別れの日の朝、俺達は門の外まで出て見送りに来ていた。
「それじゃあ元気で」
「ありがとう」
「短い間でしたが、本当にありがとうございました」
「こちらも楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」
最後も笑顔で、なんて思ってはいたがやっぱり無理だな。
俺達は互いに頭を下げ合い、握手を交わし合った。
「それではここで長話をしていても他の人の迷惑になるから、行くね」
「ああ」
「僕、もっと練習して今より強くなるよ」
「心配するな、アルマにならできる」
戦いのセンスがあるかは正直わからない。
少なくとも、一日二日打ち合った程度では計れないし、俺が評価して良いものとも思わないが、戦う中でアルマの強い意志を感じた。
それに、アルマには高い学習能力と物事を的確に分析できる頭がある。
「保証はできないが、明言はできる。もしもの時があったら、勇気を振り絞るんだ」
「そうだね。一歩踏み出す勇気、だね。――ははっ、でも、もしかしたらこの全身の筋肉痛のせいで咄嗟に動けないかもしれないね」
「おーう、言うようになったな。別れの挨拶ついでに、もう一ヵ所ぐらい打ち込んでやろうか?」
「あははっ、冗談冗談。そんなことをされたら出発は明日になっちゃうよ」
今思えば、最初の出会いから打ち解けるまでの間、アルマとバルドさんもこちらを警戒していたんだろうな。
最初のクールな印象から一転、ここまで距離感を急接近できるなんて思ってもみなかった。
今となっては――そうだな。
「じゃあな、親友」
俺はアルマへ拳を差し出す。
「――ありがとうカナト」
アルマは俺に拳を合わせる。
それを最後に、アルマとバルドさんは馬車へ向かった。
俺達は、あの木々に姿が消えるまであの姿を見送る。
「じゃあ、俺達は戻るか」
俺達は再び門を跨いたが、ここで良い機会だと判断し、話を切り出す。
「みんな、ちょっといいか」
詳細を話す前に人気の少ない路地裏へと向かうことにした。
薄暗い路地裏、完全に人気がないのを確認して足を止める。
「さて、名残惜しいところではあるが、これからは俺達が自由に動ける時間だ」
「今後の予定を立てるというわけだね」
「そういうことだ」
「そうとは言っても、どうせ方針は決まっているんでしょ」
「いよいよアンナに指摘され始めるということは、俺ってそんなにわかりやすいのか?」
「いまさら?」
「ミサヤにツッコみを入れられるということは、いよいよだな」
「あー! なんかボクだけ扱いが酷いような気がするんだけどー!」
「それは日頃の行いってやつよ、諦めなさい。それで、どんな感じに考えているの?」
アケミの質問に答えるかたちで、俺の中に固めてある案を出す。
「過信は危ないが、恐らくこの世界の住人には俺達と同じようにステータスはない。それにインベントリといったゲーム的システムも。だから、これからも今まで同様にできるだけ隠す」
「そうだね。僕達だけにそんなものがあると知られたら、下手したら研究対象にされたりし兼ねないからね」
「そうだ。緊急時の時は仕方ないが、それも人の目が多い場合はできるだけ避けてくれ」
みんなが頷いていることから、意見の一致を汲み取った。
「それで、だ。俺達の目標は変わらず、最強の冒険者を目指すってことだがいまいち具体性に欠けるのは事実だ。現時点での最強冒険者ってのもわからないしな。だから、まずは俺達にはいつも通りのことをやろうと思う」
みんなはニヤリと口角を上げる。
さすがは廃ゲーマーの集まりだ、わかっているじゃないか。
「レベルアップだ」
その言葉を待っていましたかと言わんばかりに、もう片方の口角も上げ始める。
「またあの日々が始まるんだね」
「アケミが乗り気ってのはちょっと以外だな」
「そう? 私だってゲーマーになっちゃったんだし、ここ数日はゆったりとした時間を過ごしちゃったからそろそろ体を動かしたいなって」
「ボクもボクも! あ、でもでも、アケミって体を動かしたい理由ってそうだったっけ? お腹周りをぷにぷにって摘まんでうーんうーんって唸ってなかった?」
「ミサヤそれは……」
「がふっ」
アンナの忠告虚しく、アケミの手刀がミサヤの脇腹を襲い、ミサヤはそのままうずくまってノックダウンしてしまった。
現実世界と同様に体重が増えるんだな、という収獲は得られたが、あの様子を見るに口に出したら終わる。
今後とも絶対に気を付けなきゃな。
「じゃあ早速ダンジョンへ――と言いたいところではあるが、安全策をとったとしてもやはり最悪を想定して動きたい」
「じゃあ、まずは消耗品の調達ってことだね」
「そういうことだ」
常に最悪を考えて策を練り動く。
これは俺達がゲームをしていた時のモットーである。
無理をしなければダンジョンの最初のモンスターと戦闘すれば良いじゃないか、と思われるが、もしも想定外のモンスターが乱入して来たり、
「そうと決まれば早速行動だ。できれば携帯食料なんかも調達しておきたい。今のうちに釘を刺しておくが、スイーツをインベントリに入れようなんて考えるなよ。買いに行っている時間なんてないからな」
三人は体をビクッと肩を跳ね上がらせた。
「やっぱりな」
苦笑いを浮かべて誤魔化そうとしているが、見え見えだぞ。
「んじゃ、行くか」