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第4話『やっぱり俺達はこうでなきゃ』

 川辺っていうのは、いつでもどこでも落ち着くもんだな。


「さて、じゃあ二人だけだが考察でもするか」


 俺達はあの戦闘後、あの三人の提案で少し進んだところにある川辺で休憩することになった。

 といっても、本当にどっかりと休憩できるはずがなく、三人・三人・二人という感じで三角形の包囲網で展開している。


 そして俺は、アケミと。


「カ・ナ・ト。それより先に、私、言ったよね? 無理はしないでって」


 しかし、穏やかに話が始まるもなく。

 この人数割り振りはアケミが推薦してきた。

 理由はなんとなくわかるが、せっかくの美人さんが鬼の形相になっている。

 おー、怖い怖い。


「あれはだな。ほら、な? ゲーマーならやっぱ興味を持っちまったら試したくなるもんだろ?」

「ははーん。反省の色なし、なのね?」

「ま、まあ落ちつけよ」


 右拳にこれでもかと力を込め始めるアケミに両手を上げ、反抗する意志がないことを示す。


「気を取り直して、戦闘の感触はどうだった?」

「んー、本当に自分の体じゃないみたい。動けるは見えるはで、これはあれなのかな。ステータスとかが関係しているのかな」

「たぶん、そうだろうな。少なくとも、現実の俺はヒョロヒョロであんなモンスターと戦闘したら真っ先に死ぬ自信はある」


 三度の飯よりゲーム、を掲げて必至に動かしていたのはマウスを握る右手とキーボードを叩く指ぐらいだ。

 当たり前といえばそれまでなんだが。


「たぶんだが、レベルアップを繰り返せばこの感覚がずっと続くんだと思う。だから、低レベル時はずっとこの調子なんだろうな」

「うーん、強くなるのは嬉しいんだけど、それはそれで困りものだね」

「そういえば、タイミングが良いしステータスの確認でもするか」

「そうだね」


 俺は目を閉じ、少し遠くを覗くように意識を集中させる。


――――――――――

 カナト

 レベル:3

 耐力:3

 攻力:3

 防力:3

 減力:3

 敏力:3

 速力:3

 魔力:3

 理力:3

 アクディブスキル:【】

 パッシブスキル:【】

 ユニークスキル:【】

――――――――――


 なるほど。

 レベルアップにつれて、各ステータスも1ずつ上昇するんだな。

 そんでもって、アクディブスキルは今後獲得する戦闘時に使えるスキルで間違いない。

 ここら辺はゲームと一緒か。

 てことは、パッシブスキルっていうのは取得条件はわからないが、常時発動するスキルってことだな。


 しかし、最後のユニークスキルっていうのはなんなんだ?

 こんなの、ゲームにはなかった項目だから、要検討か。


「俺はレベル3になってた。アケミはどうだ?」

「私はレベル2になってたよ。この感じだと、あのウルフは経験値が多めだったみたいだね」

「そういうことになるな。しっかし、ゲームと違って経験値取得量と経験値蓄積量が確認できないってところだな」

「そういえば、アンナが言ってたけどスキルってどこにあるのかな。言われた通りにスキルスロットを思い浮かべてみたんだけど、何も無かったよ」

「そこはあれだろうな。俺達前衛には斬ったり殴ったり刺したりできる武器があるけど、魔法職にはそれがない。杖で殴れっていうには酷な話だし、最初から初期魔法だけ使えたんだろう。たぶん」


