―町のキリスト教教会
「本日の説教はここまでになります。では順番にならんでお待ちください。今日の配給を配ります」
牧師の言葉に従い、教会の修道者に案内された人々は弁当を順番貰っていく。
「今日の弁当は唐揚げ弁当だ!」
「味噌汁も付いているぜ!」
この教会では説教を聞いたホームレスや生活困窮者に弁当や食料を配る支援活動をしている。毎日は出来ないので週に2度くらいだが、食うものに困っている人は皆訪れる。
教会としても人が来ないよりは理由はどうあれ聖書の話を聞いてくれる人々が増えるため数年前から活動をしている協会は増えてきている。
「次の場所に行こうぜ」
「おう」
仲間を連れたホームレスは次の場所へ向かった。
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茣蓙を敷いて缶を置く物乞い、長椅子に寝ている風浪者。町にはびこる非労働者達を行政組織はベーシック・インカム制度を使い最低限の生活を支援し社会人として働けるようになることを目的に活動をしている。
ベーシック・インカム制度を使っている非労働者は今や全国におり、全体の70パーセントが仕事に就き自立することに成功している。
「私は市役所の田島といいます。よければ社会復帰の為の支援を受けませんか?」
「いいよ俺は」
田島という職員がホームレスらしき男性に声をかけている。ホームレスは興味なさそうに返事をし、カップ酒を開けて飲み始める。
「少なくとも今あなたが飲んでいるお酒よりもいいモノが飲める生活が待っていますよ」
「ああ…何も知らねえくせにほざいてんじゃねーぞボケがああ!!」
ホームレスは突然キレて職員に茶碗を投げた。ガラスの割れたような音共に壊れた破片が散らばる。
「ひいっ…!」
「…仕方ない。引き上げるぞ」
職員はホームレスの元から去った。
「おやっさん相変わらずだね」
そこに入れ替わるように汚れたジャージを着た男が入ってくる。
「ああ? シゲオじゃねーか! なんだまた動画ってのでもとりに来たのか?」
「いえ、ただ遊びに来ただけですよ」
そう言ってシゲオは彼に酒とつまみを渡した。
「おっ! 俺の好きなやつ買ってきてくれたんだな!」
「源さんの好きなイカのゲソととばです」
「ビールはトレビア。俺の好みわかってるじゃねえか」
ビールを開けると男は一気に飲んだ。
「ぷはああ~♪ 染みるぜ」
「安くなってきたとはいえ、まだまだお酒は高いですからね」
「全くだ。政府のお上共は考え無しに税金上げて、給料下げまくるから消費が下がるってことをわかっていねえ。あの山内総理と東京都知事の河崎が政府の膿を除去して、消費税を0にする法案を通さなかったら今頃皆くいっぱぐれてるぜ」
山内総理は東京都知事に自身の弟子である河崎吉弘を指名し、総選挙の投票で多くの票を貰い就任させた。
東京都知事はヨーロッパの国々に等しい予算を自身の判断で扱うことが出きる内閣総理大臣に等しい権力の役職である。
河崎は全国の食品・卸売り会社をヒアリングし、税金が無くとも売り上げが出る事を証明して食品に掛かる消費税を無くした。
「これまで悪政により、国民の皆様から必要以上の税金を徴収していたことを深くお詫び申し上げます。国民の皆さんの生活を豊かにするためにも、不要な税を排除し、国民の皆さんに還元ことを誓います!!」
その言葉の宣言通り、3か月後にはベーシック・インカム制度を受けている者達や、国民に10万円の還付金が送られ、彼は国民から信頼を得た。
「しかしおやっさん」
「なんでえ?」
「どうしてベーシック・インカム制度や支援を受けないんですか? 興味本位で聞いて申し訳ないんですけど…」
「シゲオ。確かに受ければ楽だが、そいつを受けれるのは住所のある日本国民だけだろ?」
酒を飲むとシゲオはおやっさんに連れていかれる。
そこは段ボールと廃材、ビニールテントで作られた簡素なコミュニティである。
「ここはよお。俺の一家が元々管理していた土地何でえ」
「おやっさんが?」
「ああ。バブルの時は親兄弟とハワイに行くほど金持ちだった。だがその後は事業はことごとく失敗し、親父も兄弟もどこかにいっちまった。親父の死後、この土地だけが俺の財産として残ったのよ」
「…もしベーシック・インカム制度を受けたらあなたは手放さなくてはならなくなる」
「話が早くてたすかるぜ。そうだ、俺は財産を持つことが出来なくなるからベーシック・インカムを利用しない。そうしたら彼らの居場所がなくなる…」
そこに住むホームレスは頼る親戚のいない者や、海外から仕事等の理由で移住してきた外国人である。彼らはベーシック・インカム等の支援対象にならないので人並みの生活が送れない。
海外から移住した外国人は自国に頼れることが出来なく、強制送還されたら生活できないのは目に見えている。
そこで法のラインをギリギリ守っている『グレーゾーン』の領域でおやっさんは彼らを守るべくホームレスをしていた。
「俺が家建てずにこんな生活をしているのはそう言う理由だ。世間から見れば奴らは社会のゴミかもしれない。だけど行く当てもないあいつらが見放されたら裏社会に身を寄せたり、日本人に逆恨みして強盗とか犯罪をしでかすかもしれないのは目に見えている。絶望した人間ていうのは簡単に一線を超えれる…」
「…」
「シゲオ。全ての人間を救う事は難しいかもしれねえ。だけどあいつらの受け皿になる場所位あってもいいんじゃねえかなって思うんだ。世間で言う程あいつらも悪い奴らじゃねえんだ」
「ええ…」
話を聞いた後、シゲオはおやっさんの元から去っていった。
「…シゲオ…。おめーもここにいたから気持ちはわかるよな。…『せらぎねら☆九樹』になってもここはおめーの帰る場所だ。…金もありがとうよ」
酒とおつまみの入ったコンビニ袋の底にはせらぎねら☆九樹よりと書かれた現金入りの封筒が入っていた。