面接ゲームに合格し、地下に閉じ込められたペアの東雲優子との再会を果たした。
「清志君! 信じていたわ!」
「ありがとうございます」
他のペアも再開を果たし喜んでいたが、舛谷平太はペアを組んでいた親友の島雄二がいないことに気付きスタッフに尋ねた。
「奴はお前が不合格予想をした。そのため失格になったんだ」
「バカな! 雄二が俺を信用しないわけが!!」
「だが現実そうなった。これ以上は私もどうもできない」
「ど、どうしてだ雄二…!」
舛谷は動揺を隠せないが、失格した参加者との連絡は取れないので事情のわからないままになった。
合格したメンバーにはそれぞれ仕事が分け当てられ、翌日から仕事が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―深夜・蒼空町工場
「それでは何か異常があれば即報告してください。安全作業を第一に、丁寧かつスピーディーに。作業を開始してください」
「はい!」
まとめ役の部長の言葉により作業が始まる。
清志のあてがわれた仕事は夜間の工場清掃である。日中は業務用スーパー及びコンビニエンスストアに出荷される冷凍食品を作り、稼働停止する夜間に機会を分解して翌日の朝には稼働できるようにする。
仕事を始める前に負担になったのは仕事用に必要な作業着と長靴などの装備品をそろえる事だった。工場清掃に使う洗剤は強力であり、手袋をしなければならないし、大量の水を使って清掃するので濡れないようにするための作業着も必須だ。
その装備品は全て自前なので、約2万円の出費をすることになった。
清掃は手順を覚えるのに時間がかかり、部品も分解しても全て金属製なので重量があり運ぶのが困難である。
夜勤に慣れているとはいえ、重労働故に体の負担はかかった。
労働時間は休憩なしの5時間。長時間の労働による肉体への負担への配慮を考えての事だった。時給は夜勤手当入りで1100円。5時間で5500円。それが週5日なので1週で27500円。1か月が4週あるので月給は11万円である。
本来ならその11万が正当な時給だが、時給から食品配給費や各施設維持費が経費として中抜きされ。時給は1時間250円となり、月に貰える額は24.000円となる。
低賃金だが、月に引かれる家賃等の額を考えればわずかでもありがたいだろう。少しでも手持ちの金が増えるのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
清志が夜勤を初めて1か月が経過した。
仕事を覚えてなんとかタスクをこなしているが、若い清志があてがわれるのはきつい作業がある場所である。他の作業員は厳つい顔をした中年や年寄りばかりである。
作業をしながら彼らとも話をしていく中で、仲が良好である「タジマ」という男からこの町の事について話を聞いた。
というのも、この町にどうして参加者以外の労働者が来ているのか、そもそもなぜこの町の事が世間に知られていないのか疑問に思ったからだった。
「この町はな。俺達貧困層と、俺達を雇う富裕層にとって都合のいい町なんだよ」
タジマはこの町に20年前から臨時作業員として雇われているフリーターであり、過去に会社を解雇され、金銭の窃盗を理由に逮捕された。そして過去に犯罪歴があっても雇用可能な今の状況になっているというのだ。
「まともな賃金で作業員を雇っていれば会社も赤字だろ? ここじゃあ人件費を掛けずに労働力を得るために集められた俺達のような社会のつまはじきにされた奴らが仕事をする場所なんだよ」
「そんな秘密が…」
「まあ、俺を含めた労働者は他に行く場所もないんだよ。面倒だから正規の雇用を案内してくれる施設からは煙たがられるし、だからってホームレスになるのは嫌だ。低賃金でも一応住む場所と3食の飯は出してくれるしさ…」
「ベーシックインカム制度は…」
「悪いが、犯罪歴のある俺らは初めから門前払いなんだよ」
この世を恨めしく思う表情でタジマはつぶやいた。
どんなにまじめに働いて立ち直ろうと思っても世間はそれを許してくれない。金が無ければ更生する以前に生活すらままならない。だからこのような訳ありの仕事をやるしかない。
「あの日の俺に言いてえわ。盗みなんかするもんじゃねえって…」
だが過去は変えられない。自分が犯してしまった罪は罰を受ければ法的に許されても、やった事は一生付きまとう。
「キヨシとかいったかあ? 俺が言うのもなんだがお前さんは悪いことはすんなよ。目が綺麗なお前はまだ何もしてないんだろ?」
「は、はあ」
重い一言だった。
この町の秘密を知ったが、それでもサバイバルゲーム生活のために仕事をしなくてはいけない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―外界・繁華街の路地裏
蒼空町の外、失格にされた島雄二はとある人物と会っていた。
「舛谷はまだ先生を追っているんですか?」
「へえ。奴の執念深さは並大抵のものじゃないんで」
「全く。おとなしく隠遁生活を送っていればいい物を」
苦虫を潰した表情で、山内茂の秘書は島雄二と話していた。
彼は山内が送ったスパイだった。自分に害成す者が現れた時にそれを通報する役目をするための役割をする使い捨ての駒である。
島は金で雇われて、舛谷を心の奥では裏切っており山内の手中にいたのだ。
「全くでさあ。大人しくしていれば金は手に入るのにとんでもないやつで」
「その言葉、そのままお前に返すよ。長い付き合いの友人を裏切るとはな」
「そりゃ友達より金が大事ですよ。奴の監視をする代わりに借金のチャラと報酬をくれるなんてさあ」
「まあ、仕事はしてくれたんだ。このことは絶対に口外するなよ。後は彼女が相手をする」
そう言って彼はタクシーを呼んで中に乗っていた胸元の開いたセクシーな服を着た女性に後の事を任せた。
「はーい!お客様はこちら?」
「気の向くまで相手をしてやってくれ。先生のご厚意だ」
「ありがたいねえ! 野郎とずっと一緒だから女遊びをしたかった所だ!」
「ウチのキャバクラ、今日貸し切りだから社長さんの相手するわよ~♪」
島雄二はキャバクラ嬢と共に去っていった。その後山内に連絡を入れる
『ご苦労。あの男は別の奴が始末をつける。お前は次の仕事をしろ』
「了解。ああいう富裕層に利用されるしかない男の末路など考えたくないものだ」
富裕層、一部の上層部に身を委ねながら参加者達の運命も揺れていく。