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第85話『サバイバルゲーム・エンド3』

せらぎねら☆九樹と再会した後、清志はワゴン車の中で高速を走りながら事件について聞かされていた。

彼が話した真なる敵・松山綾善と川中幸雄。彼らがサバイバルゲームに関わった人間を殺害している事実に清志は疑問に思った。


「松山綾善…。松山さんは参加者だけどあまり面識がありません。一体どういう方なのですか?」

「彼は元々修行僧でしたが事情があって寺を追い出され借金を背負った。そして金融会社を通じて私の開催したサバイバルゲームに参加したのですが、彼の事を詳しく調べると大変なことがわかりました…」

「大変な事?」

「彼は紫龍院教の幹部だったんです…!」

「紫龍院教の幹部!?」


それはせらぎねら☆九樹、そして多くの人々の人生を大きく歪ませたカルト教団の名前だ。仮面の奥から静かに彼の怒りが伝わってくる。


「彼は紫龍院教では寺で使っていた【光善坊】と言う名前を使っていたので私も気づきませんでした。彼は住職に黙って紫龍院教の金を寺のお布施として隠し、資金洗浄をして荒稼ぎをしていました。しかしそれが住職にばれて、賄賂を与えて協力させていた兄弟子らと共に追い出された。その後彼のいた寺は綾善の悪事が知られ潰れてしまったそうです」

「そんなことが…ですがその綾善がなぜ川中と言う方と?」

「川中も山内と同じく神崎幸太郎からバックアップを受けていた政治家でした。彼と紫龍院教のパイプ役をしていたのが紫龍院教の綾善だったという事です」

「仏教に使える人がカルト教団の幹部に…しかも政界と繋がっているなんて…」

「僧侶だって人間ですよ。欲が完全になくなるわけじゃない。だからこそ外界から離れて修行をするわけですが、宗教の世界はブラックボックス。その内部と言うのは世間には知られ辛い。だから触手を伸ばす悪党もいるし、彼らを利用する政治家もいる」

「綾善と紫龍院教はまさにその例に当てはまるわけですか…」

「それに綾善は元々野心家の持ち主だったようです。彼は稼ぐほど税の縛りを受ける実業家になるよりも、自然と金の流れが生まれる宗教界隈に目を付けた。いずれは政界を後ろから操ることを目的としていたらしい」

「だけど山内が首相になり、川中が失脚したことで計画は狂った…という所ですか?」

「ああ。川中も力を蓄えていたようだが山内さんの方が上手だった。それに神崎も山内がどんな政策をしようが自分に金が入ればいいと思っていたらしい。どの道紫龍院教は切り捨てるつもりだったという事です…」

「九樹さん…」

「その程度の組織に…母も私も…人生を狂わされた…。奴にとって捨て駒の1つでしかない組織に…」

「…」

「だが、その組織はまだ生きのびようとしている。神崎の手を離れて今度は川中の下について再興しようとしている」

「政界を利用して資金集め、そして信者を再度集めようという事ですか?」

「ええ。松山はそれが目的です。だけど川中は違う」

「違う?」

「奴は山内さんを失脚させる気です。そのために…」


と話していた途中にせらぎねら☆九樹のスマホに電話が入った。


「この番号は…!?」


せらぎねら☆九樹は慌てて出る。


『…このような形で突然申し訳ない』

「あなたは…阿久津さん!?」

『今、直接会う事は出来ないのでテレグラムで話をします。一旦切りますね。1時間後にお話しします。失礼』


焦っているような感じで阿久津は電話を切った。


「樒さん。パーキングエリアに止めてもらえますか?」

「それなら後30分ほどでつくわよ!」

「阿久津さんとテレグラムで会話をします。周囲の警戒をお願いします」

「了解したわ!」


樒はワゴンを走らせ近くのパーキングエリアに駐車させる。近くに怪しい人物がいないことを確認すると九樹に伝え、阿久津との連絡をとる準備をした。


「確か阿久津さんって…」

「サバイバルゲームに参加した方ですよ。現役の弁護士です」

「弁護士…。そんな方が…」

「彼も色々事情がありましてね。私のサバイバルゲームを利用してある目的を果たそうとしていただけですが…」

「阿久津さんも巻き込まれたわけですか…」

「ええ…」


そして阿久津との連絡がつながった。


「阿久津さん。せらぎねら☆九樹です」

『…はい。そちらは無事みたいですね』

「阿久津さんは?」

『部下は皆逃がしました。しばらくは身を隠すように指示を出してます。…事務所が襲われました』

「何ですって…!」

『警察は動いているが、正直犯人が捕まるか怪しいですね。なんせ相手は政治家をバックにしているでしょう』

「…!? 犯人に見当がついているのですか?」

『まあ。私も職業上色々な方面から恨みを買うのでね。私の事務所を襲う連中は大体見当がつきますよ。…川中の関係者ではないですか?』

「…ええ」

『川中はあきらめていない。奴は力を貯めて山内首相を失脚させる気ですよ。どんな手を使っても…』

「まさか」

『あいつは山内の政策に納得していない議員や役員を集めてクーデターを仕掛ける気だ。弁護士仲間から得た情報だから信用度は高いでしょう』

「…」

『そして山内と親しかったあなたをも狙っている。あなたをおびき寄せて山内の弱みを得るつもりでいる』

「…川中…!」

「九樹さん…」

『私も力になりましょう。合流します』

「お願いします」


阿久津と合流する場所を決め、ワゴンを走らせた。



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