サバイバルゲーム
『こんつば~♪ 今日はゲームの実況をしていきますよ~♪』
動画サイトで蒼空つばさの配信が始まった。今日の配信は有名ゲームメーカー・トライブクロスの人気リメイク作品【ワイバンファンタジア4】の実況をしていた。
ワイバンファンタジアは20年前のレトロゲーム時代に社会現象を巻き起こしたシリーズであり、最新のゲーム機に移植されバグが改善されたり、クリア後のミッションが加わっているので面白さが倍増されている。5時間ほど遊びゲーム配信を終えた。
「はあ~。久しぶりの配信楽しかったなあ~」
サバイバルゲームから数週間後、せらぎねら☆九樹の支配下にあった事務所は解体し政治家達との関りも無くなった。【公共配信者】は最初の頃は評価されていたが、彼らを利用する政治家と企業との間に摩擦が入り関係が悪化した。特に企業はライバーを労働力として利用していたが、彼らの配信を通じて悪事が暴露されたり、他の非労働者から『なぜ自分達を雇ってくれないのか』という苦情も殺到し、【公共配信者】は消滅。ライバー達は自由になることになった。
「やっぱり配信は好きな事自由にできたほうが楽しいわよね」
蒼空つばさはかつての仲間達と共に再び事務所を立ち上げ、観る側も配信ずる側も楽しい配信活動ができることがスローガンでやっていきたかった。せらぎねら☆九樹が失脚した後、蒼空つばさの元には何億もの資金が通帳になって用意されていた。まるで事前に彼がこの状況になることがわかっていたかのように。
せらぎねら☆九樹はペル・ゲームの後から神隠しの様に正体を消し、これまえの出来事が幻のように思える。だけどそれが幻でないとあるモノで気づいた。
「…! これ、清志君からの…」
パソコンのメールボックスを確認すると清志からのメールがあった。
『つばささんへ
お忙しい所失礼します。サバイバルゲームが終わってからいかにお過ごしですか?
私はアパートに帰り日常生活に戻っています。
いきなりの話ですか、あれから蒼空町がどうなったかわかりますか?私は自分で色々調べていますがこれと言った情報はまだ探し切れておりません。だけどつばささんが何か情報があったらこちらのメールに送ってもらえますか?
蒼空町があれからどうなったのか、あの町の生末を何となく気になっただけなのでもしよかったら知っている事を教えてください。
それでは配信業頑張ってください。
清志より』
「…清志君。彼も日常に戻ってきているのね」
せらぎねら☆九樹の都合に付き合わされ、サバイバルゲームに参加されていた者同士とりあえずあの町から戻って来れたことに安堵していた。
「今は事務所の仕事があるから何とも言えなけど、もし時間があったら…」
つばさは清志にメールを送って仲間の元に向かった。
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―焼肉屋・【菜々亭】
「「かんぱーい!」」
蒼空つばさは仲間のライバー達と焼肉屋に集まっていた。菜々亭は予約で個室もあり、サークルの集まりや打ち上げ、個人情報を守りたい人達によく利用される。
「いやー人の金で食う焼肉はうまいぜ!」
「大江戸さん。また競馬でスッたんですか?」
「ちげえよ! パチンコだ!」
「同じだろバカタレ!」
「いい加減ギャンブルは止めた方が良いんじゃないですか~?」
「バッカヤロ! 賭けないより賭けて負けたほうが後悔しねえんだよ!」
大江戸華美、菜場藍、黒金エルマ、宮炭睡蓮らは予定が空き蒼空つばさの元に集まった。
「ギャンブルはゲームの中だけにしてくださいよ~。また借金されてもお金貸せないんですからね」
「もう全額払っただろう!」
「その時事務所のメンバーどころか知り合いにも借りてたって聞いてますっす」
「私も10万円位貸したわ」
「つばさちゃんにも借りたんですか!?」
