10月も半ば。世間はかぼちゃのジャックオランタンが並ぶハロウィンの季節になった。飲食店やイベント店ではコスプレをした店員が集客のためにハロウィンキャンペーンを行ったり、お菓子を貰いに来る子供達にお菓子を渡すサービスをしたりしていた。
その余波はサバイバルゲームにも訪れていた。
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ライバーである大江戸華美(本名:花田梨華)とチームになり生活を始めた清志達。先ずは全員の所持金を確認し、残り6か月となった
清志達は互いに所持金を出し合い、生活費を分担するために合計を確かめた。
伊藤清志・所持金、52万円
東雲秋穂・所持金、39万円
マルガリータ・フェルスキー、所持金:44万円
チャン・フェイヤン、所持金:38万円
大江戸華美、所持金:14万円
5人の合計は187万円。一見余裕があるように見えるが所持金から家賃・光熱費が抜かれていくと考えると心もとない。話し合いの結果、清志が金の管理をしマルガリータが生活費、華美が食費を担当することになった。
賭博が好きだと紹介されたが、大江戸華美は自炊をするのが得意であり意外と家庭的であることが分かった。
「母がお世話になったわ。今日からは私が清志を助けていくからおろしくね」
「こちらこそ」
秋穂は清志の顔を見て嬉しそうにほほ笑んだ。
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10月の半ばになって変わったことがある。
それは仕事が全員解雇になった事。蒼空町での仕事は外部から委託されてきたものであり、期間が過ぎれば終わる契約だった。
清志も夜勤が終わり、収入が無くなった今所持金を切り崩して生活するしかない。数日生活して仕事が無くなると途端に暇になり、掃除などの火事が終わると暇になることが多くなった。
大江戸華美はパソコンを使って動画を作っているらしく、マルガリータとチェンはその手伝いをしている。秋穂は黒江アリスのいる家に遊びにいっていることが多い。
清志は主に一人でいる事が多かった。女性グループによるコミュニティが作られ、孤立している状態になってきた。時間があれば携帯ゲームを弄ったり漫画を読んだりするくらいだった。家にいずらくなると公園に散歩に行ったりしていた。
(仕事があった方がマシなんて感覚がくるってきてるな…)
深夜の仕事がきつくやめたいと思う事もあったがいざ無くなるとどこか喪失感を感じる。思考をするのも億劫になり天井を見ていると、
「おい清志。ちょっと手伝え」
「はい?」
大江戸華美が清志を呼び、リビングに連れていかれた。
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せらぎねら☆九樹から新たなイベントに関する連絡が来た。
【ハロウィンコスプレコンテスト】
6チームはそれぞれ所属している女性参加者のコスプレ写真を取り、所定のメールに送付する。コンテストで1位になったチームには10月の家賃が無料になる権利が与えられる。
他のチームも必死になっているだろう。
「つばさやエミリーのチームはもう出しているし、後はうちだけだぜ」
特設ページにはハロウィンコスをした蒼空つばさや、悪魔娘コスのあずさや葵、格ゲーキャラコスをした中井洋子もいる。
「男性のお前にアタイらのコスプレを評価していい奴を送ろうと思っている。衣装はもう用意してるから」
華美がそう言うと、魔女のコスプレをした秋穂が部屋の奥から出てきた。
「どうかな清志君?」
黒を基調としたハロウィンカラーのオレンジが混ざり合っている衣装が、幼さが残る秋穂に相性がいい。笑顔が素敵な魔女の見習いのような感じだ。
「可愛くていいと思いますよ」
「ありがとー!」
素直な清志の言葉に秋穂は喜んだ。
「次は私達です!」
「これで男どもをイチコロですヨオ!」
マルガリータはバニーガールの衣装を、チャンはスク水にパーカーと過激な衣装を着ており、意気揚々とポーズをとる。
「久しぶりに見たアニメの動画のキャラにこんな衣装を着た人がいました!」
「ジャパニーズアニメ大好きデス! これで家賃ただも間違いなしネ!」
背が高く、日本人よりもふくよかな胸とくびれのあるボディラインが生かされた素晴らしいコスプレだ。
「清志君! これなら私達優勝できますか!」
「絶対優勝できますよネ!」
「悪くないと思います…」
気まずそうに目を背けて清志は感想を言う。
「大トリはアタイだ! これで審査員の奴らも釘付けだぜ!」
大江戸華美はフリルのついたメイド服のコスプレをしていた。
「男どもはメイド服に目が無いからな! これで優勝は間違いないぜ」
華美はそう言って自信満々にメイド姿を皆に見せる。
「い、良いと思いますよ」
どこか納得のいかない部分があったが清志はとりあえず合意した。
「萌えがたりないですヨ」
「可愛いけど華美さんが着ると何か違いますう」
「あ!? 何が違うんだよ!」
女性陣にはあまり好評ではなかった。
「何か無理して若作りしてる感が否めないのよね」
「まだ若いわ! おばさんちゃうわ!」
「別におばさんとか言ってないんだけど‥」
「清志! まだアタイは若いよな!?」
「え、ええ」
華美の圧に押されて清志は同意の返答をする。
「華美さんはもっといいコスプレがあるはずですよー」
「せめて猫耳つけるんでース!」
「おいやめろお前ら!!」
マルガリータとチェンは華美を可愛くしようと模索し始めた。
「可愛く撮ってね!」
「あ、はい」
清志は秋穂に言われていい写真を撮るよう協力した。
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―せらぎねら☆九樹宅
「見てください九樹さん! 今年はもっと可愛くしたんですよー!」
「オレは嫌だっていったんだけどよ」
「2人ともお似合いですよ」
ハロウィン用の動画を編集していると、楠は天使のコスプレをし、梅村が悪魔のコスプレをして九樹の前に現れる。
Lure‘sのメンバーも季節に合わせてハロウィンキャンペーンをしており、ファン限定にコスプレ画像をプレゼントするキャンペーンをやっていた。
「季節もののイベントはある意味楽よね。企画することが絞られるから」
柊はチャイナ服を着てコスプレをしていた。
「ハロウィンって今は食品会社と動画投稿者の為にあるようなものね」
樫本はソシャゲに出てくるヒロインのコスプレをして皆に飲み物を配っていく。
「ライバー達も企画でハロウィンになぞったゲーム企画が出来るし、料理動画を出しているライバーはかぼちゃ料理やスイーツ系の動画を出しているしね」
樒は露出度が高い魔女のコスプレをしている。
「ところで、どうしてここでコスプレを?」
「九樹様に観てもらいたいからに決まってるじゃないですか!」
「無理やり着せ替えられた」
「気分転換よ」
「その場のノリ?」
「あなたのやる気が出るかと思って」
九樹の質問にそれぞれ応答する。
「そう言えば参加者の人たちはコスプレ写真を送ってきたんですか?」
「家賃がタダとなればみんな送ってきますよ」
参加者から送られる写真を、サバイバルゲームを視聴している上層階級の人間達が見て投票していく。参加者にも投票が入りライバー達と互角な勝負をしている。
「華美さんにはあまり票が入りませんね…」
「この人はコスプレを舐めてるのよね。とりあえずこれ来ていれば男性受けするんだって言うのが」
「それも大江戸さんの持ち味みたいなところもあるので仕方ないですね」
投票数をまとめ、九樹は新たなイベントの準備を始めていた。
「俺の作っていた奴が遂に実装されるのか」
「ええ。梅村さんのおかげで面白くなりそうですよ」
ハロウィンイベントが盛り上がる中、サバイバルゲームも新たなイベントが始まろうとしていた。