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第64話『ペル・ゲーム8』

残された最後のカード。

26番の10円のミッション。このカードを神崎に渡すのが清志の勝利の策だった。


『MISSION:毒サソリを手にのせろ』


「こちらがサソリになります」


大き目の水槽ケースに体長10センチほどの異様な殺気を放つサソリが入っていた。気休めにエサに投入されたゴキブリが肉片となって散らばり精神的な苦痛を参加者に与えていた。


「うう…」

「ひい…!」


これまで高額賞金もこなしてきたしてきた参加者達もしかめっ面をしてケースを見た。ハサミを構える姿はエビの様な甲殻類を思わせるが、その見た目はどうにも言い表せない恐怖と嫌悪感があった。


「こちらのサソリについては資料を作りましたので目を通してください」


このミッションに用意したのは世界最強の毒サソリ【デス・ストーカー】。オブトサソリとも呼ばれており、主な生息地は中東やヨーロッパ、オーストラリアや北アフリカの砂漠・乾燥地帯。昼間は日影になる場所に潜み、夜になると餌を取るために活動し始める。


デス・ストーカーの持つ毒はアジトキシン等の神経毒が主な成分であり、刺された場合は神経麻痺、心臓発作・呼吸困難を起こして死に至る。毒サソリの被害の殆どはこのデス・ストーカーであり、全体の70パーセントはこのサソリだと言われている。


サソリ愛好家では上級者がこのサソリを飼育することもあり、かつては日本に輸入されたこともあったが2006年あたりに逃げ出した場合の危険性や個体数を守るため輸入禁止にされた。


その毒は糖尿病の治療薬開発に役立つ可能性があると考えられ、研究者の間で話題になっている。


「【デス・ストーカー】はとても素早い動きをします。1秒でも手の平にのせられたらその時点でクリアとなります」

「いや…なんでそんなサソリここにいるんだよ! 持ち込めないんだろ!?」


――――――――――――――――――――――――――――――― 


―せらぎねら☆九樹の控室


「まあ、表向きには輸入は禁止されている。表向きにはね…」

「どうやって取り寄せたんですか?」

「取り寄せたんじゃねえ。飼っている奴からもらったんだよ」

「あのサソリを!?」

「まあ…。世の中物好きが多いってことさ」


せらぎねら☆九樹は動画配信者としてあちこちかの業界に作ったコネで、非公式で輸入禁止の動植物を仕入れている業者を調べていた。

彼らは植物なら苗や種。動物なら幼体・卵といった形で仕入れて密かに研究者やマニアに販売している。

せらぎねら☆九樹は彼らにコンタクトをし、幼体で仕入れ成人まで育てたデス・ストーカーを購入した。密輸行為に目をつむる事を条件に。


「さて、後は彼ら次第だ」


せらぎねら☆九樹はゲームの行方を見守る。


――――――――――――――――――――――――――――――― 


―ゲーム会場


「冗談じゃない! そんな事出来るわけないだろ!!」

「たかだ10円の為に…命を危険にさらせるわけないでしょ!!」


これまで高額ミッションの為に体を張ってきた神崎チームの面々は拒否していた。数10万~数100万の為なら人は苦痛と引き換えに金銭を手にすることは出来るだろう。

痛みを感じても耐久力で乗り越えれるのだから。しかしたかが10円の為に、駄菓子も買えないような金額に命を張れる人間などいない。


「何をしているのですか! このミッションを行えばすべてが完結! あのガキどもに大漁金額差で勝てるのですよ!」

「だったらアンタがやればいいだろ! どれだけ金を積まれようがこのミッションはしない!」

「先輩の言う通りだ!」


沢田、高松、レヴン、霧山全員がミッションを拒否し、室山は先のバラムツのミッションの影響でやりたくない。リーダーの神崎美波がやるしかなくなるが彼女は余裕を崩さない。


「室山さん、命令よ。神埼の為に生きるのがあなた達一族の役目のはずよ」

「確かにそうですが、ですが私が万が一…私が死んだ場合はどうするんですか? だれがあなたを守るのですか…!」

「ならあなたの代わりを連れてくればいいだけよ」

「…!」

「勘違いしないで頂戴。室山家だけじゃないのよ、神崎家の傘下につきたいのは」

「…」


「なんてひどい人だ…」

「神崎美波…。初対面から嫌な感じはしたがあそこまでとは…」


これまで人生を神崎に尽くしてきたであろう室山を使い捨て同然にする神崎美波に嫌悪感を清志達は抱いていた。


「…仕方ないわね。なら私が行うわ。この情けない人たちの代わりに」

「本気か…?」


神崎美波は自らケースに近づく。


「その代わりあなた達に払うギャラの話は白紙にしてもらうわ。役に立たない人たちに報酬何て必要ないもの…」


(それに刺されたとしても病院には血清。解毒用の薬があるもの。たかがサソリ一匹に恐怖する必要なんて…)


神崎がケースを開けようとした瞬間。


「血清は期待しない方が良いですよ」

「はあ?」


清志が神崎に言い放つ。


「刺されても血清で何とかすればいいと思っているかもしれませんが、サソリ毒の血清は病院に置いてませんよ。日本ではサソリ毒の被害は少なく、血清を作る機会もあるかどうかわからないのですから…」

「でも取り寄せれば…!」

「その前に毒が回ってあなたは死ぬでしょうね。それでも勝ちたいならやるしかないし、どうすうか決めるのはあなた次第です」

「ぐぐぐ…!」


神崎は目の前のサソリを前にためらう。命か勝利か…。揺れる天秤にかけられた選択。


「ぱ…パス…!」


神崎は我が身惜しさにパスを使いターンを流した。


「ボクもパスです」

「清志…!」


清志もターンを流し、神崎にターンを渡す。


「パスを先に使ったあなたはもうミッションをするしかない。命を捨てても勝利にこだわるか、わが身可愛さにパスで負けを認めるか。はっきりしてもらいましょう…!」

「うぐぐ…!」


神崎は追い詰められた。待っているのは確実な敗北しかない。


「だ、誰か! ミッションは出来ないの!?」

「…」


沢田たちは応えない。室山も神崎の命令に従わなかった。ミッション達成不可能となり、神崎美波は敗北した。




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