ネット界隈は騒然となっていた。
【蒼空つばさ死亡・バーチャルライバー界に激震走る!】
「そんな…。つばささんが…!?」
清志はスマホを使い、彼女が所属していた事務所、ウェブニュースや解説動画を見ていく。
犯行に及んだ容疑者は怨恨か、もしくはファンによる行き過ぎたストーカーによる犯行と言った憶測による事件の解説がなされていた。
彼女が運営したチャンネルは残っているが、一番最新の投稿に『大切なお知らせ』と書かれたサムネと共に他のメンバーが作成したこれまでの応援に対しての感謝と最後の挨拶が淡々と書かれている動画だった。
蒼空つばさの仲間も気が気でないのだろう。だが蒼空つばさの現状と今後の活動についての解説はしないといけないのでその義務を果たそうとしてるのは伝わってくる。
「信じられない…」
数週間前にあった人物が死んでしまったことを清志は受け入れられなかった。今から死ぬかもしれない人間にはとても思えなかったからだ。彼女の人柄もとても人の恨みを持たれるような感じでは無かった。
「何かに巻き込まれたのか…? 蒼空町…いやそれを超えるような何かに…」
サバイバルゲームに参加したこと。それが何かしらの事件の事線に触れたのではないかと思っていた。その矢先にスマホにメッセージが届く。宛先は【1441072441】と番号が並んでいた。
『突然の連絡申し訳ございません。蒼空つばさの件であなたと直接会ってお話がしたいです。返信は無用です。明日の午前10時ごろ駅前でお待ちしています』
メッセージには待ち合わせ場所の指定が書かれていた。
「この宛先。もしかして暗号だろうか…」
そして清志は番号を見てあることに気づき、誰がメッセージを送ったのかを理解した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
―翌日・駅前。
清志が駅前で待っていると1台ワゴンが止まった。窓がスライドし、顔をフードで隠した女性が話しかけてくる。
「清志さん。…お待たせしてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。樒さん」
「! すでにお気づきでしたか」
「はい。あのメッセージ、九樹さんのものだとわかったので」
「…ええ。九樹さんはあなたの力を必要としているわ」
スライドドアが開き、清志はワゴン車に乗った。
「久しぶりですね。清志君」
ドアを閉めて走りだすと仮面を被った男・せらぎねら☆九樹が清志に声をかける。
「せらぎねら☆九樹さん…」
「ええ。つもる話もありますが、詳しくは高速に入ってからにしましょう。誰かに尾行されては溜まったものじゃないのでね。樒さんお願いします」
「了解よ」
樒がワゴンを走らせ、高速道路に入るとせらぎねら☆九樹が話を始める。
「まずこんな回りくどいやり方で申し訳なかった。だけどよく私のメッセージを信じてくれたね」
「あの宛先の番号の暗号を解いてわかりました。あれは五十音順を数字に変えたものだと」
清志は番号を五十音順にあてはめ【1441072441】を解読し【14・せ、41・ら、07・ぎ(き)、24・ね、41・ら】になったので九樹からのメッセージだと理解した。
「君ならわかってくれると思ってました」
「…ところで他の方はいないんですか?」
「連絡を入れたのは今のところ君だけです。…蒼空つばさの件はあまり口外できない情報ですから」
「…! 九樹さんは何かもう知っているんですか?」
「ああ。警察関係者に私とツテになっている方がいてね。蒼空つばさの件も公開されていない情報も手にしている。君に聞く覚悟があるなら話をしよう」
「無論そのつもりで来ました」
「そうですか」
せらぎねら☆九樹の持っていた資料によると。蒼空つばさの事件は『顔見知りによる犯行の可能性が高い』と言う事だった。
蒼空つばさの部屋は荒らされた形跡が無く、鍵も無理やり開けられたわけではなかった。謎なのは死因が銃殺であること。拳銃を手に入れるのは簡単な事ではない。死体に残された弾丸から恐らくはリボルバー式の拳銃ではないかと思われている。
犯人の正体に繋がる証拠は具体的になかったが、『蒼空つばさの顔見知り』かつ『拳銃を入手できる立場』に入れる人物であるという結論が出た。
「もし誰かが証拠隠滅のために部屋に細工をしていれば気づくはずです。そう言ったことが得意な人間も裏社会にいますが…。これまでの事件からしてそれもないでしょう」
「これまでの…?」
「はい。つばささんだけではありません。サバイバルゲームに参加した一部のメンバーがすでに被害にあってます。白石さんや宮野さんも」
「宮野さんが…!」
「全員拳銃によってとどめを刺されており、調査の結果すべてが同じ拳銃が使われている。そしてこの事件は単独犯ではなく複数犯だ」
「複数犯!?」
「白石さんと宮野さんの時と、つばささんの殺害状況が違います。恐らくは同じ犯行グループであるが目的が違うのでしょう」
「目的?」
「ええ…」
せらぎねら☆九樹は1枚の資料を出して話を続ける。
「この人は?」
「つばささんの事件は怨恨の可能性、白石さん達の場合はこの私を引きずり出すためでしょう」
その資料には2人の男性の写真が印刷されていた。
「1人は参加者だった松山綾善。そしてその男をバックで操っているのが川中幸雄。元『日本進化党』のリーダーであり、山内内閣の財政部を担当している男です」
「この人が…!」
一連の事件の犯人の正体であった。