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第72話『蒼空町跡地』

半年もするとサバイバルゲームの話は沈静化し、清志は貯金を切り崩し就活しながら一人暮らしをしていた。


職業安定所、ウェブ就活サイトなど使えるものは何でも使った。だが最終学歴が大学でないと受け入れられなかったり、2次選考まで進んでも最終面接で落ちるという事を繰り返し、不合格通知が送られる日々が続いた。


「中々厳しいものだな…」


休日になると就活を止めてパソコンで動画サイトを見ながら過ごし、履歴書の予備を作っておく。


メールフォルダに就活サイトからの返信が無いか確認していると、蒼空つばさからのメールが届いているが気付いた。


『清志君へ

 返信が遅れてしまい申し訳ございません。あれからあの町がどうなってしまったのか私も気になっていたのですが、こちらの仕事もあり時間が取れずにいました。


蒼空町は私にとっても因縁のある町であり、その後どうなったか自身でも決着をつける必要があると思い現在の蒼空町を見に行く決心がつきました。


明日10時ごろ駅前で待っているので、来てください。


私は青色のベレー帽をかぶっています。見かけたら声をかけてください。


蒼空つばさより 』


「あの町の今か…」


メールを見た後清志は翌日のスケジュールを確かめ、就活が特に入ってないことを確認し行くことを決めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


翌日、駅前の駐車場で青のベレー帽をかぶったサングラスとマスクで顔を隠した人物が清志を見つけると手を振った。


「ごめんね。立場上目立つと色々面倒になるから…」

「いえ、大丈夫ですよ」


蒼空つばさがレンタカーに清志を乗せると慣れた手付きで走らせた。


「免許お持ちなんですね」

「ええ、高校の時取ったのよ。就活の時に運転免許を持っていた方が有利だって生徒指導の先生からの勧めでね」

「僕も免許取った方が良いですかね…」

「お金と時間がかかるのは覚悟した方が良いわよ。マニュアルだとクラッチとギアチェンジのやり方に慣れるまでてこずると思うし…」


話をしながらつばさは郊外の道路まで車を走らせ、やがて森林の道を超えて開けた場所についた。


「ここよ」


そこは重機が置かれ、多くの建物が解体された跡があった。

記憶に違いが無ければそこは確かに蒼空町があった場所だった。


「これは…。蒼空町が無くなっている」

「この場所は工場とか処理場になるらしいわね。土地を管理していた不動産から聞いたわ」


蒼空町はせらぎねら☆九樹によるサバイバルゲームが終わった後、土地を工場に資本を出している人間が購入し、町を解体して建物を建てるらしい。


ここからは彼女の仮説によるが、この町の土地を持っていた政治関連者が自分達にかかわりがある場所だとスキャンダルを建てられるのが嫌なので有耶無耶にするために安くしてでも売ったと言われている。


現在の総理大臣である山内茂の人気は高く、彼の庇護を受けて政治家になった者たち以外に彼のバックアップを受けている野党は特に彼に反対意見を上げる政治家を潰すために表では以下にも反対ですって顔をしていても、裏では繋がっているらしい。


厳格な山内は野党を簡単に信用しないため、恩恵を受けたい野党の政治家は彼の不利となるもの、障害となるものを排除して貢献し信用を掴もうと必死らしい。彼が総理大臣になってから法整備が進み、裏の資金源になっていた宗教法人との関係性を持つことや、新たな宗教の創立の厳格化が決まり、金が集まりにくくなっていた。


これは自分を支持する国民に、本来必要な場所に税金が使われることをアピールすること。そして法の抜け穴を利用し裏金を集めて政治家が力を蓄えるのを防ぐことを目的としていた。攻めと守りを同時に行う効率的な戦術を展開していた。


「特に山内内閣総理大臣はこれまで反省を促す犯罪への罰則を『償い』を主とする法律に変え、国内で犯罪を起こした海外犯罪者を日本の法律で厳格に裁くことが出来るようにした。もうそれだけで国民全てから信用を得ているわ。だからこそ快く思わない敵もできるし、周囲の人間は彼を守るために必死になるわ。悪い噂が流れているけど、山内がトップになってから内政が良くなっているのは事実よ」

「…その代償に蒼空町は消えていくってわけですか」

「どの道消える定めだったのよ。元々この町は地図に存在しない町。幻でしかなかったのよ」

「だけど、僕達にとってはあの町は幻じゃなかった。毒か薬、どちらかの役割となり人生を変えるための場所だった」

「そうね…」

「動画サイトに流れているサバイバルゲームの切り抜きも次第に風化されるけど、僕達は覚えていなくてはいけない。あの町の事を。僕達の人生を変えるきっかけ、『せらぎねら☆九樹』との出会いは間違いなくあの町にあったのですから…」

「確かに…。あの人は今どこにいるのかしら…」

「この町と共に幻の様に消えてしまったけど…。どうしてかいつかあの人はまた世間に姿を現すような気がするんですよね」

「確かに。私も九樹さんが復活するかもしれないと思っちゃうんですよね」


消えてゆく蒼空町と共にせらぎねら☆九樹の事を2人は思った。



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