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第15話『修学旅行みたいでワクワクだ』

 本来、効率的に行くのであれば、宿を確保し、そのまま真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かうのが真っ当なんだが……こんな時ぐらい、少しだけわがままを言っても許されるよな。


「せっかくなので、宿へ行く前に遠回りになってしまいますが、いろいろと見回っていきますか?」

「お二人が大丈夫なのであれば、是非ともよろしくお願いします」


 噴水から溢れる音を聞きながら、少しの間だけ雑談をしてる流れでこうなってくれた。


 この申し出は本当にありがたい。

 のと同時に、失礼ながらもアルマという人間を少しだけ見くびっていた。

 あくまでも個人的な意見にしかすぎないが、お金持ちのボンボンっていうのは、物語上、良い印象と悪い印象のどちらが強いかと言われると後者になりがち。

 しかし、数回しか会話を重ねていないが、こちらを深く詮索せず、だが会話の趣旨やこちらの意向を見事にくみ取ってくれている。

 見下していたわけではないが、想像以上のやり手の様だ。


「それではまず、生活圏内である装備系の店に消耗系の店、後は二店舗ぐらいの飲食店に行きましょう」

「とてもありがたいです。そこまで知ることができれば、当分は困らないですね」

「好みもあると思いますので、後日探索してみるといいかもしれません」

「それもそれで楽しそうでワクワクしますね」


 二人の先導の元、俺達一行は歩き出した。

 通路自体はそこそこ広く、俺達が五人並んでも問題ないが、道行く人々のことを考えるとできても二列ぐらいだろう。

 俺は懲りずに景色を楽しみたいがために最後尾へ。


 先ほどの広場や、あそこまでの通路を頭の中で整理すると大体の構図がわかってきた。

 大きめな建物の前は噴水広場のようになっていて、そこまでは家々が壁となるように連なって通路の役割を果たしている。

 家々の間が少しだけ空いていたりして、裏道のようなところまで伸びているのを確認しているが、行ったところでたぶん楽しいことにはならないだろう。


 視線を上げるとわかる通り、建物は二階建てがほぼ全てで、空を見るためには遮られているとはいえ青空を拝むことはできる。

 今は陽が高いからだろうが、日が傾き始めたら影の角度が変わって暗くなりそうだが……なるほど。

 街灯がないのか見渡してみたが、なかった。

 だけど、よく見て見ると電気では点かないような街灯みたいなのが壁面に取り付けられている。

 中には、蝋燭のような、何と言えばいいのだろうか……そう、野球のボールが現実世界の街灯と同じガラスに入っているようだ。


 あれがあるなら、暗くなってきても問題はないか。


「あれって、どういう原理で点くんだろうな」

「それ僕も思った」

「そりゃあ暗くなったらパッと明るくなるんでしょっ」

「それはそうだろう」


 一列前を歩くケイヤとミサヤが俺のつぶやきに対して反応してくれたが、考えることは一緒だな。


 この街に入ってからいろいろと観察しているが、それだけでもこの世界についてわかることができた。


 ガラス細工を扱うことができ、この通路から荒々しく家を建てるのではなく、整備しながら全体を見渡すような技術がある。

 それだけではなく、俺達には……いや、少なくとも俺には説明を聴いたところで理解出来なさそうな技術があるといういことだ。

 どこかで説明を受けられるタイミングがありそうではあるが、そういうのは俺ではなくアケミに任せたいところ。


「装備系の店に行くなら、ホルダー的なのは欲しいかもね」

「あー、確かにな。ケイヤとアンナは少し大変そうだ」


 というのも、俺・アケミ・ミサヤの剣を扱う側は剣を出した際に鞘が自動で腰に装着されていた。

 だから、こうして移動している際に剣を鞘に納刀して、俺の盾はそのままでもいいが、ケイヤは自身の身長ぐらいはある槍を持っているため、手に持っている以外の選択肢がない。

 アンナの杖も大体それぐらいで、大変そうだ。

 ゲームの世界とは違って、疲労を感じるこの世界なら尚更。

 どちらも縮小できるとかならいいんだが、あの二人の前で武器が急に消えたら、どんなことになってしまうのかわからない。


 まあでも人目があるならどこでも一緒か。


「そういえば、この世界にはダンジョンとかってあるんだろうか」

「ダンジョンっ!」

「ミサヤは本当に物好きだよな」

「ダンジョンはロマンだもんっ」


 ミヤサのことを言えた立場ではないが、ダンジョンの有無は気になるところではある。

 ワープなどを初期のこの段階から使用できないため、狩りをするためにいちいち外へ足を運ぶというのは少しばかり面倒だ。

 ここら辺は冒険者登録する時に気兼ねなく質問すればいいから、後のお楽しみって感じになるな。


 それにしてもダンジョン、か。

 その名前を聞いただけでも浮足立ってしまいそうになる。


「カナトのアレをまた見たいんだもーん」

「わかる。僕も見たい」

「そんな見世物みたいに言うなよ。俺だって必死にやってるんだから」


 二人が言っているのは、俺が必死にタンクをしている時のことを言っているのだろう。


「でも、僕はあれほど頼もしい背中は他にないと今でも思っているよ」

「わかるーっ。カナトになら任せられるって自然と思っちゃうし、負けていられないってなるんだよね~」


 リーダーという立場柄、戦闘中にも指揮を飛ばすことがある。

 そういう時、今よりも口調が荒くなったり、今まで以上に本気になってしまう。

 外部の人間に自慢できるようなことではないが、少なくともみんなの中では士気向上に繋がるってことなんだろうが……人が変わったみたいになると言われたことはある。

 主にアケミから。


「にしても外を歩くのとは違って、いろんな音やいろんな匂いがあるから、足は疲れているけれどなんだか楽しいね」

「わかるっ、ボクもお腹空いたー」

「ケイヤが言っているのはそう言うことじゃないと思うんだが。まあ確かに、あちらこちらから空腹を誘う臭いが漂ってきて、今すぐにでもそっちに行きたくはなるな」


 そんな話をしていると、その前の列を歩くアケミからの声が。


「そんな余裕はありませんよー」


 という注意が飛んできた。

 いやお母さんかよ――なんていうのは、絶対に言ってはならない。

 そうだ、絶対にだ。


「あははっ、アケミってばお母さんみたい」


 おいミサヤ、お前は命知らずかよ。

 その後すぐ、アケミからミヤサの腹部へ手刀が突き刺さり、「ぐへっ」とお腹を抑えながら歩く羽目になった。

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