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第45話『大金の行方』

―蒼空町・公園


ゲームクリアから数日後、桝谷は外部に連絡を取るためある人物とコンタクトを取っていた。


「阿久津。相変わらず悪徳弁護士しとるんか?」

「…正義とはこの世の人の数だけある。私はそう思いますがね」


阿久津正義。

彼とは警察時代に何度かかかわったことのある人物であり、弁護士の中でもかなりキレ者であることを知っていた。


「お前の事や。どうせ外部とコンタクトする方法をどうにか用意しとるんやろ」

「さあね」

「頼みがある。どうしても連絡が取りたい奴がいるんや」


桝谷はどうしても「クラキシゲオ」、そして「カンザキコウタロウ」の事が気になった。仕事で培われた第六感が調べろと疼いている。外部にいる情報屋のツテがあるのでどうにかして連絡を取って知らべたい。

 阿久津正義の事はゲーム前から知っていたが、あえてほおっておいた。もし協力するとき、『こちらも容認していたのだから少しくらい聞いてくれてもいいだろう』と言う理由で彼に依頼できると考えていた。


「もしそれが運営の連中にばれたらお前もただですまんやろうな」

「全く、これだから警察ってのはやり辛い」

「で、実際の所どうなんや?」

「…あまり大きな声はやめてください。盗聴されるかもしれないので」


阿久津はそう言って桝谷をさも友人の様に誘い『実は昨日から風呂の調子がおかしいので見てもらうことにした。彼は腕のいい技術者で偶然知り合った』という事にして盗聴不可能な風呂場で通信機器を使わせることにした。


「流石悪徳弁護士。口が上手いもんやな」

「正論が必ず正しいとは限らないんですよ」

「確かにそうやな」

「これで貸し1つですからね」


風呂場で通信機器を借りた桝谷は知り合いの情報屋に連絡をした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


清志、つばさの他のチームも順番にクリアしていき【クインテッド・ソウルズ・ゲーム】を攻略していった。


その期間参加チームが出した動画によりゲームは話題となり特設されたダウンロードサイトは一時期パンク状態になるほどだった。


【クインテッド・ソウルズ・ゲーム】を遊んだ者たちは不快感を残す者、フリーゲームとしてよくできているという者。このゲームの元となったネタを探す者が溢れていた。


良くも悪くもLure‘sの梅村流香が出したフリーゲームとして話題になった。


一方で桝谷の方ではあることが分かった。警察時代から古い付き合いのある情報屋は『今回限りで縁を切らせてもらう』ことを条件に調査報告が阿久津を跨いで伝われた。


「神崎幸太郎は表には決して出ないこの国の個人総資産ランキングトップにいる。そのことは金を使って黙らせている。更には全国の企業の株式の株の100パーセント中20パーセントは奴の所有だと言う」

「まさに闇の大富豪と言うわけやな」

「このことを調べ上げた情報屋は敬服しますよ」

「あいつはその気になれば犯人の居場所やその奥さんの使用する下着のメーカーまで調べれる有能なやつやったからなあ」

「それ故に敵を増やして生きづらいのでもうこの世界から去りたいそうですね」

「残念やなあ」


【神崎幸太郎】の情報をまとめた書類を渡すと。次に【クラキシゲオ】の情報を出す。


「こちらなんですが、私も最初見た時は驚きました。彼はどうやら川尻栄作を殺害した倉木明菜の息子だそうなんです」

「義理の息子!? まさかやろ! 倉木夫妻には子供はいなかったはずや!」

「ええ、血縁ではありませんが、養子縁組を組んでいたそうなんです」

「義理の息子ってことか!?」

「そうですね」


阿久津は用意した書類を渡した。


「倉木夫妻は子供に恵まれず、両親に愛されなかった親戚の子供を引き取り息子同然に育てていました。警察が知らなかったのは事件の数か月前に倉木明菜が〈クラキシゲオ〉を養子縁組から外していた為でしょう。クラキシゲオはその後倉木氏が残した数百万の金を頼りに遠い親戚に預けられていた」

