神崎一族。
その家系は古く、平安時代から続くと言われており歴史の陰で多くの名を遺す豪傑たちを支え、財産を貯えて来たと言われている。
かの世界大戦に置いても多くの財団に兵器生産の金とアイデアを与え、その利益の半分を搾取し、工業発達期には政府に働きかけ鉱山を名も無き野心家に与えて切り捨てる事を前提にバックアップして、利益を政府と取り分を分けて搾取し、公害病の責任を彼らに与え、自分達は陰で贅沢な生活をしていたとの話もある。
神崎幸太郎は第36代目神崎家当主にして、神崎一族の資産を数百倍にも膨れ上がらせた。
自分より若い妻と内縁の妻を複数持ち。日本各地には彼の主有する別荘もあるという。
「なあ、なぜワシらは華族と言われているかわかるか?」
幸太郎は懇意にしていた政治家・山内にそう説いたことがある。
「…古くより日本に存在した貴族だからでしょうか」
「違うな。ワシらは庶民が言う『楽して稼ぐ』、そいて『贅沢が出来る』を日常的にできるから華族なのだ」
ベッドの上で神崎幸太郎は自分より若い20代のグラビアモデルの淀川彩音と外人グラビアモデルのリアンヌを両側に添えて得意げに山内に話す。
「ワシは金が好きだ。金は人間のように裏切らない。ワシの我がままを叶えてくれる誰よりも信頼できるものだ」
「はあ…」
「ああ、彼女らはワシの新しい女だ。若くてバストとヒップが大きくスタイルの良い女性で気に入った! ガハハハハッ」
「そうですか…。奥様は」
「つまらんことを言うな山内。あれはワシの種を残すために形式で結婚したに過ぎない。生活するため金はやっているんだから浮気ごときで文句は言わんだろ。まあ今どき愛妻家なお前からすれば物珍しかもしれんがな」
「いえ、失礼しました」
「でだ。山内、金をもっとワシは欲しいのだが…」
「税金を引き上げる気ですか? 今の税金でもギリギリ国民が生活できる範囲でして…」
「そんなチャチな事じゃない。ワシはもっと楽に大金を稼ぐ方法を考えておる」
といい神崎が女中を呼び、山内の前に本を一冊出した。
「これは聖書ですか?」
「そうだ。ワシは宗教を作り信者からお布施を貰おうと思う。お布施は税金がかからんしあくまで信者の気持ちとして上納されるものだ」
「しかし、宗教団体が許すか…」
「別に今ある仏教やキリスト教ではない。独自で作ればいいのだ」
「独自で!?」
「別に宗教何て難しくないだろう。学も歳もない脆弱な人間がありもしない神を信じる事を商売にしているだけだ。ならばそれを利用しない手はない」
神崎は現在不景気の中で未来への不安を持っている人間なら簡単に信頼を得れると確信した。特に商売をしている中小企業の人間は大きな不安がある。株を持っている企業の人間に情報を聞き彼らを信者にして金を巻き上げようとする魂胆だった。
「確かに不可能が無いとは思いますが、もし民間に被害が出た場合は…」
「心配するな。警察も検察も裁判所もワシの味方だ。ワシがどれだけあいつらに金をやっていると思っている? 庶民の連中がどうなろうが痛くもかゆくもならんわ」
「かしこまりました。ではすぐに準備に取り掛かります」
「うむ。ワシはもう少し寝る」
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「ちっ…獣め」
山内は神崎の元を離れると悪態をついた。常人には思いつかない発想と。だれも従わせる権力には感服するが、欲望に忠実でそのためなら他者を簡単に傷つけれる野生の獣の様な神崎幸太郎に対して内心軽蔑していた。
「だが、ワシが総理大臣になるにはあの方の力が不可欠…!」
神崎を軽蔑し彼を失脚させようとした活動家は多くいたが、殆どは神崎の息の掛かっている警察の手によって密かに葬られた。
「ワシの野望の為にも今いなくなられては困る」
独り言を言いながら歩いていると、目の前から女子学生が歩いてくる。それは神崎幸太郎の娘である神崎美波である。側に気弱そうな男子学生を連れている。
「美波お嬢様。学業お疲れ様です」
「ああ山内? またパパとお話していたの?」
