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第30話

 今の時代、インターネットが大きな武器になるのは間違いない。

 そこでまず、扉鬼に関して織葉も織葉なりに検索してみることにしたのだった。自分の場合は、多少の“霊感”と“直感”はあるので、普通の人間よりもはるかに有用な情報を見つけやすいというのもある。

 この扉鬼という怪談&おまじないは、“自分がどうやってその話を聞いたか”を人に説明し、かつ“自分が夢の中で見た光景を絵に描いて他人に見せる”ことによって伝達&招待が完了するものである。つまり、伝達者は積極的に“自分がどうやって情報を得たのか”を人に話していくものなのだ。

 その人物が描いた絵を見なければ、現状織葉が感染することはない。

 というわけで“どうやって伝達されたか”の情報に絞ってリサーチしてみることにしたのだが。




330:奈落の底より出でるは名無しさん

>>329

同じ学校の男の子が、いいおまじないを知っている、これを使えばお金持ちになれるって教えてくれたんです。




 これは、とある大型掲示板への書き込みだ。

 この書き込みがあったまさに同日、同時刻頃、恐らく一人の人物があっちにこっちにとおまじないを拡散している。

 特に影響力が強かったのが、オカルト系ユーチューバーであるこわこわメロンちゃんねる。このユーチューバーに、最初に扉鬼の話を伝えたと思しき人物のツイートが残っていた。

 これだ。




●ジュリジュリジュリジュリ @jurisuiri_cute

ガチです!!!!確信をもって言えます!!!!!!!!

何でも願いが叶うおまじないなんですが、ちょっとだけ怖い目に遭うので覚悟も必要かもしれません。

でも、怖い話大好きなメロンさんや、メロンさんのちゃんねるの人にはぴったりかも!




 掲示板の人物とこのジュリジュリジュリ、という名前の人物が同一人物である可能性は高い。

 この人物はメロンちゃんねる以外にも扉鬼の話をやたらめったら広めようとしている。その理由を、みんなに幸せにするためとかなんとか語っているが、掲示板でもツイートでも“クラスの男の子から聴いた”という点が共通しているのだ。

 本当に、みんなを幸せにしようとしてこのような話を広めたのか?

 その可能性は低い、と織葉は見ていた。というのもこのジュリジュリという人物の過去ツイートを辿ると、他人への攻撃的言動や誹謗中傷、嫉妬やアンチ的発言がやたらと目立つからである。




『ようは可愛い女の子に嫉妬してるだけじゃんwwww

そんなんだからモテねーんだよデブwwww』




『クラスの馬鹿から金巻き上げたったwwww

 あいついいカモだわー、ちょーっと脅しただけですぐ泣いて土下座してくるしい

 女に虐められてるとか恥ずかしくて言えないんだろうね、可哀想ねwwww」』




『は?マヤケンが結婚?は?あのデブス女優と?

 ありえないんですけど、なんであたしのマヤケンがあんな女と?絶対騙されてるでしょ。死ねよ!』




『うちのクラスの担任がーいじめは駄目でえええす、とか言って人に説教してくるんでえええ

 うざいんで顔晒していいですかーイイヨネー』




 はっきり言って、これらの言動を見ればこの人物がどういう人間かわかってくるというものだ。

 というか、ほぼ身元も判明してしまっている。彼女はK県Y市の中学校に通う中学生。高校生と名乗っている時もあるが、テストの様子に加えて制服から本当は中学生なのが判明してしまっている(そもそも制服着た自撮り写真をアップしている時点で身元の判明は容易すぎるのだ。よく見ると名札をつけたままアップしているものもあったので、名前の特定も容易だった。ネットリテラシーなっていなさすぎである)。

 彼女の名前は徳座第二中学校に通う中学三年生、灰島樹利亜。少し調べればすぐにその素行まで知れてしまった。どうやら、徳座第二中学校でも有名な不良少女だったらしい。クラスの気弱そうな男子や女子からお金を巻き上げては、ゲーセンや煙草代酒代で使い込むということをしていたようだ。

 家庭環境に恵まれておらず、荒んでしまっていたのだろうが――いずれにせよそんな少女が、“みんなを幸せにするために”でおまじないを広めるようなことをするとは到底思えない。


「……そんなに簡単に身元割れちゃうって、ネット怖いね」


 話を聞いているうちに少し落ち着いてきたようで、えりいも呆れたように言った。


「まあ、その子もかなり迂闊だったんだろうけど……」

「もっとネットの怖さについて、学校で勉強した方がいいな。彼女は制服も顔も出していたので余計わかりやすかった。名札がなくても辿り着くのは難しくなかったことだろう。制服だけでも晒していれば、少し調べるだけですぐどこの学校なんてわかってしまうし」


