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第73話『あずさと葵:1』

偶然だった。

夕飯を買いにコンビニに行った帰りにサバイバルゲームで共に戦った天城あずさと再開した。


「…合計735円になります」

「天城さんここで働いていたんですね」

「‥今仕事中だから。明日休みだからここに来て」


そう言ってあずさは清志に商品を渡した。受け取った清志はアパートに帰り食事を取るとすぐに就寝についた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―翌日コンビニ前。


「ねえちょっと喫茶店に行かない?」

「あずささん、葵さんも一緒なんですか?」

「うん、今同棲してるから」

「同棲?」

「その辺含めて話すから」


コンビニ前にいたのはあずさと、サバイバルゲームで最後のペル・ゲームで一緒に戦った淀川葵だった。


「清志さん、ご無沙汰しています」

「淀川さんも元気そうで何よりです」


挨拶を済ませると清志を連れてマンションに向かった。コンビニから徒歩20分の場所にある。部屋は3LDK、風呂・トイレ・キッチン付きで収納もある。2人の荷物はあまりないが最低限の私物が置いてある。


「サバイバルゲームで過ごした施設とは雲泥の差ですね」

「あそこはあまりにも厳しすぎたのよ。ゲーム目的だったとしてもね」


冷蔵庫からペットボトル飲料水を取り出しコップに注ぐと清志の元に置いた。


「私は目が覚めたら元居たアパートにいた」


天城あずさはサバイバルの後清志同様眠らされ、元居たアパートに戻されており。手元には参加賞として5000万の金が入った通帳が置かれていた。その後葵と連絡を取り、互いに同棲することを決めて今のマンションに住んでいるらしい。


「だけど戸建てを買ったら出て行くつもりよ」

「戸建てを?」

「賃貸だっていつまで住めるかわからないじゃない。それだったら建売の戸建てを買った方が後々財産になって楽になるって思ったのよ」


不動産や住宅販売の専門会社に相談した所、若い世代の人でもローンを組んで戸建て住宅を販売できるプランもあり、そちらに話を付けているようだ。


「私も働いているし、葵もイラストレーターとして仕事しているから収入減も問題ないってことでね」

「そうですか…。お2人共働いているんですね」

「清志さんは何をしているんですか?」

「恥ずかしながら就活中で…」

「何だ。てっきりどこかいい場所で正社員になっているかと思ってた」


あずさにそう言われ。清志はバツの悪そうな表情を浮かべる。


「最近は若い世代の育成の必要を感じて積極的に採用しているって聞いてるけど…」


山内政権の働きもあり、大企業や中小企業の人事部は即戦力ばかりでなくノウハウを与えて将来に向けて質の高い人材の育成をすることの必要性があると指摘されたからだ。

それまでは人件費の節約のために、マルチタスクな人間しか選ばなかったり、海外からの労働者を使い安く済ませようとした。そのため仕事の質が落ちてしまい、大きなミスやインフラ整備の粗に繋がってしまっている。そのため信用を落とし、仕事そのものを失いかねないとして育成に力を入れているそうだ。


「キヨシならどこでも通用しそうな気がするけどね」

「どうでしょうかね…」

「私もそう思います! 清志さんは頭もいいし、リーダーシップだってあるんですから」

「それはゲームの中だったから…」

「現実の仕事にだって出来るでしょ? キヨシなら出来るはずよ」

「は、はあ…」

「まあ、気長にやればいいんじゃない? あんたもせらぎねら☆九樹から賞金貰っているんでしょ?」

「ああ、そうですね」


3人で話をし、夜8時になる頃に清志は帰宅した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「清志さん相変らずでしたね」

「ああ。だけどゲームで一緒にいた時より魅力に欠けるかな」

「厳しいですねあずささん」

「昔色々あってな。男性を見る目は厳しいかもしれない」

「モデルだった時ですか?」

「うん。アイツとは最終的に分かれたけど、男性に対して恋という感情を浮かぶことが出来なくなったかもしれない。葵もそうでしょ?」

「うーん…。お母さんが色々あったから…」


淀川葵は母子家庭で育った。父は葵が幼稚園児の時、出世の為に葵の母と離婚し社長令嬢と結婚した。それから葵の家系は苦しくなり、母は葵を育てるためパートの他にグラビアモデルをしていたという。その時あった資産家に気に入られて金をカンパしてもらったらしい。

 彼女が高校に上がる頃、葵の母はこれまでの心労がたたり病気となり、そのまま息を引き取った。葵は親戚の家に預けられたがが煙たがられるように扱われていた。


そんな時、とある母の勤めていた会社員の女性が現れ葵にあるものを渡しいていた。


「君のお母さんが残したものだ。君のことをずっと思っていたんだよ」


それは貯金が入っていた通帳だった。葵が名義になっており中には500万円ほど入っていた。


「彼女は自分に何かあった時これを君に渡すように言われていたんだ。きっと親戚に渡せば難癖をつけて君から奪おうとするだろうと言っていてね」

「…お母さん」

「あの人の分までどうか生きてくれ。彼女は誰よりも働き者で私も助かっていた。もし仕事が欲しければうちの会社で雇ってあげるから」


彼女はそう言って葵を気にかけてくれた。


葵はその後親戚の家を出て、友人だったあずさの元で暮らすようになり彼女と共に巻き込まれる形でサバイバルゲームに参加し今に至るのだった。




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