ベーシック・インカム制度を始めとし、山内茂が内閣総理大臣になってから日本の未来の為に形骸化した法律は現代に応用できるよう改正されていった。罪人の反省を促すだけの司法も罰則を強化していった。
しかし、それでも悪党はずる賢く立ち回り続けた。
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―市内・全国チェーン店のネットカフェ『フリークラブ』
「これは酷い。店の金は抜き取られ電子機器が奪われている…!」
現場に駆け付けた警察は現場のありさまに目を疑った。荒らされた店内を見て回ると、店の従業員がガムテープで巻かれスッタフルームに閉じ込められていた。
「…犯人は7人位のグループで私を拘束すると客を凶器で脅して黙らせるとあちこちを破壊しまくったんです!」
まくし立てるように言う従業員は平常心を失い動揺していた。話は聞けたものの、犯行の証拠となる監視カメラは破壊されデータも奪われていた。
「鑑識も呼びますが、ここまで荒らされている上に客の出入りが多いとなると証拠を探すのは難しいかもしれません」
「しかもグループ犯となると反社会的勢力が関わる可能性もあります。ただの半グレギャング集団や不良グループによる可能性も捨てきれませんが…」
「未成年だったら起訴できない可能性もありますね」
駆けつけた捜査官は調べながら犯人像の話をしているが
「他人事みたいに言わないでくださいよ! こんな事店長にどう説明したらいいか…」
「とりあえず現場検証をまずしなければ何とも言えません」
捜査官はことなかれ主義で仕事をしているような態度をとっていた。
犯罪者たちはグループで活動し、人手が不足しているサービス業や飲食店のチェーン店を狙っての強盗犯罪を行うようになっていった。
特にネットカフェやコンビニはワンオペの勤務が常態化し人手が薄いので狙われやすかった。複数人でいったのは取り締まる司法から逃れるためであった。どれだけ法律を改正し、罰則を強化しようと警察・検察は役人気質で手間取ることを嫌う性質がある。そのため凶悪犯罪であろうと自らが作り出したシナリオで厳しい罰則を回避して捜査の手間を取らずにいた。
死傷者が出ても『相手はあくまでも強盗目的で人を傷つけたのは不可抗力である。もし死者が出てもそれは運が悪かったと言わざるを得ない』と言う屁理屈で被害者を冒とくするような態度を取り、悪人達は行政の怠慢さに味を占めて複数犯にしてうやむやにし、犯罪をするようになっていった。
その状態を重く考えた山内は決断した。日本の未来守るために。
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―記者会見配信
その日、山内は動画サイトを通じて各メディアに会見を開いた。
「皆様お忙しい所ご閲覧いただきありがとうございます。私は近年の凶悪化する犯罪に対して重く考えており、今回はその対策について会見したい次第でございます」
そう言った山内の前には記者の他に集められた警察官・検察官のトップが集めれたていた。
「山内総理、確かに凶悪化しているのは遺憾でございますが犯罪率は減ってきております」
「我々も凶悪犯罪を防ぐために努力はしていますので」
警察官の言葉に山内は厳しい視線を向ける。
「努力だと? 減ってきているだと? それはどういった資料を元に発言しているんだ? その犯罪率は起訴されてない事例も含まれているのか?」
「そ、それは」
「ワシが何も知っていないと思うのか? 強盗、わいせつ、交通事故の軽犯罪に限らず死者の出る重大な犯罪でも事件として扱われなかった事案も存在していると。しかもその割合は年々増えているようではないか? 悪人どもを野放しにすることに貴様らは罪悪感を感じないのか?」
山内の言葉に警察は黙り込む。
「言っときますけどね総理、あいつらもずる賢くてこちらも起訴するために努力はしてますけど法律を違反するギリギリの範疇で逃げているんですよ。それでも犯罪者を捕まえるために我々が寝る間も惜しんで働いているんです。不起訴を我々の怠慢につなげるのはお門違いも良い所です!」
検察官役員がそう言って山内に反論するが
「つまり今の司法では全ての犯罪事例を起訴できない状況にあるということか」
「いえ、そう言うわけでは」
「貴様が言っているのはそういう事だろう。確かに犯罪者を掴めるにあたって今の法律はあまりにも緩すぎる。だからワシはすでに法務局長と相談し、新たに犯罪を取り締まる法律を作った!」
山内が指を鳴らすとスタッフが新たな法律をしるした六法書を配り始めた。
「ワシは才能ある者、未来ある若者達のために金を出し惜しまん。だが、平穏を破り汗血流して稼いだ賃金から収めた税金を犯罪者、いや役に立たん家畜以下の害虫共に出す気は微塵もない!!」
「山内首相! それは流石に言葉が過ぎるのでは!?」
「黙れ! そもそも今までが甘すぎた! ワシの収める国では命を弄んだ犯罪者共は生かしておけん! 【人命尊厳への侮辱への制裁】法に乗っ取り、誰であろうと悪意を持って命を奪ったものは〈死刑〉とし、責任をとってもらう!」
更に山内は終身刑や無期懲役を無くし、懲役でなく犯罪者は償いとして賠償金を支払うまで出所を認めない制度や、性犯罪を犯した者は個人情報を登録し公開すること。〈レッドリング〉なる首輪をつける事や、悪質な場合は去勢手術をすることも必要とする法律を制定した。
更に正当なる裁きを実現させるためのAI司法も導入する事、民事による違法捜査や冤罪を防ぐための『査問委員会』を作り、法律を悪用する司法関係者を犯罪者として厳しく取り締まる事、未成年犯罪を防ぐために学校等の施設に警察・検察が関われること、いじめを単なるいざこざではなく傷害・犯罪として扱う事などこれまであいまいだったことも取り決めを作り扱うことにしていた。
「いくらんでもこれは急すぎるのでは」
「今までが遅すぎたくらいだ。ワシは法務大臣に法律の制定に基づき男女20名の死刑囚の執行を本日行うように言っている。税金を貪る害虫は処分に限る」
「そこまで…」
言葉を失う警察・検察たちに山内は言葉を繋げる。
「厳しいと思う声もあるだろう。だがワシらの正義とはなんだ。誰の為にある?」
「それは…」
「他でもない。平和を求める国民の為にあるのではないか? だからこそお前たちに人を裁く権限を与え、治安維持をする役割を果た知れ貰おうと思っていた。だが現実はどうだ? 法律の穴をつき、貴様らの怠慢を理由に悪人どもがはびこる社会になってしまった」
「…」
「だが、今からだ。今からワシは、いやワシ達は国民の、ひいては日本の未来の為に若き世代、若き才能を守り、老いても次の世代に受け継がれるような社会を作らなければならん。技術が進歩しても国が変わらなければ輝かしい未来を大きく損失してしまうことになる!!」
「山内首相…」
「この国の為、この国の未来を共に守るのが君達の、ひいては司法の役割だとワシは思っている。それを念頭に入れ諸君は改めて意識をもって仕事に臨んでほしい」
「は、はい!」
山内の会見が終わると、全国の刑務所で死刑囚の執行が行われ、囚人たちは政府が改装した刑務所で被害者への償いをさせるべく労働が開始された。期間は100万につき5年。主人たちは月々の報酬から被害者への支払いを中抜きされ、刑務官によって厳しい監視の中生きていくことになった。
山内のやり方は強引な部分もあるが国民からは支持されていった。本来あるべき正義の形に司法を変え、未来の為の政策を行っていく。
「まだ、ワシはやるべきことがある。…その為にワシは…」
決意を目に山内は仕事に向かった。