「だからわからなかったんや。だけどどうして倉木はそんな事を…」

「…彼女にも、情があったのでしょう。血が繋がっていないとはいえ実の子の様に育てた息子を巻き込みたくなかったという所でしょうか。実際の所はわかりませんがね」

「ええんやないか。その方が母親らしい理由で…」

「それと、最後に神崎幸太郎の周囲の関係であることがわかりました。奴の娘である【神崎美波】とその従妹である【室山加奈】。彼女らが紫龍院事件の金の一部を所有しているという事です」

「何やて!?」


阿久津から説明された桝谷は驚きを隠せなかった。


【室山加奈】は紫龍院教の教祖・川尻栄作の愛人であり太田福士とは別に信者から得た金を渡されていた。その額は被害額の半分ほどの額と推測されている。【室山加奈】はもらった金を宝石や金品にしたり、土地を買って豪邸にしている。

今は【神崎美波】と結託してアパレルメーカーの会社を経営しているが、それは資金をカモフラージュするために作ったと言われている。


「これは私の独断で調べましたがそのアパレルメーカーは毎年同じ額の利益率と税金になっています。明らかにおかしいです。利益はその時の状況に応じて赤字になったりするのですから。とはいえ金はほとんど使われているので残されているのは推定50億程だと思われます」

「残っとるんやな!? わずかでもええ!! あの事件で多くの被害者が貧困に苦しんでいるんや!少しでも戻ってこれるなら彼らを救うことが出来る!」

「…ですが話はそう簡単ではないですよ。彼女らは【神崎家】の庇護の元にいます。その50億は言うなら頑丈な金庫の中にあるような状態。引き出すことはほぼ不可能でしょう」

「それがなんやっていうんや! あの事件の被害者は泣き寝入りし今日の飯も食えんような状態なんやで!」

「ですから、あなたの力だけでは不可能です。なので協力者が必要でしょう」

「協力者だと…?」

「はい。予想外の方が協力してくれることになりました」


阿久津はそう言ってスマホ画面に表示する。


「こいつは…」

「彼と結託すれば金を戻すことが出来ます」


阿久津の提案に桝谷は悩んだが、乗ることにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―阿久津の法律事務所


「なあ、なんで俺を助けてくれたんだ?」


弁護士事務所にいるのはサバイバルゲームに失格になった小坂学人だった。失格後、彼は借金300万円を支払うために建設現場の下請け作業場で住み込みで働かされていた。だが事務所の職員が彼の借金を肩代わりし、彼を事務所に運んだのだった。


「まあ、あなたのようなクズを救うのはこちらとしては不本意ですが阿久津先生の指示なので…」

「阿久津さんが?」


小坂は出されたカツ丼を頬張りながら話を聞く。


「あなたは何度も先生に助けてられますよね? 先生でなければあなたは今頃刑務所に今もいるような社会不適合者。最もまともな企業はあなたを雇おうとは思わないでしょうが」

「うるせえ! 俺だって好きでやったわけじゃねえ。金さえあれば俺だって普通にすごしていたんだ!」

「犯罪歴さえなければベーシック・インカム制度を受けれたというのに…。後先考えないガキの考えでいるからこうなるんですよ」

「俺に説教を垂れる気か!」

「そう言うわけではないです。あなたの置かれている状況を説明するためです」


阿久津の部下である田井中は阿久津は自分のツテを使い小坂を保護観察の名目で今事務所に置いているという事。そしてその代わりに阿久津の依頼に従い行動してもらう事を伝える。


「あの弁護士俺に何をしようって言うんだよ…」

「それはこれから阿久津先生が指示を出します。それまであなたは事務所から出る事は許しません」

「なんだと!」

「最も、一文無しの宿なしのあなたに行く当てなどないでしょう。ご両親からは絶縁され、警察にも顔が知られているあなたの味方などいないでしょう」

「くっ…」


図星を言われ小坂は反論できなかった。


「こちらの指示に従えば3食と寝泊まりくらいは保証しますよ」

「わかったよ…」


小坂は首を縦に振るしかなかった。



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