「友情を壊したくないから10万円だけ貸したんです」
「ちゃんと返したからいいだろもう!」
たわいもない話をしながら肉を焼いて食事を楽しんでいった。
「そう言えば九樹さん今頃何してるんですかね?」
「私ら利用して大分稼いでいたみたいだし、今頃Lure‘sのメンバーと海外で暮らしてんじゃねーの? 日本にいたらマスコミが騒がしそうだし」
「あの人に関して、色々な憶測が出てるんですけど正直私は嫌いじゃないっす」
「何で?」
「確かにせらぎねら☆九樹さんはやり方は間違っている所はあったかもしれないっす。だけどあの人の言っていることは正しいことが多いなって思って…」
「それはそうかもしれないわ。この世の心理というか、皆が目を背けてしまう真実を伝えてくれるような人なのよね」
多くのライバー達から嫌われたせらぎねら☆九樹だが、彼の言葉はこの世の心理をついたものが多かった。どんなに強い言葉で非難しても、それすらも肯定して納得させてしまうような言葉を吐けるような人間だった。
「やっぱ3億人も登録者がいるとそう言う言葉が簡単に出るくらい実力がつくんですかね」
「いや…あれはあの人の元から。いえ、経験で得たことじゃないかしらね。九樹さんの過去のことはあまり知らないけど、きっと色々あったんだと思う…」
とつばさと菜場が話していると、
「あのー話している所割るんですけど、アイス頼んでもいいですか」
「自分はバニラで」
「私はチョコ味」
食後のアイスの注文をして話を終えた。
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―東原ライバー事務所
「さて、必要な書類はこんなものか」
「遅くまですまないな剣崎」
「大丈夫ですよ八坂さん。やっと俺達の活動が自由になって事務所も取り戻したんですから」
蒼空つばさらと同様に八坂・剣崎らも仲間たちと共に自分達がかつて所属していたライバー事務所を再考し、活動を再開していた。
「結局せらぎねら☆九樹は俺達の敵だったのか味方だったのか…。何もスッキリせずに終わりましたね」
「多分どちらでもないんじゃないのか?」
「あれだけ政治家と関わっておきながらですか」
「あの暴露動画の件から考えるに、俺達は隠れ蓑の囮だったんじゃないかと思うよ」
「隠れ蓑の囮…」
「政治家と関わっていたのも、彼らを油断させてあえて近づかせるためだったのかもしれないしな。その為に俺達を巻き込んだのを申し訳なく思っているのか多額の金を残していったしな」
机に置かれた2つの通帳。そこには蒼空つばさらと同様に億単位の金が残されていた。この金で事務所を再興しメンバーを集める事も出来た。
「幸いにもスポンサーがまた集まってくれたし、また地道に頑張っていけばいいだろ」
「てっきりせらぎねら☆九樹のことでライバーに対して不信感があるからつかないと思ってたんですけどね…」
「その不安もあったが、今は動画サイトで宣伝や広報をする時代だ。政治関連と深いかかわりのあるテレビは逆に人気が無くなっているし、それなら多く人の目が集まる様な所に企業もスポンサーも集まるだろうさ」
「なるほど」
「お疲れーっす! 一息入れないですか?」
袋を下げて葛城が入ってきた。
「おーお疲れ。何買ってきたんだ? この時間にやっているコンビニなんてないだろ?」
「コンビニはそうですけど、牛丼屋とか飲食店はまだ24時間営業の所があってそこで買ってきました。飲み物は自販機で買ってきました」
「俺コーラね」
剣崎は牛丼とコーラを取ると食事をとり始めた。
「俺もいただくよ。ありがとうな葛城」
「いえいえ! 俺みたいな社会不適合者を雇ってくれるような企業何てないですし~。ライバー事務所も今から新しく探すとかだるいんでちょうどよかったんですよ」
「そんな自分を卑下するな。お前もいいところあるんだからな」
3人は牛丼を食べながら談笑した。