「ええ、少しばかり今後の活動のお話を」
「ふーん。まあ政治の話って難しいから興味ないわ」
「お嬢様にはまだお早いかもしれませんね」
当たり障りのない話をしながら山内は対応した。
「そうそう。今日からつきあうことにしたんだけど~。この子良いでしょ?」
「こ…こんにちは」
先ほど見た山内幸太郎の愛人のようにその男子学生は目の輝きを失っていた。
「井川翔君って言うの。成績も良くて可愛くて私好みなの。今日から彼氏になったの。パパには秘密よ」
「はあ…かしこまりました」
(あいつも金を尻目に無理やり付き合わされているのか)
彼女は父である幸太郎の影響もあり学校ではヒエラルキーの頂点にいる。その立場を利用して自分好みの異姓を見つけると彼氏にしてしまう。例え相手に恋人がいようとお構いなくだ。神崎の元で働くようにってから彼女と話す機会も増えたがその度に違う異性を連れていた。
(あの親にしてこの娘ありか…)
血筋とはいえ欲望に忠実で、その為なら手段をいとわないやり方をしている姿に山内は嫌悪感を抱いていた。
「どうかしたの?」
「いえ、私はそろそろ仕事に戻りますので」
山内はそう言ってその場から離れた。
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それから約10年。
神崎美波は財産を相続する立場になり、相続争いにより弟を追い出し神崎家の財産は美波が全て相続することになった。
「美波様。これで神崎家…いえ、日本はあなたのものになっても同然になりましたね」
現当主となった美波の側近である室山加奈がそう言ってコーヒーを持ってくる。
「ええ。もうあんな口うるさいジジイの事に悩まずに生きていけるもの。生きているだけで収入も入るし、毎日好きな物を食べれるし男だって選べるわ。これも室山さんのおかげよ」
「いえいえ。私はただ美波様の為に尽くしただけですわ」
室山加奈は学生時代から美波の側近として付いていた。室山加奈を含める室山家は古くから神崎家に仕えていた関係だった。形骸化したしきたりの様な繋がりだったが、室山は生まれた時からトップの下に着く、組織のナンバー2になる才能があった。
『ナンバー2になればトップの権力を行使できる立場になりつついざとなれば責任を回避して安全地帯に逃げて体制を立て直すこともできる』
という考えから優秀な能力を持ちながら権力者の陰になり力を持つことが出来ている。
加奈は紫龍院教にいる時も組織のトップである川尻栄作の元について権力を手に入れつつ金を搾取していた。
その金を元に紫龍院教が無くなった後も神崎家の元につき、美波からの信頼を買っている。
「室山さん。最近神崎家に納金される企業からの金が減っているんだけどさあ、やぱりこれは不景気が影響?」
「そうですね。流行病や各地での紛争。そのために諸々の経費が掛かり企業の売り上げは減っているらしいですね」
「ねー。それならこんな状態でも稼いでいる所ってない訳?」
「生産系や医療系でしたらそうですが、今の状態でもやっとなのです」
「ならさあ、新しく開拓するって言うのはどう? インターネット系なら若い世代の人たちが稼げるからさあ」
「でしたら配信者ならどうでしょうか?」
「ああ。あのゲームとかして稼いでいる奴らでしょう? そうだ、室山さん。山内さんが確か新たな政策を作ろうと会議していたわよね?」
「はい。高齢者だけでなく若い世代に政治に興味を持ってもらえるようにしてもらう新しい政策を考えているとか…」
「ならさあ、それを利用して動画配信者を取り込むのはどう? 組織化して公務員化するのはさあ」
「なるほど…」
「配信者の給料は固定給にして、ほかの金は費用とかでうやむやにして神崎家に収めてもらえばいいのよ」
こうして神崎美波のアイデアは山内の元に渡り、動画投稿者や配信者は『公共配信者』と言う形で公務員化され支配された。
そして彼らの稼いだ金が神崎家に送られるようになったことは配信者の誰も知る由もなかった。
せらぎねら☆九樹を除いて。