樒リアンの人生は嘘と隣り合わせだった。
父は政治家の家系、母はNo1ホステスであり一夜の過ちでリアンは生まれた。住む世界、生まれた環境が違う両親の仲は長く続かず1年余りで関係は終わった。
リアンは両親の離婚後、母の元で暮らしていた。
だがそれは母親が教育費や支援を受けるという利害の一致によるものだった。彼女はリアンを放置し、夜の街に遊びに行って自由奔放にしていた。
ネグレクトで育てられたリアンが歪んだ人間になっていくのは時間の問題だった。
ある日の事、自宅に借金取りが現れ彼女は自宅から脱出して逃げ出していた。
知り合いも当てもない町で、彼女がたどり着いたのは近隣の公園に住むホームレス達だった。
「どうしたんだ嬢ちゃん?」
「早くおうちに帰りな。親が心配しているぞ」
彼らは優しく対応した。
リアンは家庭の事を正直に話した。ホームレスは事情を知り、彼女をその日開いているテントに匿うことにした。
今まで背景にいる親の為に近づいてくる大人、自分の事を何とも思ってない母親、そんな大人ばかり見てきたリアンにとって彼らホームレスの優しさは初めて受けた『無償の愛』だった。
それからリアンは度々ホームレスの元に遊びに行くようになった。
彼らの経歴は様々なものが多く、バブル経済から落ちぶれて今の生活をしている者、病気により働けなくなり今の生活をしている者、会社が倒産し住むところが見つからずに今の生活をしている者、様々な理由でホームレスをしている人間があると知った。
彼らは缶拾いや日雇いの労働で金を稼ぎ、炊き出しで飢えをしのいでいた。彼らがなぜそのような生活をしているかと言うと正規の仕事を探そうにも身分の証明、住所の存在があやふやなため信用が得られないからだった。
ホームレスの身の上を知り、炊き出しの手伝いや、支援物資を送るようになったリアンは世間からつまはじきにされている彼らの存在を肯定していた。
彼らはこの社会に置いて、共に生きる存在であり、彼らのおかげで今の自分があると思っているからだ。
リアンは1人暮らしを始め、バイトと地下アイドルをしながら彼らの支援もしていた。地下アイドルになったのは楠からの誘いであり、炊き出しの手伝いで出会ってから偶然仲良くなり、共に活動していた。
ホームレスの人々もファンになり、彼らの生きる希望になるためリアンは活動をしていた。
1年以上たったある日、せらぎねら☆九樹に出会った。
ブランド物ではないが上品なスーツを着て、彼女達をレストランに連れて行きこういったのだ。
「ここで埋もれるのは惜しい。私ならあなた達をもっと上のステージへ連れて行くことができます。私と手を組みませんか?」
せらぎねら☆九樹と手を組み、アイドルライバーとしての活動を始めた。彼独自で開拓した企業とのツテで仕事や資金を元にアイドル活動を中心とした生活となり、コンサート会場やイベント等を大企業顔負けの手腕で発注し『Lure‘s』の名を、メディアを中心に広げていった。
アイドル家業の傍らでホームレスの支援をしたり、職を得れない彼らの為に動画投稿サイトへの案内をすることもあった。
時代は変わり、ウェブサイトでも稼げる術があれば稼げるようになった。
彼らの生活を動画化したり、ドキュメンタリーにすることで一つのエンタメにすることができた。
「九樹さん。彼らも稼ぐ術があれば自立できる。だけどなぜ人々は彼らを差別するのかしら」
「それが社会の良さであり、悪さですよ。人は自分の才能を輝かせる場所と言うのがどこかにある。そこに差というのはないのですが、人間と言うのはどうしても承認要求、自分を何かしらの形で肯定したいという考えがあります。なぜなら人は『否定』されることを最も恐れる生き物だからです」
時代が変わり、技術が進化しても逃れられない差別問題にせらぎねら☆九樹は寂しげに応えた。
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―本州最北端森林区・別荘地
「九樹さん…。大変な事が起こったわ」
「はい…。蒼空つばささんが亡くなりました…」
パソコンに移るネットニュースの動画。
『トップライバー【蒼空つばさ】さん死亡!? 恨みによる犯行か!?』
「白石さん、宮野さんも亡くなっている…」
「まるであなたに対する挑戦状の様だわ…。まさか山内さんが…」
「いや、山内がこんなことするわけがない。奴ならあらゆる権力を使って証拠を残さないようにできるはず…。ましてや自分の立場を危うくするようなことはしない」
「なら紫龍院教の残党…?」
「ありえなくはないですが…」
「…それに…どうして…」
樒は調べた内容をまとめた書類を見て悲しげな表情を浮かべた。そこにはせらぎねら☆九樹や樒が懇意にしていたホームレス達の被害、死者についてまとめられていた。
「おやっさん…。どうして…」
「警察も捜査しているらしいけど、この全ての事件は九樹さんに繋がっているわ。もしかしたら犯人は九樹さんに関連している人を対象にしてるんじゃ…」
「…」
「九樹さん。既に準備は出来てるわ。この事件の犯人は明らかにあなたをおびき出そうとしている…。今すぐ海外に…」
樒は逃亡用に資金をまとめる手筈を整えていた。
「いえ、それはできません」
「九樹さん…」
「紫龍院教にしろ誰にしろ…。私のせいで彼らを巻き込んでしまった…。これは私が決着を付けなくてはならない…。何としても」
「九樹さん…」
九樹が生きる事を望んでいた樒は、彼が逃げないことに不安を隠せなかった。