柊神菜の人生は運命の束縛から始まった。
都会から離れた寂れた神社の娘であり、学校が終われば家の手伝いし、用事がある時は友達の約束も学校の祭典にも出れなかった。
金の人脈もなくアルバイトも雇えなかったので、家族の手伝いと言う名目で神社の巫女として働くことを余儀なくされていた。
何より両親は女として生まれた神菜に対し良い思いを持っていなかった。
「お前はこの神社の事を考えて生きればいい」
「男だったらもっと楽に良きれたのに…」
跡取りは長男だけと決まっていた柊神菜の神社は婿養子探しに必死だった。もし跡取りがいなければこの神社は潰れることになり、路頭に迷うことは明らかだった。
だが過去に起きた紫龍院事件の影響で宗教に対しての世間の反応は冷たく、保身しか考えていない両親に神も見放したのか、ついに神社の経営は出来なくなり、つぶれることになった。一家は離散し、彼女は高校を出ると働き始めた。
アルバイトに明け暮れ、青春を謳歌する20代を遊ぶ暇などほとんどなかった。
そんな中『地下アイドル』活動が彼女の楽しみだった。
自分の思いを歌に、音楽に乗せ、ファンの人々を楽しませることに生きがいを覚えるようになった。束縛だらけの人生で自分の意志で選んだことで初めて肯定できる活動が彼女に自信を与えていた。
やがて梅村や楠たちも加わり、地下アイドル活動は週1回必ず行い、儲けこそ少なかったがアルバイトだけの生活に潤いを与えていた。
1年以上たったある日、せらぎねら☆九樹に出会った。
ブランド物ではないが上品なスーツを着て、彼女達をレストランに連れて行きこういったのだ。
「ここで埋もれるのは惜しい。私ならあなた達をもっと上のステージへ連れて行くことができます。私と手を組みませんか?」
せらぎねら☆九樹と手を組み、アイドルライバーとしての活動を始めた。彼独自で開拓した企業とのツテで仕事や資金を元にアイドル活動を中心とした生活となり、コンサート会場やイベント等を大企業顔負けの手腕で発注し『Lure‘s』の名を、メディアを中心に広げていった。
彼は経済学部出身であるため、『ファンは何を見たくて求めているのか』を具体的な言葉にして動画サイトのチャンネル登録者を増やしていき、ライバー戦国期と言われた多くの配信者がデビューする群雄割拠の中、生き残ることができた。
彼女達がデビューした時は蒼空つばさが所属していた『ララ・ライバーズ』と言った大手事務所や剣崎が所属していた『でじたるず』のライバー事務所が主だった。その後どちらの会社も政府の手によって吸収合併されることになったが、『Lure‘s』は生き残り続けた。
「九樹さん。あなたは一体何者なんなの?」
「…私はただの人間ですよ。ただ、生涯をかけてもやらなければならない目的がある。その為に」
仮面の下に浮かぶ寂しげな表情を感じ、それ以上口にしなかった。
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―本州最北端森林区・別荘地
人気の少ない森の奥にある別荘地。そこに建てられた木造建築で出来た1階建ての家。
そこに月に何度訪れるトラックが荷物を下ろすと。中から出てきた住人達がそれらを運び入れると静寂が戻る。
別荘の中は簡素だが、地下への入り口がありそこは密かに建設された秘密基地の様になっており、冷暖房完備・ネットワーク設備完備、遊戯室、会議室、寝室も作られている。
「放火殺人事件か。外の世界が物騒だな」
「何だか嫌な予感がするわね九樹さん」
「まあ、この場所にいればある程度は問題ないだろう」
ここはせらぎねら☆九樹が密かに建築していた隠れ家であり、Lure‘sと共にサバイバルゲームが終わっていてから暮らしていた。
彼はスキャンダルを暴露したらマスコミが追ってくることを予測しておりLure‘sと逃げるために政府とかかわりがあった時のツテを活用し建設していた。名目は非常用地下シェルターとして申請し、後で調べても有耶無耶になるようにし、建設した時のデータは梅村によりデータ上から消えているので足も残らなかった。
「ねえ、九樹さん。このままずっと世間から隠れていてもいいんじゃないの? もう私達は十分たくわえを得てるわ」
柊神菜は巫女服をはだけさせ、下着姿になりせらぎねら☆九樹の座るベッドの上に乗る。腰まで伸ばした茶髪の髪と黒い澄んだ瞳をした
「そう言うわけにはいきません。私にはまだやり残したことがあるんです」
「…その後、また私達といてくれるの?」
「…」
柊の質問に沈黙で答える
「九樹さん、あなたが4月にやろうとしている事が終わったら私達の前からも消える気ですか?」
「私は多くの人を利用し自分の都合に巻き込んできた。そして多くの敵を作ってしまった。これ以上逃げ切るのは難しくなるでしょう…」
「…今更そんなことを言うなんて卑怯だわ。私達も覚悟はできているのよ。『Lure‘s』の皆は私を含めて利用されたと思っていない。むしろあなたのおかげで人生を変えられたと感謝しかないわ」
「それでも、私は自分のしたことにけじめをつけるため…神崎を本当の意味で葬るために消える覚悟なんですよ」
「そのけじめが私達の前から消えるってことなの? …そんなの間違っている…!」
「…」
柊に抱きしめられたがせらぎねら☆九樹の決意は変わらなかった。