蒼空町・清志の家
クインテッド・ソウルズ・ゲームをクリアした清志達は大江戸華美と共に動画を作っていた。ほとんどの編集は彼女であったが、アドバイスを聞きながらプレイしたゲームの感想を含めた攻略動画を作っていき、運営スタッフに提出した。
「アンタ中々筋が良いね! アタイは作り方がわからなくて結構勉強したんだけどさ!」
「初めてやったんですが楽しいものですね」
最初にクリアした特典の報酬【買い物半額チケット】をもらい、清志達の生活は大分楽になっていった。動画を送った後、運営スタッフたちが訪れてきた。
「伊藤清志、彼が君に会いたがっている」
「彼?」
「すぐに来てくれとのことだ」
スタッフに急かされて清志は公民館に連れていかれた。
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「ここで待つように」
スタッフにそう言われ、ホール内で待たされる。
「…あなたもスタッフに?」
「はい」
スタッフによって連れてこられた蒼空つばさ、天城あずさ、太田真、中井洋子、宮野次郎、淀川葵が待機させられていた。
「アンタもスタッフに言われてきたの?」
「はい。あずささんもですか」
「一体何だって言うんだ? ゲームはもう終わったんじゃないのかよ?」
宮野次郎がスタッフに問いただすと
「あの方が来るまで待っていろ」
と返すだけだった。
「誰だよあのお方って…」
「静かに! まもなく登場の予定だ」
スッタフが整列し、ホールの戸が開く。
「皆さん、【クインテッド・ソウルズ・ゲーム】をお遊びいただきありがとうございます。投稿された動画も評判でダウンロードが止まりませんよ」
「あんたは!?」
ホール内に入ってきたのは黒いスーツに身を包み、顔を道化師のお面で隠している身長180センチほどの男、その横にはLure‘sのメンバーである樒がいる。
「〈せらぎねら☆九樹〉!?」
「本物のせらぎねら☆九樹さん!?」
いつも動画でメッセージを送るこのサバイバルゲームの主催者であるせらぎねら☆九樹であった。
「…今回は動画越しではないんですね」
「ああ。君たちと直接話をしたくてね」
清志の言葉にせらぎねら☆九樹は冷静に返す。
「ああ…! 夢みたいだ! トップライバーのせらぎねら☆九樹さんに直接お会いできるなんて!!」
「ちょっと太田さんしっかりして!」
彼に初めて会った太田は感激のあまり倒れそうになる。
「今更なんで俺達の前に現れた?」
「それをこれから説明するんですよ。フウライ君」
「!?」
「スタッフの皆さん。これから大事な話をしますので外に出ていてもらいますか?」
「わかりました」
スタッフは全員公民館から出て、せらぎねら☆九樹と樒、清志を含めた参加者が残る。
「さて、では話を始めようか」
「その前に、先ほど宮野さんを『フウライ』と言ったのは?」
「…ああ。彼は今から2年前にライバー事務所に契約解除をされた【夢創フウライ】なんですよ」
「ええっ!? 【夢創フウライ】さん何ですか!?」
その事実に太田は驚く。彼はヤンキーでホワイトハッカーをしているという設定のバーチャルライバーであり、事務所の方針に従えなくなったという事で契約解除になり、配信者を引退されていたと言われていた。
「まさかフウライ君が参加していたなんて」
つばさも驚いた表情を浮かべていた。
「無理やりさ。色々憶測が飛び交っているが俺はせらぎねら☆九樹と山内が裏でつながっているって情報を知って、絶対ろくでもない企みがあると調べていた。だが責任者が変わり、俺は無理やり契約解除された」
「その節はすいませんでした。こちらにも事情があったので…」
「事情だと! どんな事情があるって言うんだ!? お前が事務所に来てから多くのライバーが引退や契約解除するはめになっているんだぞ!」
「落ち着いて下さい宮野さ…いえフウライさん」
激高する宮野をつばさは抑える。
「つばささん! こいつの方を持つのか!?」
「そう言うわけではないですが、今は冷静に彼の意見を聞くべきだと思うんです。せらぎねら☆九樹さんほどの方が何も考えが無いとは思えないんです」
「つばささん、ご理解が有って助かります。勿論そのつもりで画面を越えてここに来たのですから」
せらぎねら☆九樹はノートパソコンを樒から受け取り、プロジェクターを起動させて説明を始める。
「まず初めに言うと、このサバイバル生活は選定のために行われた『余興』でしかありません」
「余興!? ギリギリの金で極貧生活をさせたサバイバルが余興だと言うのか!?」
