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第48話『せらぎねら☆九樹』

『せらぎねら☆九樹』が配信者になろうと思ったのは人々にエンタメを与え、容易にメッセージを与えられると考えたからだ。。


親戚の元で学生生活を送り、大学を卒業するとアパートを借りて彼は一人暮らしを始めた。

個人で消費者金融を運営している知り合いから金を借りて必要な動画撮影機材を購入後、動画投稿チャンネルを開設した。ちなみに金はすでに返している。


今よりも動画投稿化の収益化は緩かった。せらぎねら☆九樹はチャンネル設立初期、自ら体を張って撮影・製作した動画は瞬く間に伸びて収益化に至った。


『ジャンクフード1万円分食べてみた』

『1週間水だけ飲んで断食してみた』

『ホームレス生活を1月してみた』

『海岸でゴミ拾いながら宝探しした』

『1万円使い切るまで野外生活してみた』


と言った動画が特に人気であり、僅か3か月で登録者は50万人に及んだ。当時は人工音声ボイスを使った解説やゲーム実況が盛んだった中ではかなりの異例だった。


経済学部を出た彼はどんな動画を出せば伸びるのか学生時代から考えていた。

動画配信者や投稿者の殆どは自らがゲームをする姿、歌を歌ったり、企画をしたりして動画作り登録者を増やしていく。彼は『どんな動画を作ればみられるのか』より、『視聴者は何を求めて動画を観ているのか』と言う視点で考えた。


そしてたどり着いた答えが『動画内に潜む暴力性』であった。


動画のジャンルは違っても視聴者が多く見るチャンネルは競争・レスバと言った形を変えた争い、また動画内にいるタレントの苦しむ様を見て楽しんでいるという事がわかった。


せらぎねら☆九樹は自ら体を張ってそれを証明し、第2段階として今度は自ら企画したイベントで人々を競わせることを考えた。


彼が『Lure‘s』を結成させて傘下に置いたのはその為だった。


彼女達はアイドル活動をしながらゲームで競ったり、体を張った検証企画や罰ゲームイベントをすると更にチャンネル登録者は伸びて半年で200万人を突破。『Lure‘s』のチャンネルも60万人まで登録者が増えた。


「ただ競いあわせるのではなく、より感情移入させやすい女性タレントを使って企画した方が伸びる」という自論が当たり、せらぎねら☆九樹のチャンネルはトップへと上り詰めた。だがこれらは全て過程に過ぎない。


彼は参加者を募集し、賞金を懸けたゲーム企画をするようになった。

視聴者は金の為にくだらないゲームに必死になる参加者の様子を見て愉悦を得て、さらなる自劇を求めて彼の動画を観る。無限のサイクルが作られせらぎねら☆九樹の視聴者は刺激を求めこぞって登録し、日本を超え海外の視聴者にも注目されていた。


近年のバラエティの規制強化により過激さのかけた内容に飽きていた者たちはせらぎねら☆九樹の企画は新鮮であり、登録者はついに1年後には1億人に到達することになった、


多くの人々が視聴し、影響を与えるようになったせらぎねら☆九樹は次の段階に移った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


彼は当時国会議員に過ぎなかった山内茂にコンタクトをとったのだ。


『今より多くの国民から支持を受けれる簡単な方法があります』


その言葉に最初は懐疑的だった山内だったがせらぎねら☆九樹の話に最終的に納得し、


『動画投稿者。配信者は自分達政治家にとっても利益がある存在である』


として彼と結託し、動画投稿者達をまとめ上げるプランを立てた。その頃の動画界隈はバーチャル次元のモデルを使う『バーチャルライバー』が勢力を広げており、彼らが所属する事務所を統括しせらぎねら☆九樹を責任者とした。


そこから動画投稿者を公務員化する『公共配信者』制度を作り、彼らを組織化し自分達の意のままに操る存在にした。


Lure‘sの面々はよくあの山内を説得できたと言われたが、


『たやすい事さ。政治家が行動を起こすのは自分にとって利害が出る時、もしくは自分にとって都合が悪い時だ。普段は亀もあくびを書くような鈍足差だが、利益につながることに関しては誰よりも早い』


政治家という人間を理解しているせらぎねら☆九樹にとって山内は利害の一致で手を組みやすいと算段していたのだ。


一方で山内も若い世代の支持者が欲しかったためせらぎねら☆九樹の話を受け入れることにした。


せらぎねら☆九樹は山内と言う政府の後ろ盾を得ながらライバー達のトップに立ち、その影で自分が最も幸せだった時間を破壊した紫龍院教の黒幕たちを探し、真相を突き止めていた。


口八丁で出まかせの宗教で集金をしていた紫龍院教の元信者達を突き止め、自ら企画する賞金ゲームに参加させ、彼らを破綻させていった。所詮は金が欲しい連中、楽して金が欲しいという浅はかな思考は元金を倍増できるという企画に簡単に釣られ、彼らは全ての金を吐き出され、一文無しとなり地獄に叩き落とされた。


それもそのはず、彼らが参加するときは必ず主催者であるせらぎねら☆九樹が勝つような細工をされている。そんなことすら気付かず大金を賭けている姿は滑稽としか言えないだろう。


彼は最終目的の達成に向けて山内と結託し、多くのライバーから嫌われ、視聴者を魅了しだまし続けた。


全ては神崎を倒すために、この世界の闇と戦う仲間を得るために。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―せらぎねら☆九樹の屋敷。


新たな企画を書いてい九樹は部屋に置いていた植物に水を与えていた。


「九樹様、それは何の植物なのですか? とても大切にされていますね」


彼は微笑みながら答えた。


「〈セラギネラ〉だよ。私の義母が好きだったんだ。実家を片付けていた時、持ってきたんだよ」


といって彼はセラギネラの葉をなでた。


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