蒼空つばさ達が会議室に集まる1週間前。
「もう我慢できない! ストを起こして抗議しましょうよ!!」
「落ち着け剣崎、そんなことしても奴らの反感を買うだけだ」
剣崎を八坂は諫める。
「だけど八坂さん。このままだと俺達ライバーはずっと政府の言いなりのままだぜ!」
「俺だってこのままじゃ悪いと思っている。だから仕事を終えた今、フリーになる時間帯に集まっているんじゃないか」
八坂は貸し切りにできる料理屋に剣崎を含めた現体制に反対している者達を集めていた。
総勢10名。チャットでの話し合いは盗聴される可能性が高いので、飲み会と偽装できるこのやり方を選んだ。他にもメンバー入るが今は集まっていない。
なぜそれほど反対している者達がいるのかと言えば、【公共配信者】になってライバー達に制約が出来た事だろう。具体的には
・給料が固定給になった事
・配信時間は朝9時から夜22時までとする事。
・土・日・祝日の配信は原則禁止とする事。
・月に1度「社会貢献活動報告動画」を上げる事
・役職による管理体制。
が主な事である。
これまで活動すればするほど貰える報酬がどれだけ働いても固定化されたので、モチベーション低下に繋がっている。配信時間の制限は夜に配信をしていたライバー達に影響を与えている。休日の配信禁止は登録者を増やす機会を失わせており、社会貢献活動動画は動画ネタという体をした労働力の確保である。
役職を決められたことによって動画関係以外の仕事も増えるので、負担が増えてしまっている。
これらの事が重なりライバー達の不満は溜まっていった。
「こんなの俺達の配信活動を助けるどころか妨げになっている! だからこそ今俺達は立ち上がらなきゃならないんだ!」
「だがどれだけ俺達が反対意見を上げても、せらぎねら☆九樹と山内を会社から追い出さない限り変わらない。九樹だけ追い出しても政府とつながりのあるライバーを適当に代わりにするだろう」
八坂はそう言ってテーブルの上に書類を置いた。
「奴らを失脚させる弱みを握って会社を変えるしかない。例え俺達はマニアックな知識があることだけが取り柄でも、力を合わせればどうにかなるはずだ」
「八坂さん…!」
「先ずは奴らの情報を知るべきだ。とりあえず今そろえるだけの情報を集めてきた」
まず出されたのはせらぎねら☆九樹と山内茂に関する情報である。
『せらぎねら☆九樹
本名不明
年齢不明
出身地不明(本人曰く「雪がめっちゃ降るところ」らしい)
誕生日8月8日(配信を始めた日を誕生日にしており、本当の誕生日は不明)
最終学歴:帝国立パラダイス産業大学(自称)
好きなもの:おいしいラーメン屋の炒飯
身長:アラサー中間管理職くらい
体重:アーモンドチョコ10.000個分
・視聴者にエンタメを届けるためにライバーを始めた正体不明の配信者。参加した人も見た人も楽しめたい』
「なんていうかプロフィールも意味わからないですね。というか事務所がよくこのプロフィールでOK出したのが凄い…」
「まあ、こういうプロフィールが曖昧なのもライバーらしさだからな。それでこっちが山内のプロフィールだ」
『山内茂
年齢:65歳
出身地:関西
誕生日:9月2日
身長:173センチ/体重76キロ
最終学歴:某国立大学経済学部卒業
所属する政党:日本の未来を考える党
大学卒業後は政治家として野党で下積み時代を過ごし、現在は内閣総理大臣候補として政治の第一線を行く最も有力な政治家である。
最近は経済の活性化のためにインフルエンサーとしてライバー達を支援する政策や各種中小企業を支援する政策を進めている』
「彼は中小企業への対応もそうだが、自営業への理解も多くライバーに対しても理解が深いという印象があるから若年層からも人気がある」
「表向きだけだろ。実際は俺達を支配下に置きたいだけの守銭奴じゃないか」
「政治家何てそんなもんしょ~」
葛城はノー天気な声で応える。
「結局の所あいつらは自分達が利益を得れる事に関しては一生懸命になるんすよ。今回はそのターゲットが俺らになったって事っスよね?」
「まあそう言うことになるな。特に山内茂はその傾向が高い。オレが仕入れた情報によれば奴は政治資金を得るために作ったカルト教団で起こった【紫龍院事件】にも関わっているって話だ」
「【紫龍院事件】ってどんな事件なんです?」
若いライバーの成瀬が質問する。
「教祖の男が信者の家族に殺害された事件なんだが、その事件は山内がもみ消すために起こしたのではないかという話だ」
「理由とかあるんすか?」
「その事件が起こったのが。山内が選挙で当選した次の日に起こったんだ。奴がいた組織内では当選のために密かに裏金を回していたらしく、その資金源がカルト教団に収められたお布施から得られたと言われているんだ。証拠はないが自分のいる党が選ばれるために資金繰りを担当していた山内が怪しいと噂されている」
「政治家と宗教が裏でつながっているのはありがちな話っスよね~」
「奴とて全ての証拠を隠せるほどの力はないはずだ。それを探し出せば弱みになって奴を失脚させるための材料になるかもしれない」
「やれるだけやりましょうよ。俺達の配信を取り戻すためにも!」
皆は一致団結して活動を開始した。