「極貧とは失礼ですね。仕事も出来ず今日食べる物も寒さもしのげる建物すらないホームレスよりはまともだとは思っていたのですが…」
「そう言えば九樹さんは初期でホームレス生活をしていた動画をあげてましたね」
太田はその事を思いだしせらぎねら☆九樹の言葉に納得する。
「ご視聴ありがとうございます。それで話に戻しますが、私はある企画をするための参加者を選ぶためにサバイバル生活を君達にさせていました」
「企画?」
「その名は…『ぺル・ゲーム』」
「『ペル・ゲーム』ですって!?」
名前を聞いた蒼空つばさと宮野次郎は青冷める。
「なにそれ?」
「2年前私が行っていた賞金獲得ゲームですが、余興が過ぎてしまってしばらく開催できなかったんですよ」
「…あんた、あのゲームがどれだけ危険だかわかっているのか!?」
宮野次郎は今にも殴りかかりそうな勢いでせらぎねら☆九樹に詰め寄る。
「既に宣伝も出しています。放送は年明けの1月半ばを予定してます」
「…先ほど危険と言っていたが、どういうゲームなんだ?」
「それは当日に説明いたします。その方が楽しみも増すでしょう」
「何が楽しみだ…!」
宮野次郎は思い出したくないと言う表情でしかめっ面を浮かべた。
「太田さんは何か知らない?」
「さぁ、人気があるのは知っていたけど、九樹さんのアーカイブが観れなくなってどんなゲームかは…」
中井は太田に質問するが、詳細は知らないようだった。
「九樹さん、ペル・ゲームは対戦相手が必要だけど相手は了承しているの?」
「対戦相手?」
「ええ…」
つばさは詳しくは言うことはできないと付け足し、ペル・ゲームは対戦相手のゲストが持ってきた金額を勝てば倍増して賞金にさせるゲームであり、主な参加者は金をもて余している富裕層だったと言う。
「もっとも殆ど勝つ相手はいなかったし、九樹さんが賞金を貰うことが多かったわ」
「そこまで知っているならどうしてゲーム内容を話してくれないの?」
あずさの質問につばさは答える。
「聞かれているかも知れないでしょ? 九樹さんがいるとは言え、ここはまだサバイバル生活の会場何だから…」
「あっ…」
その事に気付きあずさは失念していた。
運営サイドの責任者がいるとはいへ、多くの人間が関わっているこのゲーム。もしかしたら自分達の会話が盗聴されている可能性も捨てきれないからこそつばさは詳細を言わなかったのだ。
「最も私がいる間はカメラを止めていますが、スタッフがみな良心的とは限りませんしね。お気づかいありがとうございます」
「いいえ、疑うのは当然だと思いますし、それよりどうして私たちがペル・ゲームへの参加を認められたのかを説明してくれませんか?」
「ええ、あなた方というより私は伊藤清志君の事を買っているという感じです」
「僕が?」
「君のことは動画を通してつぶさにみていた。ゲームやイベントに対する冷静で確実に処理する能力、他人との協調性、そして状況判断を即座に行う洞察力。それらはきっとペル・ゲームにも生かされる」
「はあ…」
「そしてペル・ゲームはチーム戦の賞金ゲームだ。君には是非とも司令塔、リーダーとして参加してほしい」
「僕がですか?」
突然の申し出に清志は困惑したが、
「良いんじゃないの?」
あずさはその案に肯定した。
「付き合いは長くないけどこいつは誠実だし、自分の意思を伝えて行動できる。私は少なくともこいつを信頼している」
「私もだわ」
中井も同意する。
「清志君は信頼してもいい人間だし、良くわからないけどゲームは苦手だから私も彼がリーダーなら安心できる」
「…ボクも中井さんがそう言うなら」
太田も中井の意見に同意を示した。
「いいのかよ。つばささん…」
「…九樹さんの推薦と言うなら私はとやかく言う必要はないし、それにライバーや元ライバーの私達より、一般人の彼なら相手も油断する可能性もあるわ」
「あんたがそう言うなら…」
蒼空つばさと宮野次郎も合意する。
最終的に全員、清志をリーダーとしてペル・ゲームの参加をすることを決めた。
「所で九樹さん。少しいいですか?」
「何でしょう?」
「賞金の件はどうなるんですか? このゲームは選定だと言うことですが、賞金の5億は…」
「それは勿論準備してるさ。私は約束は守る。さて、君達の対戦相手だが…」
せらぎねら☆九樹はそう言ってプロジェクターにPC操作である人物の画像を写し出した。
「女性?」
「彼女は【神崎美波】。神崎家の長女であり、華族で資産家。このゲームで私は彼女を破滅に追い込むつもりだ」
そう呟くせらぎねら☆九樹の仮面の下にある表情はどこか怒っているように思えた。