 アケミは「なるほどなるほど」と納得している。


「だとすると、だ。正真正銘のゲームならまだしも、この世界に前衛が使えるスキルがないのかもしれない」

「それは由々しき事態な気もするけれど、あの護衛の人達を見る分にはスキルの類だと思われるものは使っていなかったわ」

「ん、それってまさか」

「確定じゃないけれど、私達以外にステータスもしくはスキルを所有している人が居ないかもしれない……んじゃないかな」

「……なるほどな」


 だとしたら、だ。

 もしも本当に俺達以外にこういった恩恵みたいなのがないとしたら、公の場でおおっぴらにスキルとかを疲労するわけにはいかない。

 称え祀られるならまだしも、研究対象になったり指名手配犯になりたくはないからな。


「スキルかぁ。ゲームみたいにスキルボードとかボーナスステータスとかってないんかな。ステータスが上昇するからといって、スキルがないんじゃいまいち燃えないよな」

「そうだよね、このままじゃレベル上げても全部が均等に上がるだけで、正直強くなってる気がしないもんね」


 俺とアケミは「んー……」と喉を鳴らす。

 そんなこんな考えていると、偶然にも目を閉じていたからか、ステータスのページが捲れるように新たな項目が現れた。


――――――――――

 近接+

 技能+

 心頭+

 魔理+

 特異+

 ポイント3

――――――――――


「アケミ、あったぞスキルボード」

「え、本当?」

「なんか、こう、ページをめくる感じに」

「ほうほう――お、本当に出てきた。おー、これこれ、やっぱりスキルボードがないとだよねっ」


 割り振りポイントはレベル依存って感じか。

 そして、ここにある五個の項目。

 この下にある+を押す? と、さらにスキルツリーが出てくる。

 地道に割り振っていって、一定値に達するとスキルを取得でき、その数値には熟達値があって、それもいろいろと関係してくる……というのが俺達のやっていたゲームシステムだ。


「試し甲斐があるな」

「だね」


 スキルボードの存在を知ったアケミは、これから取得するであろうスキル編成について頭をフル回転させているんだろう、その今にも体を動かしたそうにソワソワし始められたらすぐにわかる。

 俺も心が躍り始め、人のことを言えた立場ではないが。


「そういえば、この世界には冒険者とかギルドとかクランとかパーティってあるんかな」

「確かに。あの人達は仲間同士っぽいし、そこら辺はあるんじゃないかな。んー、でも、流石にゲームの時みたいにシステム上でパーティを組むとかっていうのは……どうなんだろう?」

「じゃあ、やってみるか」


 どうしたらいいかわからないが、まずはアケミの目をじっと見つめる。


「えっ? えっ、えっ?」


 なんだかアケミは困惑しているようだが続行。

 こう、なんていうか、アケミを仲間に加えたいって考えて……。


「ちょっ、ちょっと」


 頬を染めてやめてやめてと腕をブンブン振っているが、構わない。

 あれか、距離感が大事なのか? だったらもう少し近づいて。


「カナト? カナト、近い、やっ、や」


 嫌なら立ち上がったりすればいいのに、まあ構わないが。


「んー、ダメか」


 と、俺は体を引く。


「ぜぇはぁ……」


 アケミは息を荒げているが、どうしたものか。


「アケミ、手を握らせてくれないか」

「手、手ぇ!?」

「ああ。頼む」

「――わ、わかったわひょ。ど、どうぞ」


 俺はアケミの手をにぎにぎと触り撫でる、仲間になってくれーと念じながら。

 ……ダメか。

 なら、握手。


「も、もういいかな?!」

「ああ、これで最後だ。アケミ、俺の仲間になってくれ」

「え? うん。よろしく」


 すると、視界左端にアケミという名前と赤いバーと黄色いバーが出現した。


「おっ、できたぞ。左上」

「ほ、ほんとだ。――カナト、そろそろいいかな」

「ああ、協力してくれてありがとな」


 こんなの、楽しくならないはずがない。

 わからないものを少しずつ試行錯誤して理解していく感じ、やっぱり俺達はこうでなくっちゃな。


 声を出して笑い出しそうになるが、近づいてくる足音にグッと堪える。


「お話し中のところごめんなさい。お話したいことがありまして」


 振り返ると、そこには旅団の主であるアルマ・ダン・アーガットが立っていた。

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