ついに『フューチャーテイル』をクリアした蒼空つばさ。その報酬として200万の賞金が清志チームに加算される。更に神崎チームがクリアしたミッションの賞金を選んで加算することが出来る。清志は最高額である200万円を選び合計400万円の賞金を加算した。
「清志チームは更にクリアしたミッションを相手に与える事ができます。神埼チームはこれを拒否した場合その分が清志チームに加算され、クリアした場合は賞金を入手できます」
神崎チームの司令塔である室山は恐らくは賞金額の低いミッションが与えられると思った。無理なミッションを押し付けることもできるが、大金の得られることのリスクを考えれば、10万円位の安いミッションを押し付けたほうがまだ勝算があると清志チームは考えていると思っていた。
「僕が相手に提供するのは、6の『60万円』・『MISSION:大盛り激辛カツカレー完食チャレンジ(制限時間50分)』のミッションです」
「何?」
しかし予想に反して清志が提示したのは高額ミッションである。完食チャレンジは難しいが3人まで挑戦可能なのでそこまで難しくはない。だが神崎チームが受け入れるかどうか不安なところはある。
「どうする? 高額とは言え大盛りチャレンジだぞ…」
「私辛いのは苦手なのよ…」
「だけどクリアすれば60万円だぜ」
無茶をしてでも金を得るか。それとも体の事を考えて拒否するか。だが後者を選べば60万がそのまま清志チームに渡り、せっかく作った賞金額のリードが無くなってしまう。
「皆さん。世間から注目もされず、事務所からも相手にされない底辺登録者でしかないあなた方が選ばれた理由はお分かりのはずですね? こういう時に体を張れないのであれば何のために集めたのかわからないでしょう」
「くっ…!」
「やるしかねえな…」
高松達はこのミッションを受けいれ、沢田と黒田、さらにここまで温存していたレブンの3人で完食チャレンジを始めた。
清志チームのには、合計金額400万円が加わり先のサイコロゲームと合わせて合計金額は673万となり神崎チームの賞金に近づくことになった。
高松達は先の清志チームのチャレンジを見て、カツを最初に食べて後カレーとライスを攻めていく戦法を取った。5時間の休憩もあり体力が回復していた高松と沢田はテンポよく食べていき、
「レヴン! お前一番若いんだからもっとがんばれよ!」
「は、はい!」
神埼チームで1番若いライバーのレブン・マイルズが高松に檄を飛ばされ気合でカツを食べていった。彼はそこまで大食いではないがその場の空気と圧に飲まれ食べていった。
一方で清志チームは逆転可能な金額まで行き、後1回カードを捲る権利がある。だが清志はカードを揃えずにターンを流し、神埼チームがチャレンジを終わればまたカードを捲られていく。
(あと一歩で逆転される立場にいたらやることは更に点差を付けようとカードを捲り高額チャレンジをするしかない。だけど残りの高額ミッションは神崎チームの面々にとっても負担になるはずだ…)
清志はそう思い3枚目のカードは外した。
高松達は59分の時間をかけて完食チャレンジを達成。60万が神崎チームに加わり合計金額が770万になる。
神崎は更に畳みかけるように残りの高額ミッションを捲り逆転不可能にしようとしていた。
4番の『30万』・『MISSION:ワサビ寿司完食チャレンジ(5個)』
このミッションに再び黒田が挑み、ワサビ入りのシャリに苦戦しながらも寿司を食べていった。
「ゴホン! ゴホッ!」
ワサビが鼻の奥を刺激し、涙を流して顔を赤くする。ネタはわざわざ仕入れた新鮮な魚介類を乗せられているがそれを味わう暇もなく、ただわさびの辛さに苦しみながら完食した。
次に捲ったのは16番の『15万』・『MISSION:レースゲームで1位を取れ』
このミッションをゲーム配信ライバーのレヴンが行った。用意されたゲームソフトの中からレースゲームの『Zマックス』を選びプレイした。10年前に発売したシンプルなゲーム性とスピードの速さが売りのレトロなレースゲームだった。
ゲーム配信でも何度もプレイしたことがあるレヴンが危なげなくクリアし報酬の15万を受け取る。
「さて…。次は当然25番よ」
「ほ、本気ですか?」
神崎の言葉で25のカードが捲られる。『150万』・『MISSION:バラムツの刺身を食え』。
「その…。本気でバラムツを食べるんですか?」
「すでに用意されています」
霧山里子の不安を尻目にすでにバラムツの刺身は用意されていた。
バラムツは全長3メートルまで成長するスズキの仲間であり、世界中の温帯・熱帯の海に、日本では太平洋側の海に生息している。100メートルくらいの深海で生活しているが夜には浮上して網にかかることが多いらしい。
彼女がなぜ不安なのか、それはバラムツが要注意食材であるからだ。
毒を持っているわけではないが、人間には消化できない油の成分が含まれており、摂取しすぎると腹痛等の症状が起き、油が肛門から垂れ続けるという地獄の様な展開が待っている。
地域によっては食用としても扱われるが、海外では食品偽装に使われ流通禁止にまでなっており、ある意味では有名な魚であった。
それは霧山でなくてもネットを扱う者なら大概の者は知っていた。
「食べれば150万…」
「だけど…」
神埼チームはためらっていた。いくら大金の為とは言え、大食いや激辛ならともかく確実に肉体に悪影響が及ぶ食材を口にしたくないと。
「何をためらっているんです! 神崎家のためにも早くミッションを行いなさい!」
室山はそう言ってライバー達に発破をかけるが、その態度に気に食わない沢田が抗議の声を上げる。
「ふざけるな! だったらアンタが食えばいいだろう!」
「何ですって!?」
「そうだ! 命令ばかりで何もしてないくせに! ナンバー2だか知らんがそこまで言うならアンタがやれよ!」
ライバー達の突然の反抗に室山は言葉を失う。
「…室山さん。わかるわよね」
「うう…っ」
言わずもがなと目線で伝える神崎。誰もやらないなら室山がやれという無言の命令。
「ううう…ああああっ!」
室山はバラムツの刺身に醤油をつけると、刺身を全て平らげた。
「嘘だろ…!」
「正気かあの女…!?」
己の身より、神崎からの信頼を失う事、積み上げた権力を失う事を恐れた室山はミッションの達成を選んだ。これで合計金額は770万に加え、3つのミッション達成により965万となる。
(これで高額ミッションはもうなくなった。これで逆転はもう出来ない)
神崎は勝利を確信し、清志にターンを渡した。