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第20話

――某SNSにて。


こわこわメロンちゃんねる!

「いつも当方のチャンネルをご覧頂き、誠にありがとうございます!

前回も大盛況で、メロンとしてもとっても嬉しかったです~(*^-^*)

そんなわけで、また次回もとっておきのネタ、募集しちゃいます!


#こわこわメロンリクエスト」




ジュリジュリジュリジュリ

「こわこわメロンちゃんねるさん、初めまして。ジュリジュリっていいます。

すごく面白いおまじないを知っているので是非動画で紹介して欲しいです!

メロンさんほど影響力のある人が紹介してくれれば、爆発的な人気が出ると思うのでぜひ!」




こわこわメロンちゃんねる!

「初めましてジュリジュリさあん!୧(˃◡˂)୨୧(˃◡˂)୨

かなり期待大じゃないですか!必ず採用するとお約束はできませんが(たくさんリクエスト来てるので……ほんとすんません!)それでもよろしければ教えてくださいな~!」




ジュリジュリジュリジュリ

「ガチです!!!!確信をもって言えます!!!!!!!!

何でも願いが叶うおまじないなんですが、ちょっとだけ怖い目に遭うので覚悟も必要かもしれません。

でも、怖い話大好きなメロンさんや、メロンさんのちゃんねるの人にはぴったりかも!


ある方法で人からこのおまじないの情報を伝えられると、毎晩夢の中で不思議な世界の正体されるようになるんです。

その世界で、ホンモノの扉と鍵を見つけると……どんなおっきな願いでも叶っちゃうってやつでして!」




こわこわメロンちゃんねる!

「おおおおお((((;゚Д゚))))!!

そ、それは凄いですな、凄いですな!!!!

夢の中で異世界転移しちゃうってやつ?期待が高まりますなあああ!( *´ω`* )kwsk!!」




ジュリジュリジュリジュリ

「簡単です。

あたしが『どんな形でそのおまじないを知ったか』をメロンさんに伝えればいいんです。で、『どんな世界を夢の中で見たか』を最後に絵で描いて、その絵をメロンさんに見せればオッケー!

そうすればメロンさんも、扉鬼の世界の仲間入りです!今夜から扉鬼の世界の夢を見ることができるはず!!」




 ***




 えりいが教室に行くとすぐ、一人の少女が駆け寄ってきた。

 彩音の親友である蓮子だ。


「金沢はん、ちょっとええか」

「どうしたの、銀座さん?」


 明らかに、蓮子は慌てている。今日はまだ教室に人が少なかった。蓮子は部屋の隅、掃除用具入れの前までえりいを引っ張っていくと、あんな、と声を潜めて言う。


「あんたも、扉鬼の夢、見とるって言うてたよな?」

「え?まあ……そうだけど」

「何か、怖い目に遭うようなことあったか?」

「!」


 怖い目。まさか。


「……銀座さん、あの空間で、怪物……に遭遇したりとか、したの?」


 扉鬼の世界で、何かから逃げている人を見たことがある。あの空間には、人を追いかけまわす怪物のようなものがいるかもしれない――そんな話を、昨日したばかりだ。

 えりいも昨夜、澪から話を聞いているし、織葉にも相談したばかりだ。

 扉鬼の空間は、人々を永遠に閉じ込め、苦痛を味遭わせることで復讐したいという最初に扉鬼を生み出した術師の願いがこめられている。空間の中には扉鬼を映した鏡ともいうべき鬼がうろつき、扉の中には恐ろしい罠が潜んでいるものもあるという。恐らく、そのいずれかから、えりいが遭遇した女性――赤澤亮子は逃げていたのだろう。そして、結局逃げきれずに捕まって、現実世界でも死ぬことになってしまったのだ。

 そして、現時点ではこの話は蓮子にも彩音にもするつもりはないが――澪は“鍵と扉を見つけて出られるのは一人だけだろう”という推察も語っている。


「……うちは、まだ怖い目には遭ってへん。ただ、うちも……何かから必死で逃げてる人は見たで。嫌な予感がしたからうちもその人が逃げてきた方とは別に道に入って扉に逃げ込んだんやけど」


