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第19話「面接・清志編」

より多くの報酬を得ようとする面接官たちにより、参加者は皆応答に苦しんだ。


「こちらの水着を着てもらえますか?」

「…はい」


モデルであることを理由にあずさは水着に着替えさせられたり


「フェルマーの定理について説明できますか?」

「あー…少し時間はかかりますが…」


高学歴アピールで合格しようとして、履歴書に【東大出身】と嘘の経歴を書いた小坂は難しい質問をされ、しどろもどろになっていた。


面接が進むたびに質問の難易度・過激さはエスカレートしていき、最初はためらいのあったへるどっく♡猫鳥も次第に強烈な質問をするようになっていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


半数の面接が終わり、ついに清志の番がやってきた。


「会議室に入ってください」

「わかりました」


スタッフの指示に従い清志は会議室にノックして入った。


「失礼します」

「どうぞお座りください」


中田に指示さて清志は椅子に座った。


「では早速面接を始めます。伊藤清志君は工業高校を卒業したそうだが、高卒だと面接は不利だとは思わなかったのかい?」

「はい、確かに大卒の方が有利だと思いますが私はコンビニで働いていたので、その場で培われた接客スキルや専門知識を得るための勉強法を会得しましたので、入社後に研修をした後には即戦力として活躍できると考えております」


質問に対し、清志はずぐに応答し返した。


「はあ…なるほど。その言葉期待しています」


中田は思った反応と違い動揺するが、次の質問のために自然な流れを作る。


「では私から質問ですが、私がお客様だとして店側の不手際を理由に『土下座をしろ』と言って来たら土下座をしてくれますか?」

「いえ、土下座はしません」

「それはどうしてですか? 丸くおさまるのであればするべきではないのですか?」

「だとしてもそれは一時的なしのぎにしかなりません。お客様には謝罪をするのは当然として、なぜ不手際が起こったのかを上司に話してトラブルが再発することを防ぐのが最低限必要だとおもいますし、一度そのような事を許してしまえばそのお客様は他の店でも同じことをするでしょう。そうなれば従業員の方だけではなく、その店舗を利用する他のお客様にも不快な思いをさせてしまうでしょう」

「な、なるほど」

「ですので私は土下座を要求されたら先ずは上司、必要があれば警察を呼んで解決し、再発を防ぐのに努めたいと考えます」

「わ、わかりましたありがとうございます」


清志の応答に面接官はたじたじだった。これまで質問を投げた相手はしどろもどろに応えていたが、彼は明確な言葉で返してくるので苦戦していた。


それもそのはずだった。

清志はゲーム参加前までコンビニ夜勤をしていた彼は厄介な客の応対や、無茶な要求にある程度応えていた。今更彼らの質問に動揺する事もなかったのだった。


(くっ…。こいつこれまでの参加前みたいに慌てふためかない…!)


3人目の面接官である南はどうすれば清志を困らせる質問が出来るか考える。


「では、次は私から質問しますがいいですか?」

「はい」


思いついた南は早速面接を始める。


「清志君は異性と同じ職場で働いた事はあるかしら? 男性と女性は役割が違うし、職場恋愛とかしたら問題になるじゃない? 男女平等とかいうけどやっぱり女性の方が男性より不利だとは思わない?」


南の質問に少し考え、清志は答える。


「私は平等でなく、公平であることを求めれば不利ではないと考えます」

「公平?」

「確かに南さんの様な意見は世間に浸透していますが、生まれもった差はある限り平等にすることは不可能かもしれませんが、個々の適正にあった仕事をすることが職場に浸透すれば公平になり有利不利は無くなっていくと考えます」

「はあ…」

「私は以前コンビニで働いていましたが、接客や搬入などの多くの仕事がありましたが男性と女性関係なくできてましたし、夜勤等の危険がある時間帯は男性である私や他の従業員も担当していて、日中は女性の従業員が担当することで安全を確保するように適材適所で活躍できる場を作ることがまず必要だと思います」

「わ、わかったわ…」


清志の答えに南も反論できずにいた。


「では、続いて私からの質問ですがいいですか」

「はい」


仁科は少し考えて清志に質問をする。


「コンビニに勤めていた経験のある清志君に質問ですが、もし君がコラボでラーメンの商品を出すとしてどのようなラーメンを出しますか?」

「ラーメンですか?」

「味もトッピングも君の自由です。名前は【ラッキーラーメン】で固定します」

「そうですねえ…」


清志は仁科の質問に応答する。


「醤油ラーメンをベースに、具材はチャーシューを多くして、なると、味玉、そして刻んだ豆苗をトッピングします」

「豆苗とは珍しいですね」

「豆苗は安いですし、スープ系に入れれば彩にもいいと思うので」

「なるほど、それは私も試してみたいですね。ありがとうございます」


仁科は納得したような表情を浮かべて質問を終えた。


『じゃあ最後は私だよ!』


へるどっく♡猫鳥が清志に質問する。


『この面接を終えても、まだまだサバイバルゲームは続いていくよ♪ 君は最後まで生き残れる自信はあるかな?』

「最後まで生き残る…」

『そうだよ♪ 私が聞いた話だと、このゲームに生き残った最後の1人が賞金を得れるみたいだね。途中で離脱すれば、それでこれまでの頑張りは無駄になるんでしょ? 』

「可愛いアバターながらシビアな質問をしますね」


猫鳥の質問は言うなら清志の未来への問いかけだった。既に生活が始まって90日程の月日が経過した。残る生活の中で必ず生き残れる保証はない。だがそれでも清志の回答は1つだった。


「自信があるか無いかと言ったら。無いになります。こういった事態は今まで無かったですし、それは参加している皆さん共通の悩みであると思います。しかし、最後まであきらめることはしません」

『それは何でかな?』

「折角得られたチャンスを無にしたくないからです」

『チャンスを…』

「勝ち残れば人生を変えるための大金が手に入る。これまで借金を返して生活していく人生しかなかった私に二度とないチャンスです。だからダメかもしれないより、与えられたチャンスを精一杯やりたいという気持ちがあります」

『そうなんだ…。うん! きっとうまくいくと思うから頑張ってね! へるどっくちゃんは応援するよ!』


清志の答えに猫鳥は戸惑ったが、その真摯な答えに感銘した。


「…それではこれで面接は終わります。そちらからどうぞ」

「はい、貴重なお時間をいただきありがとうございました」


清志は面接を終えて会議室から出て行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


面接を終えて会議室で5人は清志について話していた。


「なんていうか…。あの青年はこれまでの参加者と違うな…」

「ええ…。私達が失ってしまったものを持っているというか」


履歴書に書かれた清志の経歴。それは決して特別な物ではないが、彼は今を一生懸命に生きている。うだつの上がらない日々を受け入れ、夢を叶える野心もなくした自分達にはあまりに眩しい存在だった。


「お金のためにこの依頼を受けたけど…。もう1度挑戦してみようかな…」

「彼の構想するラーメンについて家で作ってみたい」

『…清志君。受かるといいね』

「受かるだろう。あれだけの質疑応答をできたんだから」


皆清志に対して好感を抱きながらしばらくして次の面接を始めた。


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