 自分もまだ高校生なので、けして大人と言える年齢ではないが。それでもある程度わかっているつもりなのだ――何故大人が安易にネットに顔や個人情報を載せるな、と口を酸っぱくするほど言うのか、くらいは。

 まだ未熟な子供たちを騙してお金を奪おうとする者、性的に搾取する者、世の中にはそういう人間が少なくない。そして詐欺師は詐欺師の顔をして近づいてこないもの。優しく、親切にしてくれる人だと思って信用して個人情報を渡したら実は――なんてことも多いのは、忘れるべきではないのである。


「まあ、制服や顔がなくても結構絞れただろうな。……●●日に電車が止まった、学校まで何分かかる、テストでこういう問題が出た、駅が入場規制している、駅前でお祭りがやっていた……などなど。一つ一つの情報だけで得られることは少なくても、それらを全部結び付ければ、家と学校の位置、簡単なプロフィールくらい割り出せるだろう。親の職業やら部活どうやらもな」

「ネットこわ」

「だからえりいも気をつけろよ。お前もXはやってるんだろ。ネットで顔出し名前出しなんてのはやってないだろうが、電車が止まったくらいのことは言ってそうだしな」

「……気を付けマス」

「わかればよろしい」


 とにかく。

 彼女が徳座第二中学の三年二組の生徒、灰島樹利亜だとわかってしまえば行動は早い。次は、誰が彼女に扉鬼の話を伝えたかどうか、だ。

 彼女のツイートを総合して見るに、恐らく“カツアゲしていたクラスの男子を脅したらこのおまじないを教わった”というやつだと思われる。親切で教えて貰ったみたいなことを言っていたが、普段からクラスメートから金を巻き上げていたようだし、そう考えるのが自然だろう。


「とりあえず俺は帰宅部だし、時間もわりと自由に使えるからな。えりいが学校を休んでいる間に、その徳座第二中学まで実際足を運んでみた。少し遠いといっても神奈川だから電車で行けるし」


 樹利亜がネットで話を聞いたと言っていたならサイトを探すところだったが、人から直接聞いたと言っている以上そちらを当たってみるべきだと判断したのである。とにかく今は、小さくてもヒントとなるものがほしかったからだ。

 扉鬼という鬼ごっこの発祥も調べてみたが、いかんせんこの鬼遊びの起源はぼんやりしていてはっきりしない。つまり、こちらがほぼ手詰まりだったというのもある。


「頑張ってポジティブな言い方をするなら……まあ、非常に自由な学校、らしくてな。俺みたいな部外者がうろついていても咎める人間は誰もいなかった」

「なんとなく察した」

「灰島樹利亜はなかなか悪名高い生徒だったらしくてな。名前を出したらほとんどの奴がわかりやすく嫌な顔をしたぞ。……同時に、こうも言っていた。死んでくれたみたいでほっとした、とな」

「へあ!?」


 まさか、とえりいの顔が青ざめる。

 が、織葉としては想定内のことだった。というのも、灰島樹利亜=ジュリジュリのTwitterでの呟きは、彩音が死んだ翌々日の朝を最後に途絶えているのだから。

 大型掲示板にも、『ジュリジュリさんって人いつのまにかいなくなってない?』というような書き込みがなされている。確認しなかったが、インスタも更新されなくなったのだろう。

 つまりそれくらいのタイミングで、灰島樹利亜が扉鬼の力で殺された可能性が高い。そう思っていたら案の定だった。


「灰島樹利亜は、全身に大やけどを負って自宅で発見されたらしい。炎ではなく、なんらかの薬のよる火傷ではないかということだ。強烈な酸で焼かれて、全身が真っ黒こげになっていたらしいな」


 悪名高い不良少女が死んでくれた。学校の空気はまさにそんなかんじだった。ここまで冷たいといっそ同情してしまうほどに。

 だからだろうか、生徒たちの口がやたらと軽かったのは。


「灰島樹利亜が虐めていたという生徒についても情報を得られたよ」


 彼女がパシリやカツアゲをしていた者は少なくなかった。その中で、彼女と同じクラスの男子。

 特にツイートでもよく出てきていた、眼鏡をかけた小柄な少年、と言うのは恐らく。


「扉鬼の話を灰島樹利亜に教えた少年を発見した。彼の名前は、藍田清尾あいだせお。……彼と接触できたおかげで、調査が大きく進展したんだ」


 清尾は怯えていた。自分がなにか、とてつもないものに手を貸してしまったと気づいたがゆえに。


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