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第25話『Lure‘sの休日』

グアム。

日本から飛行機に乗って約4時間。時差は1時間ほどあり時間と金があれば旅行に行きたい場所として人気の観光地だ。


1週間の休みを取り、せらぎねら☆九樹とLure‘sのメンバー5人はグアムへ着いてホテルに荷物を置くとプライベートビーチで海水浴を楽しんだ。


「うーん気持ちいい!」

「綺麗な海で泳ぐのが楽しいです!」


柊と楠はビキニ水着に着替えて泳いでいた。陽の光に照らされたスタイルの良い肉体が眩しい。


「あいつら元気だな」

「良いじゃないですか」

「九樹君は泳がないの?」

「私はカナヅチなんですよ。それに見ている方が好きなので」


ビーチパラソルの下でリクライニングチェアに寝ながらせらぎねら☆九樹は2人を見て、その横で梅村と樒、柊が日焼け止めクリームを塗りながら寝そべっていた。


「ドリンクをお持ちしました」


使用人が注文したドリンクを持ってきてテーブルに置く。


「お食事はどうされますか?」

「後で食べるから大丈夫ですよ」

「かしこまりました」


せらぎねら☆九樹はジュースを飲み、ノートパソコンを開いた。メールフォルダには変人済みのメールと山内から来たメールしかない。


『蒼空町の開いたアパートをいつものように使わせてもらう。行く当てのない非正規雇用共を住ませる小屋としてな』

「了解しましたっと」


メールを返信すると、山内から送られたメールを削除した。


「私も泳ぎにいこーっと」

「気を付けてくださいね」

「子供じゃないんだから大丈夫よ」


柊が黒い髪を揺らして泳ぎに行った。


「九樹様。お隣いいですか?」

「いいですよ」


泳いできた楠が九樹の隣にリクライニングチェアを置いて寝ころぶ。


「九樹様。海外旅行に連れてきていただきありがとうございます」

「皆さんが頑張っているからですよ。私は少しでも皆が楽しめればと思っただけです」

「実際楽しいからな」

「そういって梅ちゃんさっきからパソコンでゲームしてばかりじゃない…」


梅村はノートパソコンをテーブルに置いてゲームをしていた。


「ダウンロードしてずっと積みゲーになっているゲームもあるからよお。こういう時にやっとかないといつまでもほっといちまうからなあ」

「撮影の休憩中もゲームしてるじゃない」

「あれは動画用の編集してるんだよ。今のご時世ただプレイしたゲームを垂れ流してもウケないしな。視聴者の眼も肥えて来てるから工夫が必要なんだよ」

「生配信もありますけど、夜時間の配信が無くなりましたからね」

「九樹。それどうにかなんねえの?」

「上が決めた事ですからねえ」


公共配信者は規則により日中9時から夜中の10時までの間の最大8時間までの配信しか認められていない。これは深夜時間の配信によるライバーへの身体への悪影響を防ぐことと視聴者の夜型生活による健康の悪影響を防ぐためである。


「だけどよお。深夜の生配信だからできることとかあるしよお。なんとかあの山内ってジジイに言ってくれよ」

「まあ、なんとか規制緩和できるようにしてもらうしかないですかねえ。私達のチャンネルだけ特別扱いするわけにもいきませんし」

「九樹様はお優しいのですね」

「別にそう言うわけではないですが、あまり富を独占すると余計な争いをしなければいけないのが嫌なんですよ」


九樹はアイスコーヒーを飲んで、スマホを見る。


「余裕ある生活があれば後は植物の様に穏やかな生活を送りたいんですよね」


画面には様々なライバー達の生放送の様子が再生されている。


「色々な放送がありますね」

「体張ってたり意味不な縛り内容でゲーム配信したりなんかよくわかんねーな」


楠ろ梅村はその内容をみて何とも言えない表情を浮かべる。


「彼らは怖いんですよ」

「何がですか?」

「『誰にも見向きもされなくなる』という事にです」


九樹はそう言ってお菓子を口に頬張りアイスコーヒーを飲んだ。


「単純に生活でき成るだけじゃない。ライバー達は視聴者に観られ評価されることで自尊心を保つんですよ。彼らの殆どは社会に馴染めなかった者や挫折して社会に戻ることを恐れている者。彼らが生きていくためには視聴者に観てもらわなければいけない。たとえそれが自分の身を削るプライドを捨てることであってもね」

「…まあ、観てもらわなきゃ仕事も貰えないしな」

「そうですね…」


アイドルグループである楠と梅村は何となくその気持ちを理解する。地下アイドル家業をしていた時はとにかくお客に観てもらわなければならないと必死になっていた。

九樹のおかげで今は余裕のある生活を送れているが、彼に出会わなければ今も地下アイドルをしていたかと思うと胸が苦しくなりそうだった。


「だけどよお、今はオレ達を見て欲しいんだよな」

「そうですね」


梅村と楠は九樹の腕を掴み体を摺り寄せる。


「新調したんだぜこの水着。お前に観てもらいたくて」

「私もですよ。九樹様」


梅村は黒色のセクシーなビキニを着ており、楠はフリルのついたクロスのビキニ水着を着ていた。


「ちょっと、あまり九樹君を困らせちゃだめよ」

「樒さんの水着の方が困りますが…」


楠は褐色肌に映える白のマイクロビキニを着てアピールする。


「九樹さんの1人占めは禁止―!」

「仲間外れにしないでよー!」


久しぶりの休暇をせらぎねら☆九樹とLure‘sは楽しんだ。





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