を合わせる。
ここでは受け止める、というよりは、剣を斧に引っ掛けるといった方が正しい。
「ふんっ」
そして、そんな完全に無防備となった脇腹に槍を突き刺す。
人間で言うところの肋骨部分に。
今回も悲鳴すらなく灰となって消えていくが、これはこれでエグいよな。
ここら辺は、たぶん一撃で倒せるだろうが、そうじゃなかったとしても致命傷は致命傷だ。
その的確な攻撃は、一撃当てられれば、後は放置していても勝手に体力が削れていくんだから……あれを人間相手にやったら、と考えると怖すぎる。
「相も変わらず的確な攻撃だこと」
「ありがとう」
「んじゃ、一旦下がりで」
「アケミ、それでいいな?」
「うん。問題ないよ」
この流れも、実はいつも通りだ。
アケミは、戦闘IQというものがあるとすれば、ゲームIQというのも高く、抜群の分析力を活かし脳内シミュレーションを行い、それはほとんど初見だというのにすんなりとやってみせてしまう。
感覚のズレは多少こそあれど、ゲームを一番遅く始め、俺達とゲームをしていてもストレスにならないのはそういうのがあったりする。
最初これを目の当たりにした時には、俺達は驚きを隠せなかった。
「じゃあ、小休憩後にペースを上げていくぞ」