阿久津正義、せらぎねら☆九樹の力を借りて桝谷は蒼空町を脱出した。彼は阿久津正義の法律事務所で小坂と再会し、レンタル店で借りた軽トラに乗ってある場所に向かっていた。
「たくっ…。俺はタクシー運転手じゃねえんだぞ」
「金貰っとるんやろ? 頼むで」
「はいはい」
小坂はブツクサと文句を言いながらも桝谷を乗せていった。
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―神崎邸・裏側
正面には鉄格子の門と守衛2人がいる堅固な警備。庭にはプールがあり豪華な作りとなっている。
「まさに大金持ちって感じやったな」
「では早くいきますよ」
阿久津の部下が桝谷を連れて裏側に先ずは言った。守衛は1時間ごとに周囲を見渡しに来る。そのリズムの隙をついて塀を超えていくと、窓を開けて内部へと侵入した。
「2階に重要書類がある金庫がります。そこへ目指しますよ」
「もうそこまで調べとるのかいな」
「神崎に恨みのある者は多くいますからね。この屋敷に努めたことがある方が金を条件に教えてくれましたよ」
神崎は金を集めるべく強引な手段を使ってきた。そしてそのために多くの人々が被害にあったと言われている。
「無論、神崎を倒すため多くの被害者が立ち上がろうとしましたが司法にコネがある神崎は警察・検察を使いもみ消しましたし、金で反社会勢力を利用して脅迫したとも言われています」
「悪党より悪党やな…」
「あの山内ですら神崎の操り人形でしかないとまで言われています」
「…どのみち奴に近づかなきゃ山内も倒せんちゅうわけやな」
「では急ぎましょう」
警備の隙をついて侵入し、目的の部屋に行くと阿久津の部下は特殊工具を取り出し部屋の鍵を開けた。
中に入ると机と本棚、そして大き目の金庫が置かれている簡素な部屋があった。
「これもその道具で開けるんか?」
「いえ、流石にここまで大きい金庫は工具では無理です。なのでこちらを使います」
そう言って取り出したのはバールと組み立て式の電動のこぎりだった。
「そんなん音出したら気付かれるで!」
「大丈夫です。もう片方の班が手を打っているので」
「?」
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―神崎邸・警備室
「ぐうう…」
寝息を立てて警部員が机に突っ伏していた。
「さてと、こいつをノートPCにつないでハッキング。これで証拠はなくなるってわけよ」
「警備員が交代で戻ってくるまでの2時間。いくら警備システムが強化されようとヒューマンエラーは防げないわよねー」
「屋敷に努めている使用人を買収して警備員に睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて眠らせる作戦は見事成功したわけだ」
警備室で桝谷をサポートするために梅村と柊は侵入し、警備システムを制圧していた。これで不備が起こっても警備員が来ないようにしていた。
「流石梅村ちゃんね。ハッキングはお手の物」
「色々あったからな」
梅村は地下アイドルから始まったアイドル活動以前、児童保護施設にいた。
両親は中がよく不自由のない生活をしていたが、交通事故に巻き込まれなくなった。
事故を起こしたのは紫龍院教の使っていた布教営業用の車であり、運転手は雇われた学生であり、無免許運転をした最悪の事故だった。
学生は警察に捕まったが、『免許はないが、普段から自動車運転をしていたらしいので運転技術はあるから無免許運転とは言えない』と言う屁理屈で交通事故の罪に問われず、彼はまだ17歳であり少年法で保護対象となり少年院送りで罪人として起訴できなかった。
この事実に梅村はなぜ両親は死んだのにそいつはのうのうと生きているのかと怒りに身を震わせた事を覚えている。
周囲の親戚は両親の残した遺産を食い荒らし、一人残した梅村を児童保護施設に預けた。その時彼女の持っていた両親から買ってもらったノートパソコンがただ一つの形見である。
死んだ両親に報いるためにも彼女はPC技術を独学で磨き、生きるすべを身につける事を誓っていた。
「事故を起こしたあの野郎は名前を変えてどこかで生きているかもしれねえ。だけど私はそもそもの原因を作った紫龍院教と元凶の神崎を許さない」
「それは同感ね。神崎は許されざる一族だわ…」
柊は厳しい表情を浮かべた。
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万が一を考えて桝谷は入り口を見張っていると、扉を壊し遂に金庫が開いた。
中には書類をまとめたファイルやUSBメモリー。そして現金が入っていた。中には1億程の金が入っている。
「まさかこんなところに置いてあるとは…」
「まあ、何かあった時の保険として置いてある金でしょう、ですがこの金、今は手を付けません」
「…せやな。ワシらの目的はこんな僅かな金やあらへん。奴らが隠してある財産のありかを示した資料や」
金庫にあるファイルやUSBを中身を確認して回収すると、阿久津の部下はスマホでメッセージを打った。
「よお、もう集めたのか」
「早く帰るわよ」
梅村と柊は桝谷達を連れて侵入とは別ルートを通って屋敷を脱出した。
「小坂はもうおらへんのか?」
「おっさん。同じ車を使ったらばれるだろ」
「すでに逃走用の車は手配してるわ」
屋敷から離れた場所に用意していたレンタカーに乗って桝谷達は屋敷から出て行った。
「…九樹さん。こっちの仕事は終わったわ」
『ありがとうございます』
柊はせらぎねら☆九樹に連絡を入れて、桝谷達は潜伏先に用意された施設に向かった。