目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第27話『ベーシックインカム』

月末近くなると市役所には多くの人間が集まる。

無職、就活者、ホームレス、シングルマザーなど生活に余裕がない者達が支援を得るために集まる。


「受け付けはこちらです! 最大17時まで対応いたしますので順番にお並びください!」


職員が大声で誘導し、訪れる人々は皆整列していく。


「早くしろよ!」

「金が無いと今日飯食えないんだって!」

「仕事が無いんだから助けてよ!」


怒号飛び交う中、人々は皆整理券と書類を手にして受付に駆け込んでいった。


「では受理しだい給付金を振り込みますのでよろしくお願いします!」

「頼むよ! もう昨日からもやししか食べてなくて死にそうなんだ!」


訪れたみすぼらしい風体の男が去っていく。その後、受付に他の職員が声をかける


「交代の時間です」

「ああ、頼む」


大勢の人間を相手にして疲れた職員が交代に来た職員と変わり休憩室へ行って飲み物を飲んだ。


「毎月この時は殺到しますね」

「まあベーシックインカム制度を利用する奴は多いから仕方ないだろう」

「働きもせず金を得るなんて大した奴らですね」


ベーシックインカム制度。

月々の収入が無い人に毎月11万ほどの必要最低限の生活費を給付する救済制度である。元々は社会復帰のために施策したモノだったが、今では多くの人間が楽をしたいがために使っているのが現状であった。


「こっちは汗水流して働いているのにいい気なもんですよ」

「仕方ねえさ。誰だって働くのは嫌だからな。働きもせず楽して金を貰えるなら誰だって利用したい」

「政治家は何を考えているんですかね…」

「まあ、ああいう社会の役に立たない連中を飼いならすためだろう」

「飼いならす?」


若い職員に、ベテランの中年職員が得意げな顔で答える。


「以前から社会格差が問題になっていただろう。その度にデモを起こったりメディアじゃ絶えず政策の不平不満ばかり報じている。そんなことがずっと続いたら血を流す事件が起こる可能性だって捨てきれないだろう」

「はあ…」

「それにだ。人間得手不得手あって公平にするなんざ不可能だ。それだったら仕事のやる気のない奴や足を引っ張る奴には金をやって生活させた方が良いじゃないか。仕事ができる奴同士で手を組んだ方が効率が良いというものだろう」

「それはそうですね」

「それにベーシックインカム制度を組んでいる奴は生活にある程度制限がかけられているし、全部が恵まれているわけじゃない。制度に甘えるも自立するのもそいつ次第ってわけよ」


ベーシックインカム制度を利用する人々は給付金を毎月貰えるが、社会的信頼に欠けていたり貯金があまりできなかったりで、ギリギリの生活を強いられる。それでもいいなら制度を受け入れるという例が多い。


「まあ、所詮は他人の人生だ。その責任はそいつになるんだから俺達は上の言われたとおりに動いてりゃいい」

「はあ」


飲み終えた容器を片付けると2人は仕事に戻った。


――――――――――――――――――――――――――――― 


「白石心結さんですね。ベーシックインカム制度を利用するのは初めてですか」

「はい。とりあえずここに行けばいいと聞かされまして…」

「かしこまりました。身分証明書はお持ちですか?」


母親とケンカして家出した心結は、友人宅に数種間ほど泊まってベーシックインカム制度のことを聞き、生活の拠点を作るために利用することにした。


「マイナンバーカードなら…」

「はい。では一度お預かりしますので、こちらの書類に記入をお願いします」


手渡された書類に心結は淡々と必要事項を書いて空欄を埋めた。


「ではカードはお返しします。給付金は早ければ今月末になる来週に指定の口座に振り込みますのでよろしくお願いします」

「ありがとうございます」

「住居が無いとのことでしたが、生活課の方へ行って手続きをすれば専用の生活施設への入居手続きをしますので、そちらに行ってください」

「わかりました」


書類を手渡され、心結は生活課に行き居住施設の手続きを済ませた。


――――――――――――――――――――――――――――――――― 


手続きを済ませた心結は職員の車に乗って案内された。

住居は市で運営している築20年のアパート。改装されているため作りは新しくなっており、1LDKと狭い内装は明るく暮らしやすくなっている。


「こちらの施設は制度を利用している方は月1万円となっております。そのほかに電気代とガス代、水道代が月々に支払い対象となっています」

「はい」

「何か相談がございましたら管理者か、もしくは職員の電話番号へご相談ください」

「わかりました」


職員が説明を終えて帰っていくと、心結は部屋に持って生きた荷物を置いた。着替えや持ってきた生活用具、中古ディスカウントショップで買った電子レンジを置いた。


「今日からここが私の部屋か…」


スマホを見て、友達から遊びの連絡が来ているが今日は疲れたのでまた今度連絡することにした。


暫くすると玄関チャイムが鳴り、扉についている丸い小さな覗き窓から相手を見て、心結は部屋に入れた。


「南先輩、お疲れ様です」

「白石。ここがアンタの拠点ってわけね~。とりあえず引っ越しおめでとう~」

「ありがとうございます先輩こそ~」

「臨時収入が入ったから今日は朝まで飲もうよ~」

「あざまーす!」


南から酒を貰い、心結は一緒に過ごした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?