 ただ、と蓮子は続ける。


「彩音はんは、違うのかもしれん。襲われてしもたのかも……」

「連絡があったの?」

「今日の明け方。やけに早い時間にな、今日具合悪いから学校休むかもしれん、行けたとしても午後からになりそうって。……彩音はん、あれで結構健康管理はしっかりしとるんやで。体も丈夫なんやーって自分でも自慢しとったくらいや。そんな人が体調崩すとしたら、扉鬼絡みしかあらへんのとちゃうか、と思って……なあ、自分、何か知らんか?」


 どうやら、蓮子も彩音から詳しいことを聴いているわけではないようだ。

 ここは慎重になるべき、と判断した。どのみち情報共有するならば、彩音にも話した方がいいはずである。


「……ちょっとだけなら、新しくわかったこともあるよ。詳しいことは、紺野さんが学校来てから話す。ただ」


 これだけは言っておくべきだろう。

 他に訊いている人がいないかどうか、ちらりと後ろを確認した上でえりいは告げる。


「扉鬼は、想像以上にまずい怪異なのかもしれない。紺野さんは、夢の中で鬼に見つかって殺されても夢からはじき出されるだけじゃないかって言ってたけど、私はそうは思えないの。実は私が見かけた“逃げていた女の人”ね。……死んじゃった、みたいで」

「え」

「顔写真が出てた。赤澤亮子さんって人。自宅で、密室で、バラバラ死体になって発見されたって。多分、間違いないと思う。あの人、扉鬼の世界で鬼に捕まって、それで生きたままバラバラにされたんじゃないか、って。もしそうなら、夢の中で扉鬼に捕まるのは……」

「んな、アホな……嘘やろ……」


 これは駄目かな、とえりいは思った。蓮子は、彩音のことを妄信している。彼女が教えてくれたおまじないが実は危険なものかもしれない、なんて本当は信じたくないことだろう。えりいだって正直信じたくなくて、最初は織葉ともぶつかってしまったほどなのだから。

 ここで蓮子に疑われて、嫌われてしまうのは非常にまずい。しかし、教えないわけにもいかない。どうしたものかと考えていると。


「……ほんまに、扉鬼の世界で捕まると死ぬかもしれんなんて、そんなこと……」


 どうやら、蓮子がぶつぶつ言っていたのは、えりいに反発してのことではなかったらしい。

 彼女はスマートフォンを取り出すと、これ見てみ、と画面を表示してつきつけてきた。


「うち、朝早くにLINEチェックしたり、Twitterのタイムライン追うのが日課なんやけどね。……今日の明け方から、扉鬼、に関してやけに情報拡散してる人がおんねん。それも注意喚起とかやなくて、マジで願いが叶う最高のおまじない、みたいな言い方で」

「は!?」


 えりいは彼女のスマホをまじまじと見つめた。それはTwitter(現在はXのはずだが、未だにこちらの名前で呼んでいる人は多い)の画面だ。

 ジュリジュリジュリジュリ、と言う名前のアカウントが、あっちこっちの人にお呪いの話をしているのが覗える。中には、有名なオカルト系ユーチューバーにまで広めようとしているようだ。

 まるで、一人でも多く被害を広めようとしているかのように。


「何でこのアカウントの人がこないなことしてるのかはわからん。しかも、大型掲示板にまで書き込んでるみたいなんや。……もしな。もしほんまに扉鬼がアカン怪異で、現実に人を殺すようなもんなら……これ、なんとかしないとあかんのとちゃうか」


 青ざめた顔で、蓮子は続ける。


「万が一、ユーチューバーが動画にしてアップでもしたら、えらい騒ぎどころやないで……!」

「そんな……」


 思い出したのは、澪の言葉だ。彼は確かに言っていた――扉鬼は放置すれば、世界さえ滅ぼしかねない怪異であると。


「た、大変なことになってる……!」


 これは、想像以上に猶予はないのかもしれない。

 えりいの背中に、冷たいものが走ったのだった。


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