『Lure‘s』。せらぎねら☆九樹のチャンネルにでてくるアイドルグループだが、彼女らはアイドル活動の他にせらぎねら☆九樹の動画編集や雑務をしていた。メンバーの1人、柊が水着コンテストの名目で送られた参加者達の写真を動画で紹介できるよう編集していた。
「はあ~。素人だから仕方ないとはいえ映えるようにするのは大変」
「そう文句言わないの。素人だからこそプロにはない良さがあるものよ」
樫本はそう言って柊の机にジュースを置いた。
「専門になったらなったで五月蠅くなるし、気楽でいいじゃない」
コーヒーを一口飲み、樫本はパソコンを操作してメールをチェックした。
「2人はまだ来てないの?」
「打ち合わせがあるから遅れるって言ってたわね。もう少しで来るはずだけど」
「九樹様が来るまでに編集は終わらせたいから早く来て欲しい」
柊は愚痴をこぼしながら編集に戻った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―オフィスビル・廊下
「結構時間かかりましたね」
「仕方ねえって。全国ライブツアーのスケジュールだったからよう。柊と樫本も昨日時間かかったから許してくれるだろう。後日に全員揃って打ち合わせもするし」
「だけどうれしいですね! 活動5年で全国ツアーに行けるなんて!」
歩きながら楠と梅村は話をしていた。
彼女達のアイドル活動は地下アイドルから始まり、バイトをしながらの下積み生活だった。安い月給で生活費やコンサートを小規模ながら行ったりして、共同生活をしていた。
転機となったのは活動2年目でせらぎねら☆九樹の話を聞いてからだった。
『このまま地下で埋もれるのはもったいない。君たちはもっと上を目指してみないか?』
最初は疑ったが、動画サイトで活動する話を聞いて、このままうだつのあがらない地下アイドル活動を続けるよりもチャンスがあると思いせらぎねら☆九樹と共に活動を始めた。
世間はバーチャルライバーに注目している状況であり、Lure‘sはその波に乗って九樹と共にトップライバーのアイドルグループになった。
九樹による企業案件のコネもあってLure‘sの名前は業界に広まっていった。
安アパートで共同生活をしていた時が嘘のように今は金も時間もあり充実している。
「大変なこともあるけど、こんなに自由に生きれる幸せなんてないだろうな」
「頑張って来てホントによかったと思います」
楽しい会話をしていた時だった。
「随分楽しそうだな」
「剣崎さん…」
先輩ライバーである剣崎が恨めしそうな目で2人を見る。
「アイドルだかなんだか知らないがせらぎねら☆九樹の金魚のフンってだけで注目されているお前達を配信者だなんて認めないからな」
「…!」
「てめえ…! わたしたちだってなあ…!」
梅村が剣崎に殴りかかろうとした瞬間
「何をしてるんだ」
「九樹様…!」
偶然通りかかった九樹に驚く楠。
「せらぎねら☆九樹!」
「彼女達が無礼を働いたなら私から謝罪する。ライバーである以上リアルのトラブルは避けないといけないだろう?」
「申し訳ありません」
「後で話を聞くから控室に行きなさい」
「はい!」
楠と梅村は控室に向かった。
「剣崎さん。彼女達も見えない場所で努力しているんです。ライバーであればそれくらいのことは察せれるでしょう」
「どうだかね。政府の人間と関係のあるあなたの連れだ。信用できない」
「…それに関しては私の責任もあるが、彼女達は一切関係がない。これ以上話すことが無いなら失礼させてもらいます。それと、私に意見があるなら直接言っても構いませんが、決定権があるのは上層部にあるという事をお忘れなく」
「ほざくなよ。権力者の犬が」
今にも一触即発の空気が流れる中、剣崎は去っていき九樹はLure‘sの元に向かった。
「と、その前に行くところがありますね…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
―Lure‘sの控室
せらぎねら☆九樹のオフィスに隣接している控室。各自大型ロッカーと着替え部屋が用意され、冷蔵庫・電子レンジの家電があり、雑貨の収納、作業用の机、冷暖房クーラーと充実した内装が完備されている。
「あなたも来てたのね」
「ええ。今日は全員揃って久しぶりに話ができると思いましたので」
樒が合流し控室にはLure‘sのメンバー5人が集まっていた。
柊詩乃、樫本藍子、楠茉利菜、梅村流香、樒莉愛の5人のメンバーで構成されており、それぞれが得意なことを生かし活動をしている。
「さっき剣崎の奴に絡まれて散々だったぜ」
「私達って同業から嫌われてるんですね…」
「気にすることないわよ」
気負いする楠に柊が声をかける。
「そもそも配信をしているなら肯定ばかりじゃなく否定的な意見も貰うものだわ。あの男の言葉もそう思ってた方がいいよ」
「ありがとうございます…」
「そうだぜ。これから全国回るんだから気にして体調不良しちゃだめだぜ」
「流香ちゃんもありがとう」
「それで、九樹君はまだ来てないの?」
樒は九樹が来てないのが気になる。
「そろそろ来るはずですが…」
楠が時計を見ていると、
「すいません。遅くなりました」
「九樹君。遅かったわね」
「ちょっと対応しなきゃいけないことがあったので」
「…さっきの私達のことですか?」
「ああ、それとは違うから気にしないでください」
そう言って九樹は鞄からチケットを取り出して皆に渡す。
「これって飛行機のチケット?」
「はい。全国ツアーを前に皆さんに休暇はどうかと思いましてね。宿泊施設は貸し切りで予約を入れていますし、休暇届けはもう皆さんの分を出しましたから」
「それで遅れて来たんですね」
「マジかよ! 九樹も行くのか!?」
「ちょっと私もサバイバルゲームの運営に疲れましてね。何かあったらスタッフの方々に色々対応してもらうように伝えておいたので」
「やったー! 久々の旅行だー!」
「九樹さん大好きー!」
皆は旅行に行けることに喜び、仕事を終えた後休暇の準備のために帰宅した。