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第79話 『Lure‘sウメムラ・ルカ』

梅村流香の人生は運命に狂わされた。


両親との平和な日々を送る毎日。父は大手の証券マンであり専業主婦である母と仲良くあり、梅村は2人の両親から愛情を与えられながら育っていた。持ち前の頭の良さからプログラミングの勉強をして将来はゲームを作る会社に入りたいと考えていた。




だが父の死と共にその日常は終わりを告げた。


わき見運転による交通事故。運転手は免許すら持っていない未成年の学生だった。




梅村は母と共に弁護士を雇い裁判を起こしたが、加害者は未成年だという事と紫龍院教の信者であることであり簡単に手出しができなかった。




更生の余地があるとして少年法が適用された加害者は更生施設に送られ、警察は政府を通じて裏金を受け取っているため対した捜査もせず、事件は納得できないまま終わりを告げた。




父が残した金は弁護士費用や生活費に消えていき、母は過労で病気になり梅村が高校生の時に亡くなった。




天涯孤独となった梅村はプログラミングのバイトをし、賃貸住宅に暮らしながら金を稼いでいた。周囲と意見が合わない彼女はあまり話もせず、仕事もプライベートな話をしない潤いのない生活をしていた。転機が訪れたのはSNSで友人だった柊に会った事だった。




『曲を作曲してほしい。パソコンに詳しくないのでお願いしたい』




そこから地下アイドル活動を始めた。作曲担当になり柊や楠らと活動していった。他人との関りは好まなかったが、ファンに声援を貰えること、他人から評価される喜びを知っていった。




元々フリーランスのプログラマーだった彼女は時間を管理して作曲等の活動をするようになった。




1年以上たったある日、せらぎねら☆九樹に出会った。


ブランド物ではないが上品なスーツを着て、彼女達をレストランに連れて行きこういったのだ。




「ここで埋もれるのは惜しい。私ならあなた達をもっと上のステージへ連れて行くことができます。私と手を組みませんか?」




せらぎねら☆九樹と手を組み、アイドルライバーとしての活動を始めた。彼独自で開拓した企業とのツテで仕事や資金を元にアイドル活動を中心とした生活となり、コンサート会場やイベント等を大企業顔負けの手腕で発注し『Lure‘s』の名を、メディアを中心に広げていった。




せらぎねら☆九樹の経済学のノウハウと梅村の知識で『Lure‘s』の活動は円滑に伸びていき、1年足らずで登録者は100万人を達成し、大きな舞台でのコンサートも可能になった。




「なあ、アンタの目的はなんだ? ボランティアで人助けするような感じにはみえねえ」


「…まあ、ある目的を果たすために生きている。その為なら私はあらゆる手段を使うつもりもあるというだけですね」




仮面の下にある隠れる素顔に彼女はドス黒い感情を覚えた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――― 




―本州最北端森林区・別荘地




せらぎねら☆九樹が密かに作っていた。秘密基地で『Lure‘s』のメンバーと暮らしていた。必要な情報はネットを通じて得ており、万が一に自分達の存在を調べる者がいても梅村がハッキング技術でそれをもみ消していた。




「オラオラ九樹! これで勝ちだぜ!」


「くっ…さすが梅村さんお強い」




遊戯室で梅村とせらぎねら☆九樹はゲームをしていた。RPGやシューティング、格ゲー等の梅村が集めていたものだった。




「ふう…九樹。そろそろ子供の遊びも飽きたよな?」


「梅村さん?」


「もう夜も遅い。なら大人の遊びだって構わねえよな?」




猛禽類の様な鋭くも美しい瞳が九樹を見つめ、体を抱き寄せる。




「…てめえ本当に私達の前から消える気か?」


「…」


「オレはなあ、アンタとメンバーに出会えてよかったと思っている。オレはガキの頃から頭の良さなら誰にも負けなかった。クラスじゃ浮いちまって誰ともウマが合わなかった。だけど両親はオレを評価してくれた。きっと将来凄い仕事についてくれるだろうって言ってくれた。だが運命って奴に狂わされた」


「紫龍院教…」




直接ではないが、間接的に梅村の家族に悲劇をもたらした教団によって両親を奪われてしまった。




「誰もオレなど理解などしてくれない。そう思い静かに生きていくこと望んだが、地下アイドル活動で初めて他人に評価されることに喜びを覚えた。他人に愛想を振りまくなんて自分にはできないと決めつけていたが案外出来るもんだと思ったよ」


「梅村さん…」


「そんでアンタと出会ってオレは『Lure‘s』としてデビューし、アイドルライバーとして自分の居場所を見つけた。だけど今居たい場所は…アンタの隣なんだよ」


「…」


「九樹。世の中の人間はゲームの主人公みたいに上手くいかねえ。いつだってアドリブだらけのシナリオに踊らされて、レベルの足りない状態で理不尽な戦いばかり挑まらなきゃならない。だけどよお、『Lure‘s』のメンバーとなら、アンタと一緒なら、この人生って言うクソゲーも楽しく思えるようになってきた。だからよお…ずっとアンタといたいんだよ。例えアンタに拒否られても…」


「…すみません」




それ以上せらぎねら☆九樹は答えられなかった。





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