せらぎねら☆九樹によってペル・ゲームのリーダーに選ばれた伊藤清志。彼は特別な計らいによりこれから行われるゲームの手伝いをするため一時的に街を出る事を許された。そしてい伊藤清志と共にもう一人の人間が外に出ることになった。
「あなたも用事があるのでしょう?」
「ワシの事か?」
せらぎねら☆九樹はペル・ゲームの話の後、桝谷平太に話をした。
「一つ聞きたい。アンタは紫龍院事件のことをどこまで知っとるんや」
「…全てですよ。10年かけ調べましたから」
「せやか…」
「舛谷さん。あなたにはやってもらいたいことがある」
「やってもらい事やと?」
「恐らく見つからないよう金は隠してある。それを見つけるために貴方には神崎の家に侵入してもらう」
「侵入!? 何でそんな盗人みたいなことせなあかんのや!?」
「神崎は悪事の証拠を重要な保管庫に置いています。そこにはメディアに漏れていない情報もあるとか。既に手は打っています。あなたは事件にあった被害者を救済したいのでしょう?」
「それはそうやけど…」
「ですが、それは正攻法では不可能です。神崎はこの国の陰の支配者であり、彼ら一族の為になら司法はいかなる手段も取るのですから」
「…っ」
かつて自分が進めていた紫龍院事件を強制終了させられたことを思い出し舛谷は顔をしかめた。恐らく上に圧力をかけられたのも山内ではなく、今思えば神崎ではないのかと思ってきた。
「…どんな手を使ってもワシは被害者を救うとワシは決めておった。わかった。その話のらせてもらう」
「ありがとうございます」
「それともう1つ聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「アンタがクラキシゲオか?」
「さあね」
「…」
返答を誤魔化しせらぎねら☆九樹は去っていった。
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清志はその後皆に一時的に抜ける事を説明する。
大江戸「外いくんだったら有馬記念の馬券買ってきてくれん?」
大江戸の言葉は一蹴したが、皆概ね了承し清志を応援した。
家の前でいたスタッフは「伊藤清志が何かしらの違反行為があった可能性があるので一旦連れて行く」と言う理由を聞かされ彼に目隠しをすると蒼空町を出るため車に乗せられた。
(あくまで蒼空町の場所は教えないつもりか…)
3時間程乗せられ、目隠しを取ると懐かしい都市へと連れていかれた。
「彼は指定の場所で待ち合わせをしている。それまでは時間を潰していろ」
スタッフから1万円分の電子クレジットがチャージされているアプリ入りのスマホを渡されて繁華街のアーケード町をぶらつく。長く閉鎖された場所にいたせいか、耳障りな騒音も、鼻腔をくすぐるジャンクフードの香りも懐かしく心地良いものに感じた。
空腹を感じたため近くのラーメンチェーン店に入った。
注文した醬油ラーメン、炒飯とギョーザのセットが運ばれる。
1口目に食べたのは炒飯だ。中華料理店で炒飯が上手い店はどんな料理も上手いと彼は思っていた。十分な火力で調理された炒飯は均等に混ぜられた具材とあじつけと風味がよく、食欲が進んだ。
食事が終わり、支払いを終えるとスタッフに連れていかれビジネスホテルの一室に連れていかれる。そこにはノートパソコンがあり、開くとせらぎねら☆九樹と通信がつながった。
『やあ、今日はご足労さえて申し訳ない』
「いえ、久しぶりの外界で少し気が晴れました」
『そうか。では早速だが、私のゲームの裏側を見せてあげよう』
せらぎねら☆九樹は動画を開いて、清志に視聴させる。
『これは先月の賞金ゲーム【バトルロワイヤル・ラストジョーカー】の動画だ』
そこに映し出されているのは一般参加者の3人とLure‘sのメンバーである樒がオーソドックスなトランプゲームである【ババ抜き】をしている。通常と違うルールであり先に手札が無くなったプレイヤーから脱落する特殊なゲームだ。
このゲームはそれぞれ手持ちの金額を出して、最後に残った1人が総取りをするルールとなっている。
参加者の内2人は100万と200万。樒の対面に座っている男は2000万とかなりの額を出している。樒はせらぎねら☆九樹の代理で5000万円の金を出している。勝った参加者は7300万の大金を手にすることが出来るという夢のある賞金ゲームだ。
『最も、そう簡単にあの男に金をやるわけがない。アイツの名は『村井隆之』。43歳独身で、話していないが過去に軽犯罪の経歴があることは調べで分かっている』
「そんな人が2000万も用意できるんですか?」
『闇金で借りたんだよ。親戚からは疎遠にされているし、やつは日々の生活費は同棲している女性からもらっていたらしいからな』
「ヒモってやつですか?」
『そうだな。水商売とパートをしている30代の女性らしい。まあそれは置いておいて今回のゲームでは奴を破滅させるため。まずあえて調子づかせる』
ババ抜きはまず1人脱落する。続いてLure‘sの樒が脱落する。これで大金を得るのに大手をかけたと調子づく村井。だが、2人になってカードも減り、どちらがジョーカーをとるかになる。
『村井以外の参加者は私が用意したエキストラだ。最初から彼が勝てるようになっている』
トランプには特殊な細工がされており、眼鏡をしていた参加者のエキストラはカードの絵柄がわかるようになっている。
「やった!」
エキストラが最後にジョーカーを残し勝利した。
「くっ…ぐうう…!!」
村井はうなだれて机に突っ伏した。
『賞金は彼に10分の1である720万を渡し、残りは彼女を通して私に返ってくる』
「随分太っ腹ですね」
『協力してもらったのならそれくらいするさ。口止め料も兼ねているよ』
「…しかし、あの村井と言う男はどうして簡単に金が手に入ると思ったんでしょうか?」
『清志君。私がサバイバル前に言ってたことを覚えているかい?』
「?」
『世の中、上手くいかなくて当然。それに気づかない者から落ちぶれていく』
「!」
『村井は気付けなかった。だから絶対に上手くいくはずなんだという幻に踊らされ、そして落ちていく』
「そうでしたね…」
『神崎またそういった油断がある。私と君とらで神崎を倒すんだ』
動画が終わり、改めてペル・ゲームでの打倒神崎を誓った。