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第42話『ルーツ』

7人のライバー達をゲームで下し、世間からはゲームも上手い総理大臣として若い世代からも支持を得ることに成功した山内はインターネットを通じて山内茂という存在の大きさをアピールし、盤石な体制を作りつつあった。


―都内・山内邸


周りがコンクリートの塀で覆われ、丁寧に刈られた緑の芝の庭を歩いていくと、2階建ての豪邸がある。


「お帰りなさいませ旦那様」

「うむ」


ハウスキーパーが山内から荷物を受け取り、戸を開ける。山内は帰宅するとスーツを脱いで普段服になった。


「あなた、おかえりなさい」

「ああ…」


山内夫人はカジュアルな服装でスマホを弄りながらテレビを見ていた。


「内閣総理大臣になって大変でしょう? あまり無茶しちゃだめよ?」

「お前こそ、苦労をかけてすまんな」

「いいですよ。政治家になった時から覚悟していましたから」

「何かあればハウスキーパーに頼みなさい」

「ええ。最近葉山さんと良く話をしていてね。後、魁人が久しぶりに遊びたがっていたって重幸が言っていたわ」

「ああ。休みが出来たらすぐにでも会いに行くよ」


魁人は山内茂の孫である。息子の重行と山内の実家に遊びに来ることが多いおじいちゃん子であった。


「なんでも算数のテストで100点とったんですって」

「そりゃ凄い。さすがワシの孫だ」

「重行も褒めていたわ」

「今度欲しいものをかってあげないとな」


そんな日常的な会話をしていた時だった。


「ご主人様、お話し中に失礼します」

「どうした?」

「今日の午後にご主人様宛てに小包が届きまして…」


そう言って使用人の女性は山内にダンボールの搬送物を渡した。


「ああ、そう言えば清水さんはまだ働いて3か月だったな。この住所はワシの実家からだ。次からは部屋に置いてくれればいいから」

「ありがとうございます」

「ワシは部屋にいるから用があったらよんでくれ」

「はい」


そう言って山内は書斎に荷物を持って向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―山内の書斎


「懐かしいな」


ダンボールを開けると中には手紙とビニールに包装された干し芋が入っていた。


「母さん、いい加減こっちで暮らせばいいのにな」


山内の母は90歳と長生きであり、交通もインフラも不便な田舎で暮らしていた。何度も一緒に住むことを提案しているが、亡くなった山内の父への思いがあり出たくないとのことだった。今は年に数回会いに行き、手紙でやりとりをしているくらいだった。


干し芋を頬張り、過去の景色が浮かんでくる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―今から70年前。第二次世界大戦が終わり復興の時代に山内茂は生まれた。


父は戦地から運よく生き延び母と結婚した後は田舎で農家をしながら生活をしていた。父は帰った当初は周囲の人々から『臆病者』と罵られていたが男での足りない田舎では重宝されていたので次第に認められるようになったらしい。


学校すらない田舎で山内はお寺の僧侶から文字の読み書きを他の子供達と一緒に教わっていた。


『これから時代は大きく変わる。知識は何にも勝る財産となるでしょう』


僧侶のおかげで子供も労働するような社会で山内は文字の読み書きや知識があり、彼は後にずば抜けた頭脳で社会に出ることになった。


15歳になると都会に働きに出る人たちが多かったが、山内は父の知り合いからその学力の高さを生かすべく大学に行かないかと言われた。


山内は大学に行くため、知り合いの力を借りて上京し、その足掛かりに高校に通うことになった。


高校に在学中、田舎の良心から仕送りがあったがお小遣いの額が急に増えたのが不思議だった。彼が在学中に鉄道会社が線路を作り、彼の田舎を発展させたそうなのだ。何でも石炭の鉱脈が見つかり、発掘するための会社が出来て仕事が多くなったとか。


不安もあったが両親が無事なら大丈夫だろうと思い彼は勉学に励んでいた。


だが、それから1年経ったある日。父が亡くなったとの手紙が来た。

その時、父は炭坑の管理者をしており怪我をした作業員の救助中に落盤に巻き込まれ死亡したとのことだ。葬儀が淑やかに行われ、父が死んだ実感がわかなかった。


その後山内は信じ難い話を聞いたのだ。父や田舎の人々を雇っていた会社は煙のように消えて、責任を管理者である父の監督不足であると擦り付けたのだ。

父の知り合いは弁護士を雇い裁判を起こしたが、会社の親元は海外の事業化であり、責任者が来ない限りはどうにもできないと。


事情を知っている周囲の人々は母を攻める事はしなかったが、炭鉱は廃れて人が去っていき田舎はかつて以上に寂れていった。


山内は田舎に帰ろうと思っていたが、父の為にも大学に行って立派な人間になってほしいという母の願いもあって高校に通い続けた。勉学だけでなく、肉体の鍛錬として武道もたしなんでおり、全国大会にでるまで極めていた。その甲斐もあって大学は推薦合格し、卒業後は公務員として野党で働き、政治に対して興味を持っていた。


仕事が休みになったある日、ふと母のことを思い出し実家に帰ったことがあった。


そこに待っていたのは以前よりも廃れた景色であった。母曰く、鉄道を管理する会社が赤字により廃線を決定し、それ以来この町に来る人間も少なくなり、生活するのに苦しくなってきたから都市に移り住む人が多くなった。かつて学び舎で、子供たちが集まっていたお寺も今や捨てれてしまっていた。


もうこの集落に住む人間は母を含めて10人にも満たないとのことだった。


「国の都合で人を呼び、国の都合で滅ぼすのか…」


発展の為、底をつくまで掘りつくされた廃鉱、人を呼ぶために集落の土地を買い作られ廃線された鉄道。残されたすべてが、社会の発展の為に犠牲となった者たちの残骸に見えた。


そうまでして得た資本主義、国民主体の政治が織りなす社会はどうなった。無知蒙昧な国民が納得いかない政治に意見し翻弄させ、資本を密かに独占したい政治家共が都合のいい意見を並べ、搾取するようになった。脆弱な社会になってしまった。

このままではいずれ日本は駄目になるのではと不安になった。


「ワシがそうはさせん。ワシがこの国を管理し、強国にして見せよう。真の実力者が評価される真の日本帝国に…!」


戦後の経済発展で血の滲む努力の末に世界に追いついた事を過去にしてはいけない。口ばかりで自ら動こうとしない乞食達が楽する社会にしてはいけない。

そんな奴らは名も知られずに静かに朽ち果てていくがいい。


「この山内茂が総理大臣になったからには、実力者だけが評価される社会になるのだ」


山内は残った干し芋を冷蔵庫に保存し、明日のスケジュールを確認した。


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