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第71話『救済』

蒼空町の地下倉庫。そこに作られた金庫の中に金があった。紫龍院事件で被害者から奪ったお布施の一部、総額368億円。予定よりも多くの金額が集まった。


リストに沿って連絡を入れ、現在確認できている200名の被害者に平等に分けて送っていた。


「桝谷さんありがとうございます…! これで騙された父も少しは報われます」

「わしは感謝される筋合いはないで。色々あってやっと見つかったんやから」


連日せらぎねら☆九樹のスキャンダルを流すメディアの裏で、紫龍院教に関するニュースはほとんど流れない。恐らく山内総理に関連して繋がれ都合が悪いからだろう。金と圧力で封じられている。だがその方が都合が良かった。


「紫龍院教に被害を受けた人間の情報を晒されずに済む」


紫龍院事件の時、マスコミは被害者の家に押し入り強引な取材をしていた。中には紫龍院教に騙された信者が愚かな人間であると誹謗中傷をするような記事をする事もあった。

彼らはどんな報道をしようとそれは自分達の自由であり、『表現の自由』に反する言葉だと反論して聞く耳を持たなかった。彼らが原因で住む場所を奪われたり、職を失った被害者が絶えなかった。


「表現の自由やなくて『無法』やろ。金になればいいと死体蹴りするハイエナ共に正義があるかいな」


マスコミが騒ぐせいで思ったような捜査が出来なかったことがあり、快く思っていない。今は情報統制もあり外部に漏らさない配慮はされているが、どんな『秘密』も暴こうとする人間はおり、絶対に守られる保証というのは存在しない。『情報』は価格設定のない破格の商品であり、その為ならどんな大金も払う客もいるので守られる『秘密』というのはないのだろう。


「今、メディアはせらぎねら☆九樹の行方を追っている。アイツはそこまで計算ずくで神崎や政治家達のスキャンダルを動画サイトに流したんだろうか…。いや、野暮やろうなそんな考えるのは。おかげで被害者達に金を送る時間が出来た。今のうちに彼らを救わなければいかん…。予想外の協力者もできたことやし…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―1週間前・『犯罪被害者救済会』


サバイバルゲームから暫くして金の居所を突き止めた桝谷はある場所に来ていた。


『犯罪被害者救済会』


日本で起こった犯罪の被害者の生活支援・裁判の為の弁護士派遣等の被害者を支援するために作られた組織である。


犯罪が起こった時、まず法律がするのは事件の真相究明と犯罪者の更生だ。しかし被害者に対する救済はほとんど無いに等しい。

外部からの邪魔を防ぎ、あくまで自分達の法にのっとった正義を貫くためだろう。だが被害者の立場はどうなるのか、裁判が終わるまで中立の立場に立たされ、加害者の自分勝手な言い分を聞き、裁判官の適切なのかわからない裁きを下される瞬間を見るしかない。


民主主義、平等を叫ぶ現代社会において被害者は弱い立場にある。

精神的、経済的にダメージを負った彼らが社会復帰するべく救済する制度や組織が必要と思い、弁護士達が中心となって設立した。


桝谷は救済会と協力し被害者の支援を行っていた。

遂に彼らに返金をする機会が訪れたとことろに驚くべき人物が現れた。


「君が桝谷君だね?」

「お前は…いやあんたは…!!」

「ここでは『佐川泰介』という名前で呼ばせてくれ」

「…なんやと!?」

「話がしたい。会議室を借りるよ会長」

「はい…」


佐川泰介という帽子とサングラスで顔を隠した男は桝谷と共に会議室で話をすることになった。


―会議室


「…なんであなたほどの方がここにいるんや【山内茂】総理」

「…その名をつかうのはここではよしてくれ。ワシも色々立場があるのでな」


男の正体は山内茂だった。

「なんでここにいるんや…! お前のせいでどれだけの人間が…!!」

「ああ…。人生を狂わせ不幸にさせた。だが当時のワシはどうしても神崎の後ろ盾を得る必要があったのだ。この国のトップに立つためにな」

「…そのために犠牲を払う事はやむを得んって言うんか!」

「そもそも、綺麗事だけでは社会は成り立ってないだろう。コンビニで働く若造とて本気で働いているわけではない。表向きは『人のために』と言っているが、本心は『やる気はないが金が欲しい』と言うものだ」

「アンタはこの施設は綺麗事だっちゅうんか!」

「いや、だが本当に弱きものを救うなら綺麗ごとだけではなりたたん。この国の根本を変えなければ本当の意味で救えない。だからワシはどれだけ血を流し手を汚そうとこの国のトップに立ち、ワシの意志に賛同する者達で席を埋めてルールそのものを改正することを決めたのだ」

「…」

「すまんな。ワシのせいで職を追われることになったんだよな。桝谷」

「わ、わしの名を!?」

「ああ。最後まで紫龍院事件の捜査に関わっていたというのは知っている。ワシはあの時紫龍院事件のもみ消しをしていた」

「だから上司も何も言わなかったわけか」

「…そして今は被害者救済の為の力添えをさせてもらおうと思っている」

「どういうことだ?」

「すでに蒼空町の金の事は一部の情報通から漏れている。その金を奪おうとする輩がいるからワシが後ろ盾になろうと思っている」

「償いのつもりかいな?」

「好きに思ってもらってもいい。信用できぬならこれをお前に渡そう」


山内は桝谷に書類の入った封筒を渡した。


「それはワシのやってきた悪事の証拠だ。ワシが信頼できなければそいつでワシを破滅させればいい」

「なんやて…!」


桝谷は封筒の中身を確認する。中には不正に資金を得た事を記す書類など、悪事の証拠がまとめられていた。


「なんでこんなもんワシに渡すんや」

「上辺でもお前に信じてもらうためだ」

「だからってこんなんアンタに銃口突きつけてるようなもんやないか!」

「ワシは所詮その程度の男だ」

「…」

「ワシがしてきたことは許されないことだ。だからこそワシは生涯をかけて償いをしなければならない。これはその一つに過ぎない…」


そう言って山内は会議室からは出て行った。

その後桝谷は彼の後ろ盾を得ながら被害者達に金